道北の楽園、焼尻島でSUP体験。とれたてウニの差し入れも

北海道札幌市で生まれ石狩市で育ち、東京や中国・天津市でもさまざまなキャリアを積んだ後、2021年の暮れに北海道天塩町へ移住。現在は地域おこし協力隊として活動する三國秀美さんが、日々の暮らしを発信します。今回は150人ほどが暮らす焼尻島(やぎしりとう)へのツアーをレポート。

北海道の北西に浮かぶ焼尻島で交流ツアーに参加

焼尻島の海でSUPをする人
焼尻島でSUP。海水の透明度は抜群

 2024年、海の日。「これは海を楽しむしかない」と、留萌市の「るもいアウトドア観光ネットワーク会議(事務局:NPO法人留萌観光協会)」が主催した「焼尻島SUP交流モニターツアー」に参加してきました。

 北海道の北西の日本海に位置する、周囲約12kmの焼尻島。隣に浮かぶ天売島(てうりとう)とともに暑寒別天売焼尻(しょかんべつてうりやぎしり)国定公園の一部で、苫前郡羽幌町(とままえぐんはぼろちょう)に属します。焼尻島のキャッチフレーズは「オンコと羊の島」。オンコとはイチイという木のこの地方の呼び名で、島では貴重なサフォーク種の羊が放牧されています。ノスタルジックな語感に魅かれて訪れてみたくなるものの、時化や吹雪でひとたびフェリーが欠航すると閉ざされた世界になるので、島に渡るには細かな情報収集が必要です。

 天気が悪く肌寒い日が続いたためフェリーの運行状況が心配でしたが、当日は晴天に恵まれ、夏日のなか旅行を楽しむことができました。今回の遊び場は青空が広がる海を仕切る防波堤の内側で、ほぼプライベートビーチ。日が暮れるまでSUP(Stand Up Paddleboard)という立ちこぎボードを満喫しました。

港に停泊するフェリーおろろん2
フェリーおろろん2

 天塩町から羽幌フェリーターミナルまでは距離にして約60km。日本海沿いを走るオロロンラインをクルマで1時間南下します。これまでは通過するだけで、なかなか寄ることのなかった羽幌町。ターミナルに到着し、大きな船を見ると気分が高揚します。

「ブンちゃんと呼んでください」。経験豊富な添乗員の金川さんが元気に参加者を集めてあいさつし、乗船手続きが進みました。「フェリーおろろん2」は自動車を搭載できる旅客船で500トン近くあります。夏の旅客定員は300名とのこと。慣れた乗客は客室で席を確保しますが、海の上は晴天でそよぐ風が気持ちよく、多くの人が甲板に出ていました。

船の近くを飛ぶかもめ
甲板からみんな思い思いに写真を撮る。伴走するかもめの姿がいじらしい

SUP体験の合間には漁師からウニの差し入れ

焼尻島のフェリーターミナルの看板

出航から1時間、おろろん2は焼尻フェリーターミナルに到着しました。見渡す限り海に面したターミナルにある素朴な看板を見ると、はるか遠いところに来たように感じます。身支度を整え、参加者たちと目的地までのウォーキングが始まりました。

海の近くに生えるイタドリ
イタドリの群生。遠くに見える灯台あたりが今回の遊び場

 フェリーターミナルの看板にあった「花の島」という言葉どおり、道中たくさんの花を見ながら歩くことができました。全校生徒4名の町立焼尻小学校・中学校の前を通ると、周囲は週末とあって静まり返っています。校舎の正面にある、海を眺めるグラウンドは映画のなかの風景のようで一見の価値ありでした。

とれたてのウニ
とれたてのウニ。まだトゲは動いている

 海に入ると水温が高く、なんといってもその透明度には驚きました。水面から3m下を泳ぐ魚が見えるほどです。SUP体験は初心者でも参加可能で、シーカヤック経験のある私はなんとか立ちこぎをすることができました。

 途中「どうぞ召しあがってください」と、地元参加者の家族である漁師さんから差し入れられたのはなんと、一般人はとることのできないウニ。新鮮で貴重な海の味をいただきながら、「少しでも殻に傷がつくと出荷できない」と説明してくれる漁師さんの言葉に、漁業というビジネスの厳しさを垣間見ました。

ゲストハウス「やすんでけ」
焼尻ゲストハウス「やすんでけ」

 ほどよく水で遊び、夕暮れにはバーベキュー。スタッフの皆さんが丁寧に焼いてくれた肉や焼きそばをほおばり、ぜいたくな夜はふけていきます。食後は花火を楽しみ、おしゃべりも弾みますが、あたりが涼しくなった頃にお開きとなりました。この日の宿「やすんでけ」に移動して汗を流したあとも、皆それぞれの夜を楽しんだようです。

若いツアー仲間との交流にドキドキ

道路にいる猫たち
朝から集まる猫

 宿の「やすんでけ」では看板猫の「びすけ君」と遊びましたが、一夜明け外に出てみると、猫が集会中でした。焼尻島にエゾシカやキタキツネ、ヒグマはいません。天敵がいないからか、猫はゆったりと暮らしているとのこと。島はクルマの通りが少なく、車道の真ん中でくつろぐ猫にびっくりです。

小学生たちの後ろ姿
夕日とツアー仲間の小学生

 今回のツアーは私、中学生男子がひとりと、あとは小学生女子というメンバーでした。この地域では小さな体験ツアーが多く皆慣れているせいか、出発のフェリーターミナルでの別れは保護者も児童もサバサバしたものでした。

 初対面の自己紹介で緊張したのもつかの間、集合写真では子どもたちのなかひとり交ざり、不思議な気持ちになりました。親の前で見せる顔と子ども同士で見せる顔は少し違うよう。夜に「恋バナしよー」とこぞって部屋に戻る女子の後ろ姿に圧倒され、私のほうがドキドキの夏の思い出となりました。

<取材・文・写真/三國秀美>

【三國秀美(みくにひでみ)さん】
北海道札幌市生まれ。北海道大学卒。ITプランナー、書籍編集者、市場リサーチャーを経てデザイン・ジャーナリスト活動を行うかたわら、東洋医学に出会う。鍼灸等の国家資格を取得後、東京都内にて開業。のちに渡中し天津市内のホテル内SPAに在籍するも、コロナ感染症拡大にともない帰国。心機一転、地域おこし協力隊として夕日の町、北海道天塩町に移住。