参加者の絆が魅力。琴平バス「オンラインバスツアー」の可能性

[やのひろみの「四国COLOR」]

 香川県にある琴平バス株式会社では、日本初のオンラインバスツアーを企画し全国から注目を集めています。フリーパーソナリティのやのひろみさんが実際にツアーに参加し、オンラインバスツアーの魅力をお伝えします。

常連さんたちとの絆で生まれたオンラインバスツアー

 普段は、香川県からの日帰り観光バスツアーなどが人気の琴平バスですが、新型コロナウィルスの影響でツアーが軒並み中止に。そんななか、バスツアーの常連客から心配や励ましの電話をもらい「常連さんたちに会いたい」という思いから「コトバスオンラインバスツアー」がスタートしました。協力旅行会社に相談し、「とにかくやってみよう」と始めたツアーですが、全国各地から応募が集まりました。(なかには1か月待ちでやっと乗車できたなんて方も)

 単に観光地の景色や動画を楽しむだけではなく、旅行プランナーの案内を聞きながら現地の方やほかの参加者とも会話を楽しめる。さらに現地のものを食べたりしながら、自宅に居ながらにしてバスツアーを楽しめるこのツアー。今回は、島根県へのオンラインバスツアー「地域食が実際に届く!現地中継付!おうちでオンラインバスツアー 石見神楽」に参加してきました。

お手製のハンドルとPCを準備する運転手
お手製のハンドルとPCを準備する運転手
お手製のシートベルトをかけながらPCを準備する運転手
お手製のシートベルトをかけながらPCを準備する運転手

創意工夫で参加者をおもてなし

 パソコンの前に座っているバスの運転手さんは手づくり感満載のハンドルやシートベルトを準備し、効果音と映像送出を担当します。中継で結ばれたツアーコンダクターさんは、兵庫県からリモート乗務です。「結婚を機に関西に転居し、このコロナ禍で完全在宅勤務になっていますが、このツアーであればなんら問題なく添乗できます」とのこと。働き方改革の面からも目から鱗です。

 今回のツアーには東京、京都、愛知、福岡、岡山、群馬、香川など全国各地から参加者が集いました。会議アプリに入室し、バスに乗車。

 それに先立って、乗客の手元には島根県の地酒や珍味など特産品セットが届けられています。このツアーには、これらの特産品の購入金額だけで参加できるので、なんだか得した気分です。同封の旅のしおりもバスツアーっぽくて雰囲気が出るし、ツアー客にも配られる手づくり感満載の紙製シートベルトも遊び心をくすぐってくれます。

参加者に送られる名産品と旅のしおり
参加者に送られる名産品と旅のしおり

古き良きバスツアーの趣きも

「ブォ〜〜〜!」というバスの効果音が流れると、動画には瀬戸大橋が見えます。ガイドさんに促されて、17人の参加者全員が簡単に自己紹介をしたり、小柳ルミ子さんの「瀬戸の花嫁」を歌唱するあたりは、古きよきバスツアーそのものです。(チャットで歌詞が出る心配りもありがたい)。

歌の歌詞を記載できるのもオンラインならでは
歌の歌詞を記載できるのもオンラインならでは

 途中で広島県の小谷サービスエリアに立ち寄り、現地からの生中継で人気土産が紹介されました。ネットショッピングのアドレスも教えてもらえるので、その場ですぐに購入することも可能。

 目的地の島根県浜田市に到着すると、現地では神楽衣裳に身を包んだ現地のガイドさんが生中継で我々を迎えてくれます。浜田駅前に設置されているどんちっち神楽時計(からくり時計)を動かしてくれたり、横断幕も登場したりなどの歓迎ムードに思わずほっこり。

現地からは横断幕でおもてなし
現地からは横断幕でおもてなし

 まず訪れたのは三宮(さんくう)神社。普段は中に入ることができないのですが、ガイドさんが中に入り、独特な哀愁ある笛の根と活気溢れる太鼓に合わせて大蛇が舞う「石見神楽(いわみかぐら)」の動画上映を鑑賞します。この臨場感ある映像を見ながら、赤てんをつまみに地酒をちびちび……う〜ん至福です。実際の石見神楽は毎週土曜日の夜に演舞が行われているそうで、「次は実際に足を運びたい」と感想をおっしゃってる参加者もいました。

動画でも迫力満点の石見神楽
動画でも迫力満点の石見神楽

少人数のオンラインバスツアーでこそ味わえる雰囲気

 ツアー客が石見神楽鑑賞をしている間にガイドさんは次の中継先に移動、あっという間に「道の駅ゆうひパーク」へ到着。お客さんがチャットでつぶやいた石見神楽や島根の質問に答えてくれたり、ときに方言が飛び出したり、観光案内や島根県クイズなども楽しめたり、ギュッと凝縮された90分でした。

 ツアー後にはガイドさんや旅行プランナーさん、ツアー客同士でのアフタートークも満喫。徹底したバスツアー感というか、人と人との心の距離が近いというか、「次もこのプランナーさんたちが企画したバスに乗りたい」と思わせてくれる空気が生まれてました。15名程度の少人数で催行される理由も納得です。

 正直言って参加するまで「オンラインバスバスツアー」がどんなものかまったく想像がつきませんでしたが、実際に参加して確信をもって言えることは「オンラインバスツアーのポテンシャルがスゴイ!」っていうことです。

・ステイホームでも気兼ねなく
・距離が離れた親子や友達同士でも(実際に海外に住むお子様と乗車されていた方も)
・長時間移動が難しい方も
・農業、畜産業など、家を離れられない職種の方も
・気になっているがなかなか足を運べてない場所に、気軽にお試しツアーとして

そんな新たな価値をオンラインバスツアーに感じました。

今回のオンラインバスツアー参加者の皆様
今回のオンラインバスツアー参加者の皆様

オンラインバスバスツアーから生まれる新たな旅行の魅力

 参加者のなかには、ベッドに横たわるお母様と娘さんのペアが参加していらっしゃいましたが、「自宅で母の介護をしています。まさか自宅から、こうして母と一緒に旅に出られるなんて思ってもみませんでした」という自己紹介を聞いたときには思わず涙が出てしまいました……。今まで参加できなかった方も参加できる。

 今回のオンラインバスツアーで一番心を揺さぶられる出来事でした。コロナ禍をきっかけに生まれたオンラインバスツアーという新しい旅の形は、多くの人に幸せをもたらすものになるかもしれませんね。

 バス業界でもこの取り組みは広く知られており、同業者がツアー客として乗車してくることもあるそうです。7月には、札幌観光バスが同様のオンラインバスツアーをスタートさせました。今後はオンラインバスツアーが当たり前に選択肢の1つになったら楽しいですよね。

 まだバスツアーを経験したことがない人たちにも、これを機会にぜひ体感してほしいです。そしてなによりコロナが落ち着いたら、あなたもリアルなバスツアーに出かけませんか? 車窓を眺めてゴキゲンに歌でも口ずさみながら。

[やのひろみの「四国COLOR」]

フリーパーソナリティ やのひろみさん
1975年、愛媛県生まれ。有限会社タグプロダクト取締役。イベント音響の裏方スタッフやディレクター、愛媛県のテレビ・ラジオ番組のパーソナリティとして活動中。2010年第47回ギャラクシー賞 ラジオ部門DJパーソナリティ賞受賞。2009年・12年・13年・14年民間放送連盟賞ラジオ部門全国優秀賞受賞。 NPO法人俳句甲子園実行委員会会員、NPO法人国際地雷処理・地域復興支援の会理事、キリンビールを応援する愛媛のお祭り課長 、砥部焼大使第106号、大洲味楽来しいたけ宣伝大使など多くの地域の宣伝やイベントに携わっている