のどかな農村にぽつんと建つ茅ぶき屋根の建物。じつは、江戸時代に建てられた芝居小屋なんです。今でも歌舞伎の公演が行われるこの建物、舞台が回ったり、壁が倒れたりと仕掛けがいっぱい。今回は、多くの住民たちに大切にされている、この小屋の魅力を探ってみました。
地域の住民が大切に守ってきた、農村歌舞伎の舞台小屋
ユニークな舞台装置をもつ、この小屋は、群馬県渋川市赤城町の上三原田地区にあります。古くから農業が盛んだった上三原田では、旅芸人の芝居や農民歌舞伎が頻繁に行われていました。この芝居小屋は1819年に建てられ、1882年に現在の場所に移築されたもの。
間口9m、奥行き7mと小ぶりですが、三方の板壁を水平に倒して舞台を拡げる「ガンドウ返し」、舞台の一部を回す「柱立式回転機構」、天井と奈落の両方からセリ(部隊の一部がセリ上がる仕掛け)の上げ下げができる「セリヒキ機構」、舞台の奥に遠見と呼ぶ背景をつけ、奥行きを深く見せる「遠見機構」など、さまざまな仕掛けを隠しています。
原題の劇場と比べても引けをとらない装置が自慢の小屋ですが、第二次世界大戦後は、娯楽の多様化や維持コストの負担の問題から、取り壊しが検討されたことも。
しかし、舞台装置の文化価値が注目され、1960年には国の重要文化財にも指定され、それと同時に地域の住民による「上三原田歌舞伎舞台保存会」も結成されました。その会によって、この小屋と農村歌舞伎は大切に受け継がれてきたのです。
2019年11月には創立200年祭も開催される
現在でも毎年11月に歌舞伎の公演が行われ、多くの観客を集めています。
地元の小学生や地域の人々だけでなく、近隣からの演者も集めて行われていますが、2019年11月の公演では、日本の古典芸能だけでなくシェークスピアの芝居も上演されるそう。
舞台だけではなく、何か月もかけて地元の住民がくみ上げる屋根も見どころのひとつ。「ハネギ」と呼ばれる杉の木と竹を組み合わせた独特のもので、18mの杉の木を1本そのまま切り出して制作するアーチ状の骨組みをもつこの屋根の下には1000人近くを収容できます。
公演当日には80人が裏方を務めて、拍子木の合図に合わせて舞台装置を操作します。
上三原田では「芝居は見るより見せるもの」と言われ、舞台を見た人が感動することで、大変な作業が報われるといわれるそう。
このような長年の取り組みが認められ、上三原田歌舞伎舞台操作伝承委員会が第41回サントリー地域文化賞を受賞。
表彰式では伝承委員長の長岡米治さんが「今年は創立200年の節目の年。11月2日と3日に開催する200年祭には、来てもらえるとありがたい」とあいさつしました。
貴重な文化遺産を地域の人々が今も愛し、活用している上三原田歌舞伎舞台。
11月の公演にはぜひ、出かけてみてください。
<写真/上三原田歌舞伎舞台操作伝承委員会 取材・文/カラふる編集部>