開湯400年以上、青森県黒石市の「黒石温泉郷」。そのなかの「温湯温泉(ぬるゆおんせん)」は、ノスタルジックな町並みに、客舎と共同浴場の湯治文化が残る温泉地です。静かな温泉郷でのんびり、ゆったり過ごす旅をご紹介。
昔ながらの湯治文化が残る「温湯温泉」
江戸時代から町民文化が栄えた城下町、黒石市。その黒石市にある温湯温泉は、湯治場として多くの町民や観光客を癒してきました。浅瀬石川河畔に沸く源泉の温度は約52℃。湯冷めしにくい泉質が特徴です。
昔は十数件の「客舎」がありましたが、現在は、共同浴場「鶴の名湯」を囲むように、4軒の宿(客舎1軒、旅館2軒、民宿1軒)が残るのみ。哀愁漂う街並みを歩くと、タイムスリップしたような気分に。ちなみに、「客舎」とは、内湯を設けていない宿泊施設のこと。共同浴場(外湯)を利用し、客舎で自炊しながら過ごすのが伝統的なスタイルです。
立ち寄り湯として今も親しまれているのが温泉街中心地にある「鶴の名湯 温湯温泉」。400年以上前(江戸時代)、足を怪我した鶴がアシの原っぱに舞い降りて、7日間で回復して飛び去ったという伝説がある温泉処です。
「日本の名湯100選」にも選定されている温湯温泉。源泉100%かけ流しの湯は、無色透明で、効能はリウマチ・神経痛、冷え症、胃腸機能低下、疲労回復など。源泉の温度は52℃で、湯上がりは身体がポカポカに。朝5時から夜の10時まで年中無休で営業しているのもうれしい。
温湯地区では毎年夏、共同浴場周辺で「丑湯祭り(うしゆまつり)」(2023年は7月21日、22日を予定) を開催。昔からこの期間に湯治すると、普段の何倍もの温泉効果があるという言い伝えがあり、地元民や湯治客でにぎわいます。
大正3年建造の「飯塚旅館」に泊まる
温泉街でひと際目を引くのが、大正3(1914)年建造の歴史と木の温もりを感じる「飯塚旅館」。長きにわたり「客舎」でしたが、2001年に共同浴場「鶴の湯」が建て替えの際、内湯を整備し「旅館」に。現在は、「湯治宿を残して継承していきたい」と語る、17代目の女将・飯塚幸子さんが切り盛りしています。
ヒバづくりの内湯は、100%天然温泉のかけ流し。眼下に流れる浅瀬石川を眺めることができるベランダも併設されています。8畳の広々とした客室は全12部屋。
「夏でも涼しくて、昨年エアコンを稼働したのは3日くらいです」(女将・飯塚幸子さん)。窓から入る心地よい風を感じながら、日常では味わえない、のんびりとしたぜいたく時間が過ごせます。
また、女将がつくる愛情たっぷりの食事もお楽しみのひとつ。夕食は、青森県産牛の陶板焼きをはじめ、地元で採れた魚・山菜を使った料理や甘い茶碗蒸しなど郷土料理が中心。朝食は、焼き魚と卵料理がついた和食膳を専用の部屋でいただけます。
「毎日市場から届く食材を使用しているので、お刺身も新鮮ですよ。とくに『ご飯がおいしい!』と好評なんです。井戸水を使っているのでまろやかでおいしく炊き上がるんです」(飯塚さん)
県内で唯一残る客舎「後藤温泉客舎」
創業100年以上の歴史を持つ温湯最古の「後藤温泉客舎」。内風呂をもたず、自炊専門の県内唯一の「客舎」です。明治後期の建物は風情がたっぷり。13代目の女将・後藤弘子さんが30年以上、1人で宿を守り続けています。
建物自体は古いが、部屋の掃除が行き届き、ガラス窓はいつもピカピカ。窓際に縁側があり、客舎に泊まる人たちのちょっとした交流スペースになっています。朝食のみ女将さん自ら採った山菜やキノコ料理など、お手製料理がいただけます。
「この宿を次世代に引き継ぐつもりはなく、元気なうちは続けたい」と語る女将さん。一人600円で休憩も可能とのこと。古きよき「客舎」の味わいを体感できる貴重な宿です。
温湯温泉は津軽系こけし発祥の地
江戸時代末期から、東北の湯治場で子どものオモチャとしてつくられたこけし。町を盛り上げるために地元の有志がオープンしたのが、東北で唯一の「津軽こけし館」です。オカッパ頭でくびれ腰、裾広がりの足元などが愛らしい温湯温泉こけし(津軽こけし)。展示やお土産品のほか、こけしの絵つけ体験などもできます。
また、「青森ねぶた祭」、「弘前ねぷたまつり」と同時期に開催される「黒石ねぷたまつり」(2023年は7月30日から8月5日を予定)も必見です。50台以上の扇ねぷた・人形ねぷたが出陣。街は熱気であふれ、ねぷた一色に彩られます。
■黒石観光協会「青森県黒石市へようこそ」
取材協力/飯塚旅館、青森県観光企画課
<取材・文>寺川尚美