企業秘密がいっぱい。安くておいしい豆苗の生産現場を訪ねてみた

安くていつでも手に入り、くせがないおいしさで料理の使い勝手もいい「豆苗」。根っこや種がついた状態で売られているけれど、どのようにつくられているのか、なぜ出荷の途中で成長しないのかなど、考えてみたら不思議です。その謎を解き明かしに山梨県北杜市の「村上農園 山梨北杜生産センター」を訪れました。

種から豆苗に成長するまでは約2週間

発芽した豆苗

 豆苗はなぜどの種も全部、同じスピードで育つのか? 種からどうやって育てられているのか? いつもスーパーで見かける豆苗には不思議なことがいろいろあります。

 スプラウト(種子発芽直後の植物の新芽のこと。発芽野菜)のトップ企業である「村上農園」の豆苗専用の植物工場に、その答えを見つけに行きました。

 まずは豆苗の生産工程を学びます。海外の委託農家から仕入れた種を洗浄し、2晩ほど給水させ、1つのスペースに200粒以上の種を入れて、土の中と同じ環境の「促成室」という部屋で均一に発芽させる準備をします。

 工場を案内してくれた広報マーケティング室の松井真実子さんによると「豆苗は促成室の段階がとても重要。村上農園の企業秘密です」とのこと。室温・湿度・照度など、中は完全にマル秘エリア。近寄ることも撮影も一切許されませんでした。

工場で整然と並ぶ豆苗

 その後、光が降り注ぐ「緑化場」へ。天井には開閉式の遮光カーテン、床上一面に温湯管が張りめぐらせて温度管理しています。
 エアコンなどは使わず、通称「パット&ファン」と呼ばれる気化熱を利用した壁一面の散水システムと巨大な扇風機で室温と湿度を自動コントロール。こうした工夫によって種から均質にスクスク育ち、約2週間でパック詰めされて出荷されます。

一貫した温度管理で出荷途中も仮眠状態に保たれる

工場で加工されている様子

 パック詰めされた豆苗は、「コールドチェーン」という仕組みで1日に最大約15万パックが店頭へ運ばれます。コールドチェーンとは、生産から輸送・消費まで、一貫して所定の低温度を保ったまま流通させる物流手法です。

 パックした豆苗を製品庫で3~5°Cの温度で予冷してから、冷蔵トラックで運ばれるので、ずっと仮眠状態で店頭まで届くのです。「出荷の途中で豆苗がスクスク成長しないのはなぜ?」という疑問がついに解決しました!

 ちなみにここまでの工程で、農薬は一切、登場しませんでした。クリーンな植物工場で農薬を使わないで栽培しているんですね。

豆苗は栄養素の宝庫。おすすめは「豆苗チャンプルー」

豆苗チャンプルー

 豆苗のパッケージに紹介されていた豆苗チャンプルーをつくってみました。アクが少なくそのまま使えるので切って炒めるだけ。豆苗は生でも食べられるので、わが家はそのままサラダに使うことも。くせもないので野菜嫌いの子どもでも食べやすいと思います。このうえ見た目以上に栄養素が豊富というから驚きです。

 村上農園の豆苗なら約1/2パックで、大人の女性が1食でとるべきビタミンKのほか、ビタミンA、葉酸、ビタミンCの7割以上を摂取できるそう。ビタミンKは骨の形成を助けるので、骨粗しょう症予防にぜひ食べたいですね。

 また、食物繊維を多く含むので、腸内細菌のバランスを改善し、有害物質の発生によるエネルギー代謝の低下を防ぐ働きも期待できます。しかも、何種もの抗酸化ビタミンを含んでいて、コラーゲンの生成に欠かせないビタミンCも豊富。

 豆苗は安くておいしくてかさ増しにも便利な主婦の強い味方とは思っていましたし、わが家では豆苗が高頻度で食卓にのぼりますが、工場見学ではまったく知らないことばかりでした。「豆苗」の知られざる真実、生産者の企業努力を知って、ますます豆苗のファンになりました。

<取材・文/脇谷美佳子>

脇谷 美佳子(わきや・みかこ)さん
東京都狛江市在住。秋田県湯沢市出身のフリーの“おばこ”ライター(おばこ=娘っこ)。二児の母。15年ほど前から、味噌づくりと梅干しづくりを毎年行っている。好物は、秋田名物のハタハタのぶりっこ(たまご)、稲庭うどん、いぶりがっこ、きりたんぽ鍋、石孫の味噌。