津軽三味線の流れる街並みとグルメを堪能。秋の古津軽を巡る旅へ

青森県津軽地域に息づく、古きよき暮らしぶりが追体験できる「古津軽」。町並み、伝統料理、温泉、工芸品など、古くから伝わる生活を楽しむ工夫が、かたちとして今も息づいている、そんな「古津軽」の物語に触れる旅をご案内します。

津軽三味線が流れる町を散策

こみせ通り
黒石市の中町こみせ通りには、迫力あるねぷた絵が並ぶ

 弘前駅から鉄道で約30分の黒石市。古い町並みが残る中町こみせ通りは、文化財に指定された家屋、歴史ある酒造店、お土産屋さんなどが軒を連ねています。その通り沿いには、紙に描かれた色とりどりの大きなねぷた絵が並び、光を通したステンドグラスのように鮮やかでした。※ねぷた絵の展示は2022年11月6日まで

 また土日祝日は津軽三味線の生演奏が通りに響き、旅情をかき立てます。ねぷた絵の美しさ、津軽三味線の迫力ある音色は圧倒的で、ほかの観光地にはない唯一無二の通りです。

 こみせ通りの一角にある手づくり雑貨・体験工房の「IRODORI」は、祭りで使用したねぷた絵を再利用し、うちわや灯篭を販売するほか、灯篭の制作体験も行っています。

うちわ
IRODORI店内の壁に並んだうちわ(2600円)

 祭りが終わると廃棄されていたねぷた絵を有効活用しようと、地元のまちづくりを行うNPO法人がまち歩きツアーの一環でうちわづくりを実施したことが、工房を始めるきっかけのひとつでした。現在、ねぷた絵を保存し再利用しているのは、こちらの工房しかないそうです。

 黒石は道が狭く祭りのとき、沿道のお客さんとの距離が近いことから、ねぷた絵が丁寧に細部までに描かれています。
「黒石のねぷた絵は、ほかの地域よりも細かくて繊細といわれています。だから、小さく切り分けても、1枚1枚が絵になり、うちわや灯篭になっても、1点1点の表情や色合いが異なるのです」(IRODORI・木村正幸さん)

ねぷた絵
実際に広げると大きさと絵の細かさに驚く

 灯篭の制作体験をしていた女性に話を聞くと「意外と簡単にできて、世界で1つだけの作品なので、うれしい」と満足そうでした。こちらでは、かわいい伝統工芸の鳩笛やこけしもインテリア小物として人気です。

庭園文化が実感できる歴史ある美しい庭

せいび館
和洋折衷のモダンな建築、盛美館

 津軽地方では庭園文化も見どころ。平川市では美しい庭園や生垣が保たれています。国指定の名勝「盛美園」もそのひとつ。この地方に数多くみられる「大石武学流」と呼ばれる庭園で、池を中心に「真」の築山、「行」の築山、「草」の平庭から成り立っており、計算されつくされた配置でつくられています。

 この庭園は明治35年(1902年)から約9年かけて造園され、当時、凶作や洪水で苦しんでいた農民を救うため、当主が築庭を行い労働の場を提供したのだそう。

せいび園
大石武学流は津軽地方独特の造園方法。その神髄を表した盛美園

 庭園を鑑賞するために建てた盛美館は、モダンな和洋折衷の建築様式で、建物自体も興味深い細工がたくさん。事前に申し込めば、一般公開されていない2階と空中楼閣もガイド案内つきで見学が可能なので、ぜひ2階からの庭園も眺めて。

「池の奥や左右の庭の奥まで計算されているのですが、意外とみなさん気がつかないんですよ」とガイドさん。案内された先には、正面の日本庭園とは異なる趣の場所も。

 スタジオジブリ映画「借りぐらしのアリエッティ」の参考にもされたこの庭園、壮大さや築庭のおもしろさをより理解できるので、見学時はガイドさんの申し込みをおすすめします。盛美館2階・空中楼閣の見学やガイドさんの申し込みは平川市観光協会(☎0172-40-2231)へ。

古津軽の神社はいい鬼が迎えてくれる

鬼コ
各神社の鳥居に鎮座する鬼コたち

 津軽富士とも呼ばれる岩木山を中心にした津軽地方一円。その岩木山の峰のひとつ、厳鬼山を中心にした地域には「いい鬼」の鬼コ伝説があります。困っている人を助けたり、子どもと遊んだり、鬼はやさしくて頼れる兄のような存在でした。現在でも、災いをはらう、子どもの成長を見守るなど尊い神様として、大切にされています。

 そんな津軽地方の神社の一部には、鳥居に鬼コが鎮座。鳥居を支えながら、災いが集落に入らないようににらみを効かせているそう。色も形も表情も豊かな9体の鬼コ探しは、ほかにはないユニークな体験に。

郷土料理やB‐1グルメで地元の味を堪能

料理
「津軽あかつきの会」が作る津軽の伝承料理

 弘前市石川地区で活動する「津軽あかつきの会」が用意するのは、代々受け継がれてきた津軽の伝承料理。高齢の方々から話を聞くなど調査をし、かつてつくられていた伝統行事にちなんだ料理を、地元のお母さんたちが再現しています。

 食文化の極み、伝承料理を現地で食べるのは旅の醍醐味。地元の新鮮な農産物をふんだんに使った料理や津軽ならでは保存料理など、お母さんたちが数日前から仕込んだ味からは、丁寧さとおいしさが伝わってきます。2~3か月 前には予約が埋まってしまうほど人気なので、味わえたら貴重な体験に。

やきそば
つゆなし、つゆありが味わる「化けそば」(650円)/すずのや

 ご当地グルメでおなじみのB-1グランプリで優勝した「黒石つゆやきそば」もおすすめです。特徴は平たい太麺で、つゆがあること。もともとは、冷えた焼きそばを温かい状態で食べさせたいという店主の思いから始まったそう(※その店は閉店)。

 津軽百年食堂として有名なすごう食堂のほか、中町こみせ通りにある黒石焼きそば専門店のすずのやも行列のできる人気店。すずのやでは、半分ほど残して途中でつゆを入れて食べる「化けそば」があり、1回で2つのおいしさが楽しめるので得した気分になります。

かわいくて思わず欲しくなる古津軽のお土産

まんじゅう
こけしのあたままんじゅう(1836円 8個入り)/おかしのオクムラ 

 オカッパ頭が特徴の津軽こけしは、駅やお店など、いたるところにいます。愛嬌があり、表情も豊かな津軽こけしをモチーフにした「こけしのあたままんじゅう」は、思わずかわいい!と言ってしまうお菓子です。中は黄身あんで皮はしっとり柔らか。包装のシールははがせるので、クリアファイルやノートに貼ってもかわいい。

こぎん刺し
津軽の民芸品「こぎん刺し」。弘前こぎん研究所が製作した、ティッシュケース(990円)、針刺し(770円)/津軽黒石こみせ駅

 こぎん刺しは津軽地方に伝わる刺し子技法のひとつ。弘前市では、こぎん刺しの体験ができる施設もあります。伝統的な図柄はもちろん、現代風の柄もあり、ヘアアクセサリーやコースターなど種類もいろいろ。お土産屋さんや雑貨屋さん、美術館でも扱われているので、津軽らしいお土産にぴったりです。

はとぶえ
津軽の民芸品「鳩笛」。右は伝統的な配色(非売品)、左は、イラストレーター・豊川茅さんが色付けした「はとぶエッ!」(大・4200円)/IRODORI

 伝統工芸の下川原焼きの鳩笛は、江戸時代後半から下川原に伝わった土人形のひとつ。素朴な色づけが特徴ですが、現代風に色づけした「はとぶエッ!」もおすすめ。伝統の配色にこだわらず、自由な発想で彩られた鳩がなんともおしゃれです。

ミュージアムののように楽しめる弘前市立観光館

観光館
弘前市立観光館内の巨大なねぷたは、迫力あり!

 観光情報を入手するなら、弘前市立観光館に立ち寄って。製作体験のできる施設や民芸品が購入できるお店情報を知ることができるだけではなく、館内には巨大なねぷたが展示され、2階には津軽の民芸品紹介コーナーもあり、ミュージアムのように楽しめます。

 ほかにも、大鰐温泉(おおわに)温泉郷や温湯(ぬるゆ)温泉郷など温泉も充実、そして津軽リンゴも絶品。古津軽は、1度旅しただけでは思いが残り、もう1度行きたくなる魅力であふれています。

 現在、町歩きや製作体験などのミッションに参加して古津軽を探す旅のキャンペーンを開催しています。詳細は特設サイト「古津軽ウィーク」をチェックして!

●古津軽ウィーク
開催期間:2022年9月16日(金)~10月23日(日)

■取材協力/青森県観光企画課

<撮影/星 亘(物)、取材・文/カラふる編集部>