磯を荒らすウニを特産品に。国東市で海の循環型ビジネスが話題

大分県国東(くにさき)市の富来浦(とみくうら)に、ウニ(ムラサキウニ)を陸上で畜養している閉鎖型海水循環施設があります。そこで行われているのは、海底の藻場を食い荒らすだけの「やせたウニ」を、商品価値のある「立派なウニ」に育て上げて出荷する画期的な循環型ビジネス。おいしいウニが通年食べられる仕組みを、現地から密着リポートします。

大分県にあるムラサキウニの畜養施設

大分の絶品ウニ

 キレイに箱に並べられた板ウニなどでは、形を保つためにミョウバンが使われることが多く、使いすぎるとウニ本来の味が損なわれることがあると言われます。

 今回ご紹介するおいしいウニは濃厚なうまみと甘味があり、1粒1粒の粒が立ち、食べるとふわりと溶けて、口いっぱいに磯の香りが広がります。ウニは苦手という人も、ミョウバンを使用していない無添加塩水のウニを食べたら、そのおいしさに驚くはず。

大分ウニファーム

 臭みが一切ないクリアな味わいが特長のウニを育てているのが、国東町の「株式会社大分うにファーム」です。このムラサキウニの陸上畜養施設は、海底の砂漠化といわれる「磯焼け対策」を目的として2021年4月、大分県国東市の富来漁港に完工されました。
 海水を循環するろ過装置とウニを畜養する水槽が84台設置されていて、年間13tのウニが出荷可能とされています。

大分ウニファームのウニ

 磯焼けとは、ウニをはじめ藻を食う動物による食害などによって藻場が荒れ、海藻・海草が死滅し、海底が砂漠化する現象です。ほかにも海流の変化や沿岸の環境汚染などが原因でも起こります。
 磯焼けになると、海藻を食べるアワビなどの貝や魚が獲れるなくなるので、漁師さんにとっては死活問題。一方で藻や海草を食べ尽くしたウニは身がやせ、商品価値のない「磯焼けウニ」と呼ばれる海の厄介者扱いに。

 大分うにファームは、リソースや予算をウニの駆除に当てるのではなく、価値あるウニに育てることに使います。代表取締役の栗林正秀さんは、漁師の家に生まれ、地元の漁業と経済の縮小に危機感を感じてカキ養殖などに取り組んでいました。

ウニファームの栗林社長など
写真右から2番目が大分うにファームの栗林 正秀社長。1番左が宇佐美 剛さん。

 2017年から試験畜養に着手し、2019年に商業規模でウニ畜養事業を行う大分うにファームを「ウニノミクス株式会社」とともに共同設立。2021年春より本格的に稼働を開始しました。当時、ウニノミクス社が提携していたノルウェーやオランダ、カナダ、アメリカなど世界各国の大学や研究機関のなかにも畜養試験に成功しているところはありましたが、商業規模の展開にいち早くたどりついたのが、大分うにファームだったのです。

厄介者のやせウニから身を太らせた絶品ウニへ

やせウニが成長

 生産のしくみは、まず地元の漁師さんたちの協力を得て、磯焼けウニを獲ってきてもらい、それを買い取るところから始まります。その後、ウニは陸上畜養施設で毎日、栄養たっぷりのエサを2日に1回与えられ、元気いっぱいに育てられます。やせウニともいわれる磯焼けウニ(写真左)が、2か月の畜養で身がこれほどまで成長するのです(写真右)。

 ウニのよし悪しはエサで決まるといわれています。大分うにファームで使うエサは、持続可能な方法で収穫された良質な昆布の端材を有効活用した配合飼料。抗生剤、ホルモン剤、保存料、魚肉、魚油を使わない安心安全な環境にやさしいエサです。昆布のうまみがギュッと詰まった飼料をもりもり食べ、ウニ本来の味が育まれます。

 水質チェックはpH計器等で常に観察され、環境先進国のオランダから輸入した、オフシーズンでも成長を促進する「閉鎖循環システム」は、くみ上げた海水を浄化して何度も再活用できる環境負荷のないシステム。厄介者のやせウニが、適切に保たれた循環水槽の生育環境で約2か月間、愛情いっぱいに育てられ、天然の高級ウニにも匹敵するおいしさのウニに成長するのです。

 このウニたちは、大分初の陸上畜養ウニ「豊後の磯守」(ぶんごのいそもり)として無添加塩水パックにされて2021年8月から大分県内や首都圏の飲食店向け出荷され、Eコマース、台湾への輸出も開始されました。

ウニの生育環境

 大分うにファームの宇佐美剛さんは、「市場では無価値と見なされ、駆除、廃棄されてきた磯焼けウニに、大分県の漁業者はそれまで目を向けていませんでした。陸上畜養も最初の1年間は大失敗つづき。でも、完成したウニを地元漁師さんたちに食べてもらったところ、そのおいしさは驚きをもって受けとめられました」と話します。

 2020年には別府市の活魚回転寿司店「水天」で生きたまま調理し、殻つきで試験販売をしたところ、「味のバラつきが少ない」「天然ウニのように旬に限らず、高品質のウニを安定的に通年供給できるのがいい」「数量や時期が調整しやすい」「ほのかな甘味があり食べやすい」「板ウニ特有のクセがなく、万人に受け入れられる」と高い評価を得ました。

 また、別府温泉や由布院温泉の旅館にサンプルを持参して、これまでのストーリーを説明したところ、地球環境や社会にやさしいエシカル(倫理的な)商品」と評価されました。

磯焼けウニを食べると地球が元気になる

「豊後の磯守(R)」無添加塩水パック100g入り7,980円
「豊後の磯守(R)」無添加塩水パック100g入り7,980円(税込・送料別)

 大分うにファームが取り組むウニ畜養事業は、ウニを間引きして藻場を回復させる循環型ビジネスです。そのコンセプトは次の4つ。

①藻場を磯焼けから回復させることは生物多様性を担保する貴重なエリアの復活であり、地球環境保護の役目をする
②沿岸地域の雇用創出と地域振興、地域経済の活性化
③陸上での畜養により、天候に影響されず安全な労働環境を整え、安定的に周年出荷し、ウニの国内自給率を向上する
④漁業者と水産業者、流通業者、飲食店、消費者など、関わる人すべてがウェルビーイングなビジネスと環境保護モデルを構築する

 大分うにファームのウニを私たち消費者が食べることで、人と地球がウイン・ウインになります。このビジネスモデルは2022年、国連の公式推薦を受け、現在も進化し続けています。

 そんなエシカルでサスティナブルな大分発の陸上畜養ウニ「豊後の磯守」をぜひ食べてみたいという多くの声に応えて、2021年12月10日より産直通販サイト「食べチョク」での販売がスタートしました。値段は100g入り7980円(税込・送料別)です。

<取材・文/脇谷美佳子>

脇谷 美佳子(わきや・みかこ)さん
東京都狛江市在住。秋田県湯沢市出身のフリーの「おばこ」ライター(おばこ=娘っこ)。二児の母。15年ほど前から、みそづくりと梅干しづくりを毎年行っている。好物は、秋田名物のハタハタのぶりっこ(たまご)、稲庭うどん、いぶりがっこ、きりたんぽ鍋、石孫のみそ。