下関の新名物「感鯨料理」と海辺の景観を楽しむ旅へ

山口県の名産といえばフグですが、もうひとつの歴史ある水産物がクジラ。新たに登場した「感鯨(かんげい)料理」で注目のクジラ料理と発信の中心地・下関の街をご案内します。

古代から近代、現代へ。クジラ食の文化をリードする山口県

カルパッチョ
クジラ肉のカルパッチョ。スパイシーな味つけがしっとりした赤身を引き立てる

 山口県では、古くから日本海沿岸でクジラ漁が盛んに行われ、クジラ肉を食べる文化が根づいていたと伝えられています。江戸時代にクジラの肉や油などを日本各地に運ぶ中継地だった下関市は、明治以降は近代捕鯨の基地として発展し、捕鯨船の建造や流通・加工など関連産業で栄えた「クジラの街」。1987年の調査捕鯨への移行、2019年の商業捕鯨の再開と時代の変遷を経ながら現在に至るまで日本屈指の陸揚げ港の街としてクジラの食文化をリードしています。

希少な舌や人気の赤身などさまざまな部位を使った料理が大集合

刺し身
鮮やかな赤身、さしの入った尾の身、真っ白な舌、畝須(クジラベーコン)。バラエティ豊かなクジラ肉

 一般に知られているクジラ料理は、赤身のステーキやクジラベーコンですが、皮や尾びれ、軟骨、舌などさまざまな部位を味わうことができます。高たんぱくで低カロリー、皮などには魚介類と同様にEPAやDHAが含まれ、ヘルシーなのも魅力です。

 山口県にはクジラ料理の専門店や看板メニューにする店が数多くあり、料理も多彩。希少な部位を楽しめるのも地元ならでは。これまでクジラ肉になじみがなかった人も山口県を訪れた際にぜひ味わってほしい食材です。

クジラ肉の寿司
クジラ肉の寿司

 そのきっかけになるのが「感鯨(かんげい)料理」。感動する鯨肉料理の意味で、希少な生のクジラの舌などを使った料理を開発し、和洋中エスニックとさまざまなメニューを県内の飲食店で提供する取り組みです。1月末に下関市内で開催された「感鯨料理」のお披露目会には、刺し身やオードブル、寿司、串揚げ、ラーメンなどのクジラ料理が勢揃いしました。

串揚げ
だし巻き玉子など和の定番料理もクジラ肉で個性的なおいしさに

 まずは目玉のクジラの舌を使った串揚げに注目。かつてはその価値に気づかれず食用されなかった部位ですが、近年は「さえずり」の名称で珍味としても人気です。

「加工品以外の生のさえずりは入手経路が複雑で希少。本県で開発した特別の加工技術で下処理したものを調理することで新しい味を追求しました」(山口県農林水産部ぶちうまやまぐち推進課・惠美奈大作さん)。

 ネギと一緒に揚げたクジラの舌は弾力があり、牛タンや牛スジに似ているようで異なる食感。かむほどに味の深みが増し、ジビエをいただいたときのように新しい味覚にわくわくします。

中華
クジラ肉を芯にした中華風の一皿
ラーメン
クジラづくしのラーメンなど新機軸の料理も

 クジラの骨でだしをとったラーメンはあっさりいただけながら野性味もあり、大海原のイメージが広がるよう。具材に用いたもちっとしたクジラの舌とぶるぶるのクジラベーコンの食感の違いも楽しい1品です。

 しっとりとやわらかい赤身や霜降り肉のような尾の身の刺身は旨味たっぷり。赤身の唐揚げは心地よい歯ごたえとジューシーな味わい。調理法で変わる風味も楽しく、「海のジビエ」ともいわれるクジラのポテンシャルの高さを実感しました。

 クジラ料理を楽しめるお店は下関市や山口市など中心都市だけではなく、県内全域に点在しているので、温泉や城下町巡りの旅にクジラ三昧を組み合わせることもできます。「山口県くじら文化“みんなで”応援サイト」のクジラ料理店MAPを参考に旅のプランを練るのもおすすめです。

海沿いの景観と歴史の舞台がとけあう。クジラの街・下関市を散策

海
唐戸交差点エリアの海側の眺望

 本州の最西端、関門海峡に面する下関は源平の戦いや明治維新などの舞台になった海と歴史の街。そのエッセンスが詰まった下関港から唐戸へと続くウォーターフロントエリアを散策しました。

 海の景観を満喫できるのがシーモールや唐戸市場など施設沿いに設けられたボードウォーク。海峡が一望でき、ダイナミックな関門橋とその下を行き来する船とのとりあわせが楽しめます。対岸の門司港や厳流島に渡るフェリーの発着もここから。

プロペラ
海を背景にした本物の捕鯨砲やプロペラのモニュメント
水族館
「海響館」はペンギンショーでも有名な水族館

 散策中に出会ったのが捕鯨船に備えつけられていたプロペラなどのモニュメント。施設内の展示ではなく日常の場所に設置されているのもクジラの街を感じさせます。世界一の種類数というフグ目魚類の展示やクジラの骨格標本を見ることができる市立しものせき水族館「海響館」もぜひとも立ち寄りたいスポットです。

レトロな建物
唐戸交差点エリアはレトロ建造物ウォッチングも楽しめる

 国道をはさんで唐戸交差点周辺には、現役では国内最古という郵便局舎や旧下関英国領事館など明治・大正時代に建造されたレトロな建物がたたずみます。エリアにはSNSにあげたい撮影スポットが豊富です!

唐戸市場に赤間神宮…見どころはまだまだ

市場
市民の食の台所・唐戸市場
食品
唐戸市場内。フグやクジラの専門店が入るのが下関ならでは

 ウォーターフロントで外せないスポットが唐戸市場。食のプロが利用する卸売市場ですが、一般客も買い物ができます。早朝から活気がみちあふれる場内では新鮮な魚介類が割安で購入でき、クジラの各部位も並びます。食堂で魚介の定食や寿司などを味わえるほか、週末・祝日は場内に寿司や海鮮丼などの屋台が並び、大勢の観光客でにぎわいます。

神宮
朱色の楼門が美しい赤間神宮
源平
日本史好きは外せない、ドラマや映画でもおなじみの源平の合戦の舞台

 唐戸エリアからさらに先に進み、赤間神宮へ。源氏との戦いに敗れた平氏一門とともに入水した安徳天皇を祀る神社で、波の下にあるという竜宮城を模した朱色の楼門が見事です。楼門越しに見る海峡は趣があり、800年前の悲劇を思いながら静かな気持ちになります。

 関門橋を越え、さらにと進むと壇ノ浦の戦いの地に。近くには幕末に長州藩が築いた台場跡や大砲のレプリカもあり、歴史が複層するようなひとときを過ごすことができます。

日本酒
辛口の銘酒と合わせることでクジラ肉の持ち味が引き立つ
加工品
お酒のアテにぴったりのクジラの加工品

 下関のお土産はやはりクジラ、そして山口の地酒。水よく、良質の酒米が育つ山口県には銘酒が豊富。その中から香り高い大吟醸と旨味の濃い生酛純米酒の銘酒を合わせます。もちっと美味なさえずりでお酒が進む進む。甘辛くピリッとした赤身の南蛮漬けは酒のあてはもちろん、ごはんのおともにもぴったりです。帰宅後も大満足の山口県クジラの味紀行でした。

取材協力/山口県農林水産部

取材・文/土倉朋子