「地域活性化」「健康」「文化・アート」「観光」「環境」「防災」……多岐にわたるテーマを横断的に結びつけ、全国各地のプロジェクトに参画するソーシャルビジネスプロデューサーの大羽昭仁さん。全国各地を見てきた彼が考える、未来の「地域が稼ぐ観光」のあり方とは?
「地方創生」のポイントは、新たな価値を生み出し創ることだと日頃から考えています。そうして創り出した新たな価値で観光や移住・定住といったさまざまな課題を解決するのです。しかしながら、この“新しく創り出す”という思考は、地方で暮らしている人々だけでは、なかなか難しいものです。そこで今回は「どうやって新しい価値を見つけていくか」について書いていきたいと思います。ここで説明する“かけ算”という思考法は、新たなコンセプトを見つけるためのシンプルな思考法です。
情報過多の今、やみくもに情報を発信しても認知・記憶されない
さまざまなプロジェクトでいろんな地域を訪れ、地元の方と話をします。そのなかで必ず出てくるのが「この地にはこんなにすばらしいものがあるんだから、ちゃんと知ってもらえさえすれば必ず観光客がやってくる」という話です。
要するに「テレビ番組などで紹介されれば人がやって来る」という考えです。そのため、地方の観光プロモーションでは「テレビでの露出」が仕様書にほぼ明記されています。最近ではSNSのことも考慮して、「SNSでも情報発信」とも大抵書いてあります。
その一方、現代は情報量過多の時代です。ネットが普及する前と比較すると、世に流通する情報の量は1000倍以上になったとも言われています。もはや人間の処理能力の限界を超え、多くの人が自分の好きな情報しか得なくなってきているのも事実です。これだけ情報が氾濫すると、テレビに取り上げられようがなかなか認知されないし、ずっと記憶され続けることも難しい。あの大河ドラマによる集客効果ですら、そのほとんどが1年限りだと言われています。ましてや若者はテレビすら見なくなっています。テレビ番組で一度紹介されたから言っても、大きな効果は期待できない、または長続きしないのが実情です。
同じ価値観でつながるライフスタイルコミュニティ
世に出回る情報量が増えると、人々は自分の価値感に沿った好きな情報を選択するようになります。好きな情報だけピックアップして認知・記憶するので、“社会の常識”というより“独自の価値観”が築かれやすいのです。
それに加え、SNSなどを通じて似たような価値感やライフスタイルを持つ人たちがバーチャルに、ときにリアルに繋がるようになります。つまりは同じ価値観を持つ人同士が繋がるさまざまな”ライフスタイルコミュニティ”が社会のなかに混在している状態です。
今、この「ライフスタイル」が消費のキーワードになっていて、高価な買い物である観光は「自分のライフスタイルを表現したい・再確認したい」というモチベーションを満足させるものでなくては成立しません。そのため、たとえばアウトドアに関心がない人に「良いキャンプ場があって自然が素晴らしい場所ですよ!」とPRしてもまったく意味がありません。ライフスタイルや価値観が異なるからです。