東広島市の正福寺山公園。海を見下ろす1200本の桜を住民の力で元気に

瀬戸内海を望む東広島市の正福寺山公園は、約1200本の桜が咲き誇る花見の名所。しかし、管理者の高齢化や桜の老朽化により一時は存続の危機に。そこで地元住民が立ち上がり、維持活動を開始しました。地域の宝を次世代へ、その取り組みをご紹介します。

瀬戸内海を一望できる絶景の花見スポット

晴れた日の奥は明るい瀬戸内海、手前は数十本もの桜が咲き誇っている様子
正福寺山公園から見下ろす三津湾(安芸津町・三津地区)

 穏やかな海にカキイカダが浮かび、その向こうに点在する島々。そんな瀬戸内ならではの風景を見渡せるのが、東広島市安芸津町にある正福寺山公園です。

 正福寺山公園は、毎年春になると、多くの花見客でにぎわう桜の名所。約1200本のソメイヨシノと瀬戸内海とが合わさった景色は、風に乗って運ばれる潮の香りも相まって、訪れる人々の心を魅了します。

夕焼けに浮かぶ桜の木
夕焼けと正福寺山公園の桜

 夜が近づくと、島々に沈んでいく夕日のオレンジ色と、宵に浮かぶ無数の花びらが、日中とはまた違った表情を楽しませてくれます。4月上旬にはぼんぼりがともされるので、夜桜を楽しめるスポットとしてもおすすめです。

担い手不足、樹木の老朽化など訪れた危機

根の近くが割れ、表皮には青い苔が生えている倒れそうな桜の木
老朽化により表皮に苔が生えた桜の木

 昭和12(1937)年から植樹が始まり、80年以上に渡り人々を楽しませてきた正福寺山公園ですが、令和に入り、存続の危機が訪れます。

 公園の維持管理は長らく、地域住民から結成された正福寺山公園協会が担ってきました。しかし、公園協会の中心を担う人たちも、年月とともに高齢化が進んでいきます。70代以上の地元有志が中心となる公園協会の担い手不足という課題は、公園協会会長の急逝を受け、浮き彫りとなりました。
 さらに追い打ちをかけるように、公園内の桜の木の老朽化も目立ち始めていました。

 花見シーズンのトイレや売店の整備なども含め、これまで会長がボランティアに近いかたちで担ってきた作業。それを行う人材の不足、桜を維持管理していくための資金不足…。さまざまな課題が立ちはだかり、安全に花見客を迎えることが難しい状況から、一時は閉園の話ももち上がりました。

正福寺山公園の再生に向けて住民たちが協力

お寺の門の前に男性がふたり立っている
正福寺山公園の新たな担い手の中心となる、島村さんと神原住職

 正福寺山公園を今後も桜の名所として存続させる方法がないものかと模索したのは、安芸津町観光協会をはじめとする地元住民たち。

 東広島市にもかけ合い、公園の維持管理に必要な経費の工面や、維持管理体制について、話し合いを重ねてきました。そうして立ち上がったのが、安芸津町観光協会を母体とする、正福寺山公園実行委員会です。

Gジャンを着た50~60歳くらいの短髪の男性が笑顔で話している
新たな舵取り役となる、正福寺山公園実行委員会の島村委員長

「祖父母の家が近くにあったこともあり、虫採りをしたり、段ボール滑りをしたり…子どもの頃から正福寺山公園は、みんなの遊び場でした」と昔を懐かしみながら、正福寺山公園実行委員会・委員長の島村稔さんは笑顔を浮かべます。

「今では県外からも多くの花見客が訪れるようになったけれども、昔は花見客のほとんどは地元の人たち。桜祭りが開かれるなど、花見は住民たちの一大イベントでした」(島村さん)
 とりわけ、公園のある三津地区の住民たちにとっては、正福寺山公園は、憩いの場として親しまれてきたそうです。

「近くに海を見下ろしながら花見ができる場所は、ほかにはなかなかない。そこが、正福寺山公園の魅力。実行委員会立上げを機に、三津地区だけでなく、安芸津町全体で、正福寺山公園の維持活動に携わるコミュニティを広げていきたい」
 これから先も、正福寺山公園が桜の名所として続いていくよう、島村さんは決意を新たにします。

笑顔で話す袈裟を着た坊主頭の男性
正福寺のお堂の前にて微笑む神原住職

 島村さんとともに、正福寺山公園の担い手の中心となってくるのが、公園の麓にある正福寺の、神原正英住職です。正福寺を継いだのは、32年前。それ以来ずっと、公園の維持管理に携わってきました。

「以前の公園協会は、70代、80代が中心で、私はそのなかでも若いほう。会計処理や祭りの案内作成など、事務局としての仕事を中心に、受けもってきました。花見シーズン前になると見頃がいつかという問い合わせがあったり、シーズン中の土日はずっと、駐車場整備に従事したり。メンバーのなかでも若かった自分が、走り回るしかなくて」(神原住職)

 当時の苦労を、笑いながら振り返る神原住職。花見客の対応に奔走し、1日に4万歩も動き回っていたそう。

「新体制になってからは、メンバーの中心は40代、50代に変わりました。30名程いるメンバー以外にも、維持活動に参加してくれる人もいて、助かっています。若い世代にどんどん入ってきてもらえるようにしたいですね」

 次の世代、さらにはその次の世代へ。維持活動のバトンをつなげていこうとする思いが、新体制の正福寺山公園実行委員会の中心に根づいています。

公園存続に向け団結する地域住民

公園の木を見ながら説明を聞く5~6人の男性
正福寺山公園で桜の維持管理方法を教わる地域住民

 花見客受け入れのためには、倒木の危険のある桜の木の対策が差し迫った課題でした。桜の維持管理には専門的知識をもとに計画的な伐採や植樹が必要。そこで、実行委員会と市との共同で樹木医を講師とした講習会を開催しました。
 集まったのは、地元の有志30名程。参加者には、若者や、女性の姿も。

「この木は、この部分から切ってやらないといけない」
「こういう状態の木は、病気にかかっている」

 正福寺山公園の桜を診てまわりながら、手入れが必要な木について、日本樹木医会広島県支部・長井支部長が解説をするのを、参加者は皆、熱心に聞き入っていました。気になることがあると、その都度、質問も飛び交います。

スクリーンの前に男性が立ち話をしている
講習会の後半は座学を実施。島村さんの呼びかけにより、多くの地元有志が集まった

 講習会で教わった内容を踏まえ、計画的な桜の伐採や植樹、施肥、樹皮のカビを落とす薬剤の散布などの活動を、島村さんを中心とした実行委員会のメンバーと地元有志により行っています。

 花見シーズンを目前にした3月初旬には、安芸津町商工会青年部主催で、環境整備や遊具のペンキ塗り、ぼんぼりの設置など、花見客を迎えるための準備を整えました。
 実行委員会メンバーだけでなく、そのほかの地元団体や若い世代も加わりながら、正福寺山公園を守る活動が続いています。

見頃を迎える正福寺山公園

つぼみがついている桜の枝。枝越しには瀬戸内海がみえる
開花を待つ正福寺山公園の桜

 瀬戸内ならではの風景と桜を楽しめる、唯一無二の花見スポットである正福寺山公園を次世代へ。そのような地元住民の愛着と団結により、閉園の危機から立ち上がった正福寺山公園に、今年も春が訪れます。

 敷地内に張り巡らされる桜の根っこを傷めないよう、公園内でのバーベキューなど、火器の取り扱いは禁止されています。公園内の売店では、今年は東広島市内のカフェが出店し、土日だけでなく平日の日中も営業されるそう。また、キッチンカーの出店も予定されています。

 東広島市内のお花見スポット情報は、東広島おでかけ観光サイト「ヒガシル」でチェック。正福寺山公園の例年の見頃は、広島市の開花時期より1週間程度遅れた4月上旬から中旬頃です。

 地域の宝として愛される正福寺山公園で、穏やかな瀬戸内の海と桜のピンクが織りなす絶景を楽しんでみてはいかがでしょうか。

<取材・文/藏本知美(東広島市ブランド推進課)>