神社の始まりを体感しながら参拝!日本最古の神社・大神神社

[JINJA TRIP/仲田舞衣]

“神社を巡る旅”好きライターが、日本全国の神社を紹介。その土地とともに生きる神社の歴史や背景を知れば、もっとその土地が好きになります。第2回は奈良県桜井市にある、日本でもっとも古い神社のひとつとされる「大神(おおみわ)神社」を旅します。

大神神社の大鳥居
高さ32.2mを誇る大神神社の大鳥居。背後に見える円錐形の秀麗な山が、三輪山

神社のルーツは「自然崇拝」

 各地の神社を巡っていると、江戸時代やそれ以前の時代の建物が健在な姿は当然ながら、由緒書きなど神話の時代から1000年、2000年と果てしない歴史を持つ神社がたくさんあることに驚かされます。

「そういえば、一番古い神社ってどこなんだろう?」

 そんな疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。伊勢神宮? 出雲大社? いや、天孫降臨の地、九州では? 確かなことはわかりませんが、とある理由から「最古の神社」を名乗るのが、大神神社です。

 そもそも日本人は、神社という形態ができる以前から、自然がもたらす恵みへの感謝と、天変地異への畏怖の念から、自然の中に大いなる力=神を見いだし、祈りを捧げてきました。いわゆる「自然崇拝」です。これは日本人に限らず人類の信仰のルーツだと言われていますが、神社ほど今も変わらず自然と密接な祈りの形を守り続けている場所はないのではないでしょうか。

 なかでも国土の約6割を占める「山の恵み」は、水源であり、食料の供給源であり、もっとも生活に密接だったのでしょう。特に円錐形の美しい山そのものを神が宿る「神奈備山(かんなびさん)」として、地域の人が崇拝する信仰は、近畿地方から山陰地方を中心に全国各地に点在しています。その代表的な神社といえるのが、この大神神社です。

神聖な「三輪山」そのものが御神体

国重要文化財の拝殿
1664年に徳川家綱が再建した、国重要文化財の拝殿

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【大神神社】
奈良県桜井市三輪1422
http://oomiwa.or.jp/
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 一般的に、神社には神様が祀られている「本殿」があり、その手前に私たちがお参りをする「拝殿」が建てられています。それなのに、大神神社には「本殿」がありません。それは、神社境内の後ろにそびえる三輪山そのものに神様が鎮まっているという考えだからです。

 では、三輪山の神様、大神神社のご祭神である「大物主大神(おおものぬしのかみ)」とは一体どんな神様なのでしょうか? 

『古事記』や『日本書紀』によれば、日本という国を作り、のちに出雲大社のご祭神となる「大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)」が、どう国造りを行なったらいいか思い悩んでいると、海の向こうから光り輝く大物主大神が現れ

「国造りを成功させたければ、私を三輪山に祀りなさい」

 と望んだのだと言います。神社の成り立ちが神話に明記されていることはとても珍しく、大神神社がいかに古社であるかを物語っています。

 また大国主大神にアドバイスできる立場の神様であることからも、「神様の中の神様」=「大神」として古くから尊ばれて来たことがわかります。さらに古墳時代、疫病が流行し、国中の人々が死に絶えそうになった際には、崇神天皇(第10代天皇)の夢に大物主大神が現れ、祭祀を行わせたことで疫病が治り、国に平安が訪れたといいます。

境内にある杉の大木
境内にある杉の大木には、白い蛇が出入りする。大物主大神は『日本書紀』などで蛇に姿を変える伝承が記されていることからも「巳さん」として親しまれ、敬われている

 ここで注目したいのが、疫病が大物主大神の「祟り」として認識されていたことです。国中に疫病を蔓延させる大物主大神の力は、計り知れないものとして畏れられ、以後手厚い祀りが執り行われることになるのです。祟り神としての一面もまた、古代の神々が恵みをもたらすと同時に、災難を招く存在でもあったことを示し、大物主大神への信仰の古さを表すエピソードだと言えます。あらゆる自然現象を神の仕業だと考えた古の人々は、日々の糧を与えてくれる自然に感謝する一方で、人力では防げない自然災害を畏れ、厚く祀ってきました。

 大物主大神は守護と祟り、恵みと災害の二面性を持ち合わせる、まさに自然そのものだと考えられていたのでしょう。

「三輪山」への登拝

 さて、そんな神聖な「三輪山」は、長らく禁則の山として入山が厳しく制限されていましたが、近代になり多くの信者からの要望で特別に入山が許可されるようになりました。

 350ヘクタールの「三輪山」は、松、杉、ヒノキなどの大樹に覆われ、一木一草に至るまですべてに神が宿っているとされています。特に杉の木は『万葉集』をはじめ、多くの歌にも「三輪の神杉」と詠われるなど、古くから神聖視されてきました。大物主大神には「酒造」の神様としての一面もあることから、のちに三輪山の杉葉で造られた「杉玉」は、酒造りのシンボルとして酒屋の軒先に飾られるようになりました。

杉玉
軒先に飾られている杉玉

 今では全国で見られるこうした風景のもとに、「お酒の聖地」でもある三輪山、大神神社の存在があるのです。

 受付を済ませお山に入ると、飲食や火気の使用、またカメラでの撮影は一切禁止されています。高さ467メートル、山頂まで歩いて約1時間程度の神聖な道のりを踏みしめると、古代からこのお山がいかに敬われて来たかを体感することができます。

 台風による災害の多かった2019年、改めて自然への畏怖を感じた人は多いのではないでしょうか。また、令和という新しい時代になり、新たな気持ちで初詣に出かけた人も多いことでしょう。

 自分の生活圏にある氏神様や、帰省先の神社で初詣を済ませた人も、2020年は“日本最古の神社”大神神社をお参りして、自然を尊ぶ神社の成り立ちに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

狭井神社
大神神社の摂社・狭井神社で受付をすることで入山できます。受付時間は午前9時から14時まで。登拝料は一人300円。正月三が日や大祭日、天候により入山が禁止される日もあります。事前に確認しましょう

[JINJA TRIP/仲田舞衣]

神社好きライター 仲田舞衣さん
編集プロダクションを経てフリーランス。好きな神社は、歌舞音曲の神・事代主神を祀る島根県の「美保神社」。編集書籍に『JINJA TRAVEL BOOK』『JINJA TRAVEL BOOK2』がある