福井県で宗教都市とパワースポットをめぐる旅。多彩なご当地グルメも

2024年3月に北陸新幹線が福井県に延伸し、各地からの訪問客が増えています。神社仏閣、断崖絶壁、五色の湖など神秘的な名所とともに、ここでしか味わえない食の魅力も。ご当地グルメ研究家の大村椿さんがリポートします。

白山平泉寺と東尋坊でエネルギーチャージ

平泉寺白山神社

 福井駅から車や電車で1時間前後、勝山市にある「平泉寺白山(へいせんじはくさん)神社」は、717年に開山した、越前における白山信仰の拠点のひとつ。二の鳥居には額を守るための屋根があって、これは神仏習合のなごりだそう。敷地全体が100種類以上の美しいコケに覆われていて、「福井のコケ寺」と称されることも。女神が現れたという伝説のある御手洗池や樹齢100年超えの杉の木の中は、神秘的な空間で時間が止まったような気分に。

御手洗池

 周辺は平安末期から戦国時代にかけてもっとも栄え、80を超える寺や神社、6000を超える坊院(僧侶の住居)が建ち並ぶ巨大な宗教都市でした。しかし1574年、一向一揆により全山を焼失。一部は再建されましたが、9割は現在も埋もれたままで、いまだ未発掘な部分も多数。歴史的・学術的価値が高く、国史跡に指定されていて、2025年5月には33年に一度の御開帳が行われます。

東尋坊

 もうひとつ、勝山市から車で40分ほどの坂井市三国町に位置する日本海に突き出た「東尋坊(とうじんぼう)」は、切り立った断崖絶壁に荒波が打ち寄せる風景がドラマなどでもおなじみ。巨大な柱状の岩が約1kmにわたって連なる景勝地で、岩場に立つと自然の壮大さと長い年月の重みを感じます。東尋坊タワーから全体を見渡すこともできますし、遊覧船に乗って海側から眺めれば、この特異な地形がよくわかります。カフェもあるのでのんびりすることも。

 近くにある無人島・雄島(おしま)は1300万年前の溶岩でできており、近年はパワースポットとしてもジワジワ人気。橋を歩いて渡って上陸でき、40分程度で一周できます。

東尋坊の断崖絶壁

 東尋坊の名の由来として残る昔話があります。平安時代、白山平泉寺に「東尋坊」という名の僧侶がいました。彼は「あや姫」という女性を巡って恋敵の僧侶とトラブルになり、酒に酔わされたのち崖に突き落とされたのだとか。その日から49日間、海は荒れくるい、命日である4月5日は、東尋坊の無念が岩壁を激しく打ち続けるそうです。

越前市「紙の神」をまつる岡太神社・大瀧神社

紙すきの様子

 福井県は「お札のふるさと」といわれています。1500年という長い歴史をもつ越前和紙は日本三大和紙のひとつ。日本初の紙幣は、強靭さと保存性の高さから越前和紙でつくられました。現在のお札にも必ず入っている「すかし」は、越前和紙の技法が元になっています。

 五箇(ごか)地区にある「越前和紙の里」には、江戸時代中期の紙漉き家屋を移築・改修した「卯立(うだつ)の工芸館」で、伝統工芸士が昔ながらの道具で和紙をすく姿が見学できます。紙の文化博物館や、紙すき体験ができる「パピルス館」も。

紙すきの様子が描かれたマンホール

 この周辺は和紙の伝統と文化とともに人々が暮らす場所。まちを歩いているとマンホールのフタにも紙すきのデザインが。

中揚げ

 食材店をのぞくと「中揚げ」を見つけました。福井県は油揚げの購入額が日本一。そして全国でも珍しい「薄揚げ」と「厚揚げ」の中間にあたる「中揚げ」が存在するのです。厚さ3、4cmで外はサクッとしていますが、中はしっとりした豆腐感があります。

神社の鳥居

 越前市にある岡太(おかもと)神社・大瀧神社は日本で唯一、紙の神様が祭られていて、全国の製紙会社などにはよく知られた存在。拝殿と本殿が一体になった複合社殿は、永平寺の勅使門を手がけた名匠・大久保勘左衛門によるもので、天保14年(1843年)に建立されました。

岡太神社と大瀧神社

 幾重もの曲面をもった屋根が特徴的で「日本一複雑な屋根」と呼ばれており、見た瞬間、不思議な気もちに襲われます。柱などに施された彫刻も見事で、こけむした境内は独特の雰囲気がありました。

五つの湖と山と海を一望。ブランド梅も

恋人の聖地・幸せの鐘

 レインボーライン山頂公園は、若狭湾国定公園を代表する景勝地で、360度のパノラマビュー。美浜町と若狭町にまたがり、三方五湖(みかたごこ)を一望できます。この公園は「恋人の聖地」認定の恋のパワースポットでもあり、山頂に向かう29機のリフトにはひとつだけ、ハートのつり革がついたピンクのリフトが。公園内にある和合神社は家庭円満・恋愛成就・良縁祈願などにご利益があるといわれています。

7色の絶景

 山頂にはテラス、カフェ、足湯、バラ園などがあり、5か所あるテラスからは、三方湖・水月湖(すいげつこ)・菅湖(すがこ)・久々子湖(くぐしこ)・日向湖(ひるがこ)という5つの湖が見え、それぞれ水深と塩分濃度が違い異なる色をしています。同時に、山と海が眼下に広がるので全部で7色。そのコントラストが美しくも不思議な風景です。

梅アイス最中

 レストランやカフェでは本格的な窯で焼くピザや若狭牛の鉄板焼き、映えるカラフルなスイーツなどもありますが、売店で「梅アイスもなか」を購入。さっぱりとした甘さとやさしい酸味で、歩き疲れた体に染みました。

 福井県は知られざる梅の産地で、福井梅としてのブランドは「紅映(べにさし)」「剣先(けんさき)」「新平太夫(しんへいだゆう)」「福太夫(ふくだゆう)」の4品種。若狭町で多く栽培されています。実際、この辺りを移動していると梅の木をよく見かけます。

 新幹線は、将来的に大阪まで延伸という話もありますが、これはもう少し先になりそうですね。12月31日までは、「美観、美食、美技、美湯、美心」をテーマに北陸デスティネーションキャンペーンが行われているので、ゆっくり滞在してみたいものです。

<取材・文/大村 椿>

大村椿さん/テレビ番組リサーチャー
香川県生まれ、徳島県育ち。2007年よりフリーランスになり、2008年から地方の食や習慣などを紹介する番組に携わる。その後、グルメ、地域ネタを得意とするようになり、「ご当地グルメ研究家」として食に関する活動も行っている。