秋の夜長にきれいな音色を聞かせてくれるコオロギですが、資源効率のいいタンパク源として注目されています。コオロギをみそに使う試みを、実践料理研究家の岩木みさきさんが紹介してくれました。
コオロギは人口増加に対応できるタンパク質
長崎県西海市に活動拠点がある「バグズウェル」さんから「コオロギパウダーでコオロギみその試作をしてほしい」とお声がけいただいいたのは、2021年夏のことでした。
バグズウェルさんは、「人類と地球を健康に」を企業理念に、栄養価の高いコオロギを中心とした昆虫食を食材のスタンダードにしようと啓蒙・研究開発している企業です。2030年には地球上の人口は今より約10億人増え、人口に対するタンパク源がたりない状況がやってくるといわれるなか、有効な解決策として、昆虫＝コオロギを食べることを提唱されています。
筆者は今まで昆虫を食べる機会はなく、正直、心のハードルがありましたが、これから必要になっていく食材だという話を聞き、挑戦してみることにしました。「携わるならやっぱり自分の目で見て現場の様子を直接知りたい」そう思い、2021年10月末、まずは実際にコオロギの養殖現場へ視察に伺いました。
飼育現場でコオロギを試食。おいしい！
コオロギは寒さに弱いため25℃前後の環境で管理され、8回もの脱皮を繰り返しながら、30～40日程度の短期間で成虫になります。4畳ほどのスペースに衣装ケースがずらりと並べられ、生まれたての赤ちゃんの状態、アリ程の大きさになった状態、だんだんと成虫になる段階でケースをわけて飼育されていました。
1つのケースの中には約7000～8000匹、総数6万匹もいると聞き、私の心臓のドキドキは増すばかり。「跳ねるけれど飛んだりしないんですよ」と私の様子を見て代表の津本さんが教えてくれて、ちょっと力が抜けました。
飼育方法は、ケースの蓋の開放具合で温度と湿度の調整を行ない、エサは糠やいりこの粉末、キャベツや白菜などのやわらかい葉物のほか、近隣のスーパーで余ってしまう季節の野菜を活用するそう。
食べているものがシンプルなので糞から嫌な臭いはせず、ケース内の掃除は糞と脱皮した殻を小さなほうきやザルでふるって集める程度と、とても簡単です。
現地では津本さんがコオロギパウダーで試作されたラー油やマー油などの調味料や、チョコレートも試食させてもらいました。昆虫というイメージとは裏腹に「おいしい。うま味がある」。それがコオロギを食べた最初の感想でした。
コオロギみそはキノコやハーブと好相性
東京へ戻ってきて、コオロギみその試作を開始。コオロギパウダーの袋を開けると、チャコールグレー（やわらかみのある濃いグレー）の粉末が入っていて、焼いたキノコや土のようなコクのある強い独特な香りがしました。
長崎で食べて知ったコオロギのもつうま味と、この個性ある香りのいかし方が重要だと感じ、混ぜる配合やタイミングを変えながら、何十パターンもの試作を進めていきました。
昆虫食を初めて体験する人の心のハードルを少しでも解決する印象にしたいと思い、コオロギみそはチャコールグレーの色味もいかし、やさしい雰囲気に仕上げられたらいいなと思いました。
色々試作して出来あがったコオロギみそは、やっぱりキノコを思わせる香りがあったので、オススメのおみそ汁の具材はマッシュルーム。バジルやディルなどのハーブとも相性がよく、焼きおにぎりには森もイメージしてバジルみそでつくってみたら、とてもよく合いました。
昆虫食については私もまだまだ学んでいる段階ですが、生産者側を知ることで、消費者側のおいしいと感じる気持ちは変えていけるとあらためて感じました。コオロギみそを体験いただけるのはもう少し先になりそうですが、地球のこと、人類のことを考えて懸命に取り組まれているバグズウェルの皆さんを応援したいと思います。
＜取材・文／岩木みさき＞
実践料理研究家・みそ探訪家／岩木みさきさん
拒食症・過食症・ひどい肌荒れに悩み、食生活を見直し改善に成功。「日々の中で実践できることが健康につながる」と考え、「生産と消費のサイクルを紡ぐ」をテーマに、日本各地の現地取材、レシピ考案・撮影、ラジオやTV等のメディアにも出演。日本の伝統調味料 “みそ”に魅せられ日本各地のみそ蔵約70ヶ所130回以上訪問、木桶みその輸出サポートも行なっている。Instagramでは日々のおみそ汁を発信。YouTubeも配信中。代表著書に『みその教科書』『１分 美肌みそ汁』。
