広島県東広島市西条は、「酒都西条」と呼ばれ、兵庫県の灘、京都府の伏見と並ぶ「日本三大銘醸地」のひとつです。2024年2月には「西条酒蔵群」が、酒蔵として国内初の史跡に指定。7つの蔵元が並ぶ風情ある「西条酒蔵通り」を散策してみました。
酒都・西条で美酒とまち並みに酔いしれる
広島県のほぼ中心に位置し、広島市に隣接する東広島市は、北部に高い山々が連なり、南部は瀬戸内海に面した自然豊かなエリア。市内には、広島大学をはじめ、4つの大学が集まる学園都市としても知られています。また、高速道路、新幹線、空港がそろう利便性の高い交通網も魅力で、県内外からのアクセスも良好です。
市内最大の観光スポットが、「日本三大銘醸地」のひとつで、約340年の歴史を紡ぐ酒のまち・西条。龍王山などからの伏流水と良質な酒米、冬の仕込み時季に昼夜の寒暖差が大きい盆地特有の気候が、西条で美酒ができる理由です。
広島駅から電車で約35分のJR西条駅を拠点に、「西条酒蔵通り」を巡ってみましょう。赤レンガの煙突、白壁に映えるなまこ壁、西条格子など独特の風情を醸し出すエリアには、伝統の酒づくりが継承されている7つの蔵元が集まり、それぞれ立ち寄ることができます。今回は、そのなかから3つの蔵元をご案内。
酒づくりを身近に体感できる「賀茂鶴酒造」へ
「賀茂鶴酒造」は、1873年に創業し、1958年に日本で初めて大吟醸を他社に先駆けて発売した蔵元です。日本初の動力精米機の開発により、酒米を50%以上削って生まれたのが大吟醸。これまでの日本酒のイメージを覆した純金箔入りの「大吟造 特製ゴールド賀茂鶴」(後の「大吟醸 特製ゴールド賀茂鶴」)は、現在に至るまで長年愛され続けるロングセラー商品になっています。
日本酒づくりに欠かせない水は、山々からわき出る龍王山の伏流井水を使用。やわらかな中硬水により、口当たりの優しい酒が生まれるそう。
また、新たな試みも続々と企画・発信。2024年4月の毎週土曜日には、東広島市内10の酒蔵の新酒ができたことを祝うイベント「東広島蔵開き2024」を開催。酒蔵スタッフとゆっくりと会話を楽しめるだけでなく、酒蔵見学や限定酒販売などコンテンツ満載なので、ぜひこちらもチェックを。
国の史跡に指定されたのは、江戸時代から昭和初期の西条酒蔵群である「白牡丹酒造延宝蔵」、「旧広島県醸造試験場」、「福美人酒造大黒蔵」と「賀茂鶴酒造一号蔵」。その一号蔵を改装したのが見学室直売所です。
「日本酒をより身近に感じてもらいたいと、2019年10月にオープン。動画や展示などを通して、酒づくりのノウハウや歴史について楽しんで学ぶことができる場所です。現在は5か国語のパネル展示やトリックアート撮影スポットなどがあり、国内はもとより海外の方にも喜んでいただいています」(営業本部・天畠健史さん)
限定酒をはじめとする多彩な日本酒のほか、酒器や「大吟醸マカロン」などのスイーツがあり、日本酒が飲めない方でも楽しめるラインナップ。お酒のセレクトに迷ったら、バーカウンターで「大吟醸 特製ゴールド賀茂鶴」などが味わえる、「三種のみ比べセット」をぜひ。
また、近隣に賀茂鶴レストラン「日本酒ダイニング 佛蘭西屋(ふらんすや)」も運営。こちらでは、蔵人のまかない料理が発祥と言われるご当地グルメ「美酒鍋」を堪能できます。酒づくりの合間に食べても利き酒に影響がでないように考案した料理だそう。あっさりして食がすすむランチメニューは必見です。
酒蔵に併設するスポットでカフェ&お土産探し
2つ目に訪れたのは1912年に創業した「賀茂泉酒造」(創業当時は「前垣酒造場」)。太平洋戦争中に失われた本来の酒造づくりを復活させるべく、米と米麹のみでつくる純米醸造に取り組んだ酒蔵としても知られています。併設している白い洋館は、広島県西条清酒醸造支場を改装したレトロなたたずまいのお酒喫茶「酒泉館」。
こちらでは、お酒を使ったスイーツ、仕込み水でいれたコーヒーなどが味わえます。素材にこだわった酒まんじゅうと無農薬抹茶使用の「酒まんじゅうとお抹茶セット」や酒粕ムースなど、アルコールが入っていないスイーツを用意。
もちろん、「超プレミアム大吟醸」などの利き酒や、飲み比べセットなど酒蔵ならではメニューも楽しめます。
3軒目は、明治時代中期に創業した「亀齢酒造(きれいしゅぞう)」へ。西条のなかでは辛口ですっきりとした味の酒が特徴で、1917年には、全国新酒鑑評会で優れた醸造技術に対して贈られる名誉賞を受賞しています。
直売所「万年亀舎(まねきや)」には、吟醸酒粕と無農薬米ぬかが入った「すっぴんきれい石鹸」や「醸華町うどん」など、人気のオリジナル商品がずらり。「配達袋」や「三条てぬぐい」など、レトロおしゃれなアイテムが見つかります。
しぼりたての生酒、純米吟醸「亀齢」や蔵元限定酒「吉田屋の酒」など酒類も要チェック。
古民家カフェで体に優しいランチを
西条酒蔵通りの小路にたたずむ「カフェ トレサカ」は、ランチタイムはとくににぎわう人気店。明治時代後期に建てられた2階建ての古民家の柱や梁を生かしリノベーション。1階はテーブル席とカウンター席、2階に畳席をしつらえた店内は開放感抜群。洗練された家具や照明、BGMのジャズなど、オーナー・三宅淳也さんのセンスが光ります。
ランチのイチオシは、4種類から選べるセイロ蒸し膳。小鉢、香の物、十穀米ご飯、スープ、ドリンクもついて満足度が高いメニューです。
「広島産カキを亀齢酒造の辛口純米酒で蒸した『牡蠣の酒蒸しセイロ膳』には、4粒のカキと地元産の旬野菜をたっぷり使用しています」(三宅さん)
食後には、オリジナルのシフォンケーキを。「ブルーベリークリームチーズ」や「バナナショコラ」など、食欲をそそるビジュアルも好評。確実に席をキープするなら、予約がベターです。
瀬戸内海に面した安芸津エリアも見逃せない
景観を楽しむなら、西条から車で30分ほどの安芸津地区に足を延ばして。ぜひ訪れたいのが、小高い丘陵地帯にある「正福寺山(しょうふくじやま)公園」。眼下に広がる瀬戸内海には無数のカキ筏が浮かび、風情ある美観を生み出しています。また、地元では桜の名所としても知られ、約1200本のソメイヨシノが開花する光景は、圧巻の美しさです。
また安芸津地区の名産といえば、カキ。安芸津の海は、流れ込む川が少なく塩分濃度が高いため、濃厚でミネラル豊富なカキが育つのが特徴です。
1897年創業のカキ専門店「マルイチ商店」の‟おうちでオイスターバー”をコンセプトに誕生したブランドが「OYSTER KITCHEN」。安芸津の直営店「オイスターキッチン マルイチ」には、カキを使ったオリジナル商品がずらり。お土産にぴったりな逸品に出会えます。
「人気は『牡蠣オリーブオイル漬け 瓶』、『オイスターソース』、『牡蠣のアヒージョ 袋』です。カキの味をご自宅でも楽しんでいただける商品です」(専務取締役・柏迫一正さん)。
ほかにも目移りしてしまいそうなほど品ぞろえが。11月から4月頃までは生ガキも販売し、金・土・日曜日には、アソート4種盛りの「牡蠣とシーフード」や「オイスターキッシュ」など総菜メニューも登場します。
銘醸地・西条はコンパクトにまち歩きができるスポット、安芸津地区は瀬戸内海を眺められる景勝地。のんびりと観光が楽しめる東広島市を訪れてみては。
取材協力/東広島市産業部ブランド推進課
撮影/カラふる編集部、取材・文/寺川尚美