伝統工芸と現代アートが融合する「やんばるアートフェスティバル」開催中

―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第37回:池田麻里子]―

全国47都道府県で活躍する女子アナたちがご当地の特産品、グルメ、観光、文化などさまざまな角度から地方の魅力をお届け。今回は池田麻里子アナが沖縄県北部、「やんばる」のアートフェスティバルをリポートします!

コンセプトは自然と人との共存「やんばるアートフェスティバル」

池田麻里子アナ

 2023年1月14~4月9日の日程で、廃校となっている大宜味村(おおぎみそん)立 旧塩屋小学校をメイン会場に、やんばるアートフェスティバルがスタートしました。会場は、やんばる酒造や名護市民会館前など、沖縄本島北部地域一帯に設置されています。

 2017年の初開催から6回目となるやんばるアートフェスティバルのコンセプトは、自然とアート、自然と人との共存です。開催ごとにテーマを設けており、今回のテーマは「シマを繋ぎ シマに響く」。

六田原展望台のコムアイさんの作品
六田原展望台のコムアイさんの作品

「シマ」というのは、島(island)という意味だけではなく、コミュニティー(地域社会)という意味も含まれていることから、日本全国、海外の多彩な「シマ」からやってくるアートを、やんばるで繋ぎ、やんばるで響かせるという思いが込められています。

仲程長治総合ディレクター
自らの作品もオクマ プライベートビーチ&リゾートのガジュマルの木に制作し説明をする仲程長治総合ディレクター

 過去5回の開催では関連イベントも含め、県内外のみならず国外からの来場者もおり、延べ25万人が来場しました。総合ディレクターは初回開催時から継続して、アーティストの仲程長治氏が務めています。

 アートを通じてやんばるの魅力を発信することを目的に、県内外から多くのアーティストが集い、今回はエキシビション部門に30組、クラフト部門に18組のアーティストたちの作品が披露されています。

アーティスト・嘉数義成氏による作品説明
東村(ひがしそん)より、琉球藍の作品を多数展示しているアーティスト・嘉数義成氏による作品説明の様子

 海と生命との繋がり、土地の記憶、ドアレスアート、沖縄復帰の1972年5月15日にちなんだアート、一瞬の経験を切り取る体感作品など、平面、立体、映像と、作品のスタイルは多岐に渡り、今回も見どころ満載です。

400年続く伝統行事のある村で開催

クラフトマーケット
芭蕉布の作品や、沖縄の伝統陶芸作品、やちむんなどがずらりと並ぶクラフトマーケット

 始まりは、実行委員会の主軸である吉本興業ホールディングス株式会社・よしもとエンタテインメント沖縄の代表取締役、和泉かな社長が、県外の地域芸術祭に触れてきた折に、沖縄でも芸術祭を開催できないか、と思ったことでした。

 沖縄のなかでも「やんばる」は、400年以上続く古くからの伝統行事が受け継がれ、「芭蕉布」はじめ継承者が10人に満たない希少な伝統工芸品の復興に力を入れていたため、この地からアートを通してやんばるの魅力を発信しようと、開催の地に選ばれたそう。

「ウンガミ」写真展の一部と近所をお散歩中の方

 400年以上続くといわれる伝統行事「ウンガミ」は1997年に国の重要無形文化財にも指定され、今回はメイン会場となる旧塩屋小学校周辺で写真展が開催されています。

「ウンガミ」は、この地域のノロ(王府時代から、村落の祭祀を司っていた女性で神役を担う)が中心となり、数日かけて執り行われる神事。塩屋湾の海路をハーリー(沖縄の伝統船サバニで海の神様へ豊漁祈願を行う漕艇)で、青年浜へ到着後は陸路で、神道と呼ばれるルートを通って、西海岸の兼久浜へ向かいます。宗家や拝所を回り、不浄を払い一家の健闘と繁栄を祈り、豊年踊りなども祭場で奉納されます。

 塩屋の住宅や売店の壁に迫力あるウンガミの写真が大きく写し出されており、制作途中でも、神事を行なう当時の顔ぶれを近所の住人たちが観ては、「これはどこどこのだれだれさんだ!」などと懐かしんでいたそうです。

平良敏子さんと使用していた道具と芭蕉布の作品

 芭蕉布とは、琉球王国時代から沖縄本島北部に位置する大宜味村喜如嘉(きじょか)を中心につくられてきた織物。王族がまとう衣装として、または清王朝や日本の徳川家への最上級の献上品でもあり、庶民の普段着の着物としても必需品だったそうです。非常に軽くて透けるほどでありながら丈夫で通気性がよく、高温多湿な沖縄の気候にあっても快適に過ごすことができるそう。

 大宜味村喜如嘉で紡がれてきた芭蕉布でできた着物や数々の作品たちは、まさにこの土地や人々を表す工芸品として、アートフェス初期から存在感を放ってきました。

 その芭蕉布の復興と継承に人生をかけてきた人間国宝の平良敏子さんが2022年9月、101歳でご逝去されました。2021年秋に訪れた芭蕉布会館で糸を紡ぐ凛とした彼女の姿が、筆者のまぶたに焼きついています。平良敏子さんを追悼して、彼女が生前毎日使っていた道具や作品たちも展示品として観賞することができます。

体感できる作品や物販、カフェまで盛りだくさん

アーティストのキーニュさんによるビーズで作られた「暖簾」の作品説明
アーティスト、キーニュさんによるビーズの「暖簾」。暖簾とは、空間の境目にありながらも両側の空気が伝わる、壁や窓とは少し違う不思議なもの、と説明

 そのほか、フェスティバルの作品はアーティストたちが数か月かけて制作したものを持ち込んだり、実際に現場で数日かけて制作したもの、名護市内を歩いていてインスピレーションを受けて制作したものも並びます。

体感型のゴミ袋の作品
ゴミ袋の中に入って飛び跳ねる瞬間の体験こそがアートという、チーム「Chim↑Pom」の体感型作品。ゴミの気分にもなってみてとのこと。

 会期中は、作品制作を実際に観られる現場があったり、作品や内容が入れ替わるブースも。タイミングが合えば、参加アーティストのトークショーやフードカーの出現などもあるので、何度訪れても楽しめること間違いなし。購入できる作品や、沖縄の伝統工芸品の物販もあるので、お気に入りをぜひ探してみてください。

購入できる作品も
購入できる作品も

 メイン会場となっている大宜味村旧塩屋小学校は、ここ自体が、もはやアート!と思える個人的なオススメスポットです。一言で言うと「海の中に建っている」小学校。出島の敷地全体に学校が建っているとイメージしてください。

カフェスペースとなっている体育館内のガラス張りの海っぷちの空間

 ナニコレ珍百景に出てきてもおかしくないと私は思っています。そして、出島のまさに淵に建つ体育館に入ると、左側にはガラス張りの空間が広がり(やんばるアートフェス中にはカフェスペースとして開放されています)、足元は50cm先が海です。まるで映画に出てくるような建造物と立地で、そこから望む塩屋湾の絶景には心が洗われます。訪れたら絶対に立ち寄ってほしいスポットです。

カフェスペースとなっている体育館内のガラス張りの海っぷちの空間

 毎回12月~1月にかけて開催されてきたやんばるアートフェスですが、今回は4月に開催される沖縄国際映画祭に繋がるようにと、1~4月までの長期間で開催されます。ぜひ沖縄県北部を、この機会に訪れてはいかがでしょうか。

<取材・文・撮影/池田麻里子>

池田麻里子さん
東京・埼玉・宮崎・沖縄を担当。テレビ宮崎の「スーパーニュース」でスポーツキャスターを務め、J:COMデイリーニュース担当、ネットニュースなどにも出演。現在はFMやんばるにてパーソナリティーを務める傍、やんばる経済新聞の記者としても東奔西走している。話し方・見せ方・聴き方などのコミュニケーション力向上の講座を開き、講師も務めている。

―[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第37回:池田麻里子]―

地方創生女子アナ47
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