ギネス認定された奥州市の「江刺甚句まつり」2日間住民総出で踊る

岩手県奥州市の「江刺甚句(えさしじんく)まつり」は、参加人数が最大の扇子踊りとしてギネス記録にも認定されました。厄年の男女が中心になって盛り上げるというこのお祭りを、2023年から現地で地域おこし協力隊として活動している太田和美さんがリポート。

200年前から伝わる「江刺甚句まつり」

えさし藤原の里

「江刺甚句まつり」は、奥州藤原文化発祥の地・岩手県奥州市江刺区(旧江刺市)で毎年5月3〜4日の2日間で開催される祭りです。「歴史公園えさし藤原の郷」など、ほかの観光施設とも連携しており、観光客も多く訪れます。

町内屋台

 祭りの起源は幾度と町を襲った大火災。江刺地区は享保16(1731)年から明治39(1906)年の間に7回も火災に見舞われ、貞観16(874)年から執り行われていた「秋葉神社例祭」が、町の復興と火災防止を祈願する「火防祭(ひぶせまつり)」となりました。

江刺鹿踊 百鹿大群舞

 それが明治には大山祭り、大正には仮装行列、昭和には門付け踊りと変わり、昭和49(1974)年には「見る祭りから参加する祭りへ」というキャッチフレーズを掲げて住民総出で踊る現在の形になりました。

子ども甚句パレード

 祭りの2日間は「年祝連(としいわいれん)※」が演舞を披露するほか、約2000人の市民が町内を江刺甚句で踊る「江刺甚句大パレード」、100人の踊り手が一斉に舞う江刺鹿踊(えさしししおどり)「百鹿大群舞(ひゃくしかだいぐんぶ)」、町内屋台や子ども甚句パレードなど、住民がひたすら踊り続けます。とても豪快で、住民の地元を思う気持ちが伝わってきます。

 約200年前から伝わる「江刺甚句踊り」は、伊達藩(宮城県)の踊り「定義(じょうぎ)あいや」から派生したのではないかとされています。男女ペアの演舞「あわせ踊り」が酷似していて、そこから推定するとさらに400年も遡って伝えられてきたことになります。

※厄年を迎える地元の25歳と42歳の男女。

「最大の扇子踊り」としてギネス記録に挑戦

ギネス世界記録挑戦

 2023年の第50回目「江刺甚句まつり」は、コロナウイルスの影響を経て4年ぶりに観客制限なしで開催されました。そして42歳年祝連「煌仁会(おうじんかい)」と25歳年祝連「陽翠心(ひすいしん)」が合同で、ギネス世界記録「最大の扇子踊り」に挑戦しました。

「江刺甚句踊り」で使用する団扇

 ギネス記録獲得のためには、「江刺甚句踊り」を参加者全員が最低5分間同時に踊り、当時の記録1174人(香港)を超えなければなりませんでした。参加者は地元の小中学生から、2023年度の25歳年祝連「陽翠心(ひすいしん)」と42歳年祝連「煌仁会(おうじんかい)」、そして歴代連の皆さんです。当日は約7分もの間1719人で踊り続け、無事ギネス記録に認定されました。

ジャスティン・パターソンさんと筆者

 私はこの1か月後に同市の地域おこし協力隊に着任が決まっていたので、移住記念に監視員のボランティアとして参加しました。私を含む30人以上の監視員が配備され、ギネス公式認定員ジャスティン・パターソンさんはじめ専門家が立ち会い、踊りが適正であったか確認されます。結果、失格はたったの18人。演者の皆さんから伝わる緊張感と真剣な眼差しを目にして、生つばを飲み込んでしまうほど迫力満点な挑戦でした。

主役は厄年男女。年間通して地域を盛り上げる

えさし藤原の郷

 なんといっても、この祭りの主役は「年祝連」です。地元から疎遠になっていても「地域を盛り上げたい」という郷土愛を胸に、祭りのために帰省する人たちがたくさんいる、これぞ、奥州市固有の文化といえます。

年祝連の屋台

 年祝連は1〜3年前からこの祭りで露店を出して資金を集めたり、各世帯にあいさつ回りをしたりと、祭りにかける思いの強さを感じます。そして調達した資金を元に、オリジナル楽曲や振付(プロに頼むことも)、街頭を周回する屋台や団体の顔となる袴衣装などを準備します。

子供甚句パレードの先導をする夫

 江刺区出身で42歳の夫は、昨年度の年祝連(数え年で43歳連)としての御礼と役割で、地域の未来を担う小学生への指導を担い、2日間踊り続けてお祭りを盛り上げました。「年祝連は江刺甚句だけでなくオリジナル演舞の振付も覚える必要があるから、毎日練習して何度も踊って。日頃の運動不足がたたって途中から手が上がらなくなった」と、筋肉痛に悩まされながらも、満足気でした。

観光客

 年祝連は祭りを皮切りに、年内に開催される市内イベントへも参加。翌年の祭りを終えるまで、この役目を務めます。文字どおり、その年の主役として地域活性化の一役を担っているのです。

 長い伝統をもつ「江刺甚句踊り」。これからも住民の連帯感やエネルギーで地域の活力となり、世代を越えた共生を育んでいってほしい、そしてぜひたくさんの人に知ってほしいです。

<取材・文/太田和美>

太田和美
宮城県仙台市出身の美術家・パフォーマー。ライターやエディター、民宿の女将補佐などさまざまなことを経験。夫のUターンを機に2023年6月、岩手県奥州市の地域おこし協力隊に着任。南部鉄器のPRと後継者育成事業を担当している。夫はまだ宮城県におり、現在は単身赴任中。