グルメも伝統工芸も逸品ぞろい。福井県の話題のスポットを巡る旅

2024年春、北陸新幹線が福井・敦賀まで延伸し、首都圏からの移動時間が一気に短縮される福井県。今回は、全国を駆け回っている薬膳アテンダントの池田陽子さんに、注目を集める福井県の穴場スポットを教えてもらいました。

酒蔵による日本酒と食を楽しむ「ESHIKOTO」

ESHIKOTO
九頭竜川のほとりに誕生した「ESHIKOTO」。今後は、オーベルジュなども建設を予定している

 福井県は木ノ芽峠を境に、石川県寄りの「嶺北地方」と京都寄りの「嶺南地方」に分けられます。この2つのエリアを巡る旅が便利になるのも大きな魅力です。そんな福井の観光といえば嶺北の「永平寺」「東尋坊」、そして嶺南であれば若狭エリアの「カニ」のイメージが強いかもしれませんが、まだまだ福井には隠れた魅力がいっぱい。さらに新たなスポットも続々とオープンしています。とっておきのグルメや伝統工芸品など、これから注目したいおすすめを集めました。

 福井縦断旅はまず嶺北からスタート。福井といえば、数々の銘酒も魅力のひとつ。今年、嶺北エリア・永平寺町にオープンした日本酒と食を楽しむスポット「ESHIKOTO」が大きな話題を呼んでいます。手がけるのは、黒龍酒造を傘下とする石田屋二左衛門。創業より200年という酒造りの長い歴史を誇る同社が、10年にもわたる構想の末に誕生したという施設です。

臥龍棟
臥龍棟。床や壁面には福井の希少な石材「笏谷石」を使用。県内の山林から切り出した、樹齢200年の杉を使った圧巻のカウンターも必見

 九頭竜川をのぞむ10万㎡という広大な敷地に完成したのは、酒の貯蔵庫とイベントスペースを兼ね備えた「臥龍棟」、ショップとレストランがある「酒樂棟」。緑豊かなロケーションにたたずむ両棟は、その建築からこだわりがつくされています。臥龍棟の設計は、イギリスの名建築家サイモン・コンドルの孫であるジョサイア・コンドルによるもの。まるで教会のような厳かで静謐な雰囲気の空間は、随所に福井ならではの素材や、伝統工芸が使用されています。

AWAが貯蔵されたセラー
ESHIKOTO AWAが貯蔵されたセラー

 福井の「アート」なテロワールを感じる空間のなかで、貯蔵されているのは「ESHIKOTO」のオープンにあわせて開発されたスパークリング日本酒「ESHIKOTO AWA」。セラーのなかで、約15か月かけて瓶内2次発酵させます。その味わいは、「酒樂棟」のレストラン「acoya」で堪能できます。酒樂棟の設計は、新進気鋭の建築家・古谷俊一氏によるもの。山や川、棚田など酒造りの原風景を感じながら日本酒を味わう、というイメージで設計された空間からは、九頭竜川と周囲の風景を「絵画」のように臨めます。

レストラン「acoya」
レストラン「acoya」エントランス。壁面には越前和紙を使用

 山や川、棚田など酒づくりの原風景を感じながら日本酒を味わう、というイメージで設計された空間です。

レストラン「acoya」
acoyaで日本酒にあわせるのは、福井県産の食材を使ったフレンチ。永平寺の膳料理にちなんだ「ご膳スタイル」で提供

 隣接する「石田屋ESHIKOTO店」にはESHIKOTO AWA以外にも「永」「石田屋」など、基本的にここでしか販売されていない商品を購入できます。試飲セットをテラスで楽しむことも可能。

石田屋ESHIKOTO店
石田屋ESHIKOTO店。「ESHIKOTO」シリーズなど15種類のお酒がそろう
「ESHIKOTO」シリーズ
「ESHIKOTO」シリーズの「AWA Limited」「永 五百万石」「梅酒13」

越前・鯖江は「ものづくり」のまち

RENEW 2022
訪れたときはちょうど、「RENEW 2022」が開催中。拠点となるのは越前市「うるしの里会館」

 続いて、嶺北エリアを南下して訪ねたのは福井県中部に位置する越前市・鯖江市。「ものづくりのまち」として知られ、越前漆器、越前和紙、越前打刃物、越前焼などの伝統工芸品や、眼鏡・繊維などの地場産業が盛ん。しかも半径10km圏内に集積しています。技術を継承しながら、時代にあわせたものづくりが行われ、近年、33店舗ものファクトリーショップがオープン。ものづくりの担い手として産地に移り住む若手も増えて革新的なアイテムも多く登場している注目スポットです。

 2015年からは、越前市・鯖江市・越前町では、体感型マーケット「RENEW(リニュー)」を開催。ふだん出入りできない工房も開放し、ものづくりの現場を見学、体験したり、販売、展示、イベント、ワークショップなどが行われます。来場者も年々増え、2022年は100社をこえる企業が参加。国内最大級の工房見学イベントとして人気を博しています。

うるしの里会館のランチはほっこりした味わい

地元の食材を使ったさまざまな郷土料理
地元の食材を使ったさまざまな郷土料理が、バイキングスタイルでいただける

 うるしの里会館内にある「椀椀」で地元のお母さん手づくりのランチをいただいて腹ごしらえ。福井ならではの打ち豆、麩のからし和え、すこなどの郷土料理から、伝統的な調味料「山うに」を使ったグリーンカレーは、越前漆器に盛りつけられています。

越前漆器でいただくグリーンカレー
越前漆器でいただくグリーンカレーは、ゆず、赤なんば、塩、鷹の爪を練りこんで作った調味料「山うに」がアクセント

 カラダに優しく、ほっこりした味わいのお料理は、なめらかで手ざわりのいい漆器でいただくとおいしさもひとしお。

※椀椀はイベント時限定でオープン

カラフルな越前漆器は普段使いにも

aisomo cosomo
ポップでつややかな色合いの「aisomo cosomo」シリーズ

 越前漆器は約1500年の歴史があります。河和田地区とその周辺地区には、古くから漆掻きの職人が多くいたこと、良質な材木がとれたことから漆器づくりの技術が育まれてきました。トチノキ、ミヅメ、ケヤキなどを木目に対して直角に挽く「立木挽き」、塗りは深みのあるつややかな光沢に仕上げる「花塗」で知られています。最近では現代の食卓にあった、モダンなアイテムも多く開発。創業1793年、300年以上の歴史を誇る「漆琳堂」には、ベーシックな漆器をはじめ、洋食にもぴったりのカラフルな漆器が並んでいました。

RIN&CO.シリーズ
シックなニュアンスのピンクやブルーが美しいRIN&CO.シリーズ。スタッキング可能で、食洗機にも対応

 レッド、オレンジ、ピンク、モスグリーン…。ハレの日にみる黒や赤の漆器とは異なる表情ですが、昔ながらの刷毛で塗った手塗。伝統の技を駆使してつくられた「普段使いできる漆器」です。手に持ってみるとぬくもりある手ざわり、軽やかさは、まさに漆器ならではのよさ。思わずホッとします。スープやサラダ、ソテーを盛ってみようかな…。毎日のご飯が、うんと楽しくなりそうな漆器たちと出合えます。

越前和紙の美しい風合いに癒やされる

やなせ和紙
やなせ和紙。もともとふすま紙を中心に漉いてきたが2代目の柳瀬晴夫さん、スタッフが新たな商品を開発

 越前和紙も1500年もの歴史を誇ります。美しさと丈夫さを兼ね備え、室町時代は公家や武士の奉書紙、江戸自体には日本一の神の証という「御上天下一」のしるしが押されていたというほどの品質の高さで知られ、越前市大滝町の「やなせ和紙」は、伝統の技を受け継ぎながら、和紙の表現の可能性を模索した商品に挑戦しています。

やなせ和紙
やなせ和紙の商品。左側が、moln。小物入れなどに

 デザイナーとコラボした「moln」はていねいに漉き上げた和紙を、手で包み込むようにつくった箱。スウェーデン語で「雲」という名前のとおり、ふわっとした空気感がありながら、いつまでも見ていたくなるような存在感。工房をお訪ねすると、「干支色紙」の作業中。越前和紙の手すき模様の技術を駆使した作品です。こうぞ、みつまた、雁皮を使用してすいた和紙に、模様をかたどった金属の枠をおいて、色づけした紙料を型の中に流し込みます。

やなせ和紙
金属の枠にカラフルな紙料を流し込む

「ひっかけ」という技法で、和紙に模様を写し取って完成。まるで和菓子をつくり上げる過程のよう。

やなせ和紙
ふたりで息を合わせて、模様を和紙に写す

 来年の干支であるうさぎが、なんともやさしいふわっとした表情で浮かび上がる風景に、心がなごみます。

やなせ和紙
「干支色紙 癸卯」。和紙ならではのやさしい風合いがうさぎのフワフワ感にぴったり

世界中の料理人が愛用する「越前打刃物」

タケフナイフビレッジ
タケフナイフビレッジ。越前打刃物の歴史パネルや道具なども展示されている

 そして忘れてはいけないのが、世界じゅうから注目されている「越前打刃物」。約700年前に、京都の刀匠である千代鶴国安が、現在の越前市で刀剣づくりの技術を取り入れた鎌の製造を手掛けるようになったのがルーツとされています。日本古来の火づくり鍛造技術と手仕上げが特徴で、その優れた切れ味と耐久性で国内はもとより、海外の料理人からも高い評価を得ています。そんな越前打刃物の殿堂ともいえるのが越前市余川町の「タケフナイフビレッジ」。13の刃物会社が集まる共同工房で、鍛冶や研ぎ職人の作業風景を見学することが可能です。

タケフナイフビレッジ
各工房のナイフや包丁なども販売

 鋼を鍛え打つ音が鳴り響く中で、職人がダイナミックに、そして繊細な技を駆使して刃物を仕上げていく様子は圧巻のひとこと。

工房内
工房内。まるで現代アートのような空間
工房内
鋼を高温で焼き、叩いて鍛え上げる
工房内
丹念に刃の部分を研いでいく

  越前打刃物は、高度経済成長期にステンレス包丁や、大量生産の型抜き刃物の普及で売れ行きが低迷する危機がありました。打開策として福井県出身のデザイナー・川崎和男氏を迎えて、伝統工芸品に「インダストリアルデザイン」を導入。伝統の技をいかしつつ、独特なデザインが印象的な「タケフナイフビレッジ」ブランド商品はアメリカやヨーロッパで大きな話題を呼び次々とファンを獲得、成功をおさめます。それぞれの工房はもともと市内に点在していましたが、生産量向上のためにひとつ屋根の下で作業を行う拠点として1993年にタケフナイビレッジが完成。今では世界各国からの注目が絶えず、全国各地から刃物職人を目指して多くの若手が集まっています。

多彩な刃物
ズラリと並んだ多彩な刃物はもちろん購入可能

 ものづくりへの熱き魂。そして長い伝統を受け継ぎながらも、進化を続ける。そんな福井の「ものづくり」の現場をギュッと凝縮して体感できる貴重なひととき。きっと一生付き合える逸品に出合えるはずです。

―[日本全国アンテナショップでゆる薬膳/池田陽子]―

池田陽子さん
薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。宮崎県生まれ、大阪府育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは? という関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。近著に『中年女子のゆる薬膳。』(文化出版局刊)『1日1つで今より良くなる ゆる薬膳。365日』(JTBパブリッシング)ほか、『ゆる薬膳。』(日本文芸社)