地獄蒸しをイタリアンに。大分でサステナブル・ガストロノミーを実践

「おんせん県」の別名をもつ大分県には、温泉だけでなく地元食材のよさから、近年外資系ホテルも続々進出しています。そんな大分県のサステナブル・ガストロノミーをご紹介します。

温泉プラス美食が堪能できる大分県

別府の夕暮れ
湯けむりが美しい別府の夕暮れ

 別府や湯布院など全国的に有名な温泉地があり、源泉数・湧出量ともに日本一の「おんせん県」の別名をもつ大分県。古くから豊の国(とよのくに)とも呼ばれるほど、海、山の食材に恵まれ食文化も充実しています。

 食の世界で注目が集まっているローカルガストロノミーは、地域の風土や文化などをおいしい料理として表現すること。大分県は、そんな地域の食文化にサステナブルを組み合わせたガストロノミーを実施しています。

ユネスコ創造都市食文化分野に承認された臼杵市

臼杵市の郷土料理
臼杵市の郷土料理。上は「きらすまめし」、左は「黄飯」、右は「かやく」

 現在世界で295都市の加盟が承認されている「ユネスコ創造都市ネットワーク」。文学、映画、メディアアートなど7分野に分類されており、そのひとつの食文化部門への加盟を承認されたのが大分県の東海岸に位置する臼杵(うすき)市です。

 1600年頃から醸造業が始まったことや、質素倹約のなかで生まれた郷土料理など、多様な食文化が発展してきた背景から、「発酵・醸造と質素倹約、循環型の食文化」が評価されました。

ほんまもん農産物
「ほんまもん農産物」の畑と生産者

 なかでも特徴的なのは、日本で唯一、土をつくっている自治体という点。市が草木を主原料として完熟堆肥を生産し、農家はその堆肥を使って土づくりを行い、化学肥料を避けて栽培。その農産物を「ほんまもん農産物」として市長が認証しています。

 ほんまもん農産物は、学校給食や飲食店で使われたり、地域のマルシェで販売されたり、子どもたちの収穫体験にも。臼杵市では、土、食材、労働、販売、食文化がきれいに連なり循環しているのです。

県内に広がるサステナブル・ガストロノミー

本膳料理
臼杵市に伝わる、日本料理の原型ともいわれる本膳料理

 臼杵市のユネスコ創造都市ネットワーク加盟を契機に、大分県内ではサステナブル・ガストロノミーの取り組みが広がっています。推進協議会を発足し、食材の生産者や料理人も賛同して、大分県独自の食文化を取り巻く歴史や環境の保全のほか、時代に合わせた改良を行いつつ、世界へ発信するという、持続可能な食文化の発展を目指しています。

 各地域に独自の食文化が残っているのは、大分県の特長のひとつです。中津市の物相(もっそう)ずし、豊後大野市のじり焼き、竹田市の頭料理、津久見市のひゅうが丼、国東市のいぎす、などなど。名称を聞いても料理が浮かばない…それこそが独自の食文化といえるでしょう。

二王座歴史の道
二王座歴史の道。大分県は各地に旅をしたくなる景観が残っている

 また、サステナブル・ガストロノミーの取り組みでは、食文化の保存や継承だけではなく、食体験も重視。訪れた旅行者が郷土料理を食べることは食文化の伝承であり、経済面での発展にもつながります。日本一の温泉地で観光客が多い大分県だからこそ、県全体で行える取り組みなのかもしれません。

温泉地・別府市ならではの「地獄蒸し」をイタリアンに

蒸しポーク
季節の野菜を添えた蒸しポーク

 県内にはその料理を目的にしたくなる、サステナブルにこだわった料理人がいます。そのひとりが別府にあるレストラン「Otto e Sette Oita(オット エ セッテ オオイタ)」のオーナーシェフ・梯哲哉さん。

 国内随一の温泉観光地・別府市ならではの調理方法「地獄蒸し」は、温泉の蒸気を利用する料理です。以前はイタリアンレストランの料理長をしていた梯シェフですが、別府にお店を構えたのを機に地獄蒸し調理や、温泉水を取り入れた料理などの創作イタリアンを提供することに。

スパゲッティ
スパゲッティはミネラル成分のある温泉水で茹でている

 お店がある鉄輪温泉の源泉温度は、沸点に近い99.6℃。その温泉の蒸気を使って蒸す地獄蒸しはサステナブルな調理法として注目されています。

 メニューは、地獄蒸しの釜の温度、圧力、蒸気の量、温泉水の成分を組み合わせた独自の調理方法で考案。たとえば、季節の野菜を添えたポーク料理は、豚肉を5時間かけて繊維までホロホロに蒸しているそう。ほかにも、野菜は地獄蒸しにすることでアクが抜けて風味やうま味がアップ、パスタはミネラル成分を含む昆布だしのような味の温泉水でゆでるので塩は入れないなど、地の利が料理に生かされています。

蒸し釜キッチン
蒸し釜で調理する梯シェフ

 また大分県は産地がとても近い、という点もサステナブル・ガストロノミーの重要ポイント。

「別府から車で30分の国東市の市場で、朝、新鮮な魚を仕入れられますし、ほとんどの野菜や肉も生産者の顔がわかる県内産を使っています。食材の生産者を大切にしたいので、お客さまへ生産者の紹介もするように心がけています」(梯さん)

店内
おしゃれで落ち着いた雰囲気の店内

 蒸気を使うことはガスや電気などのエネルギーの節約に、ミネラルが含まれている温泉水を調理に使うことは減塩に、近い産地の食材を使用することは輸送に係る環境への負荷を削減できる。そういった取り組みを実践し、別府ならではの調理法を取り入れた梯シェフのサステナブルガストロノミーは、温泉旅行のついでではなくこのお店を目的に旅行をしたくなる味です。

 大分県にはサステナブル・ガストロノミーのお店がほかにも。次の旅は、おんせん県で温泉&美食の旅を楽しんでみては。

取材協力/大分県東京事務所
<取材・文>カラふる編集部