環境保全と観光の両立を目指して。沖縄竹富島でのリゾートの取り組み

沖縄県八重山諸島のひとつ、竹富島はエメラルドグリーンの海に囲まれたサンゴ礁の離島です。自然が大切に守られた観光地として成功している背景には、観光事業で生きていかざるを得なかった歴史と、リゾート企業との共存努力がありました。

災害で農地を手放し、観光事業へ

「竹富島地域自然資産財団」の水野景敬さん

 東京から直行便で約3時間半の石垣島から、高速船に乗り継いでわずか15分ほどの距離にある竹富島は、年間50万人もの観光客が訪れます。この小さな島がこれだけの成功をおさめているのは、赤瓦屋根の家々、珊瑚の石垣、白砂の道、屋根の上のシーサー、沖縄の美しい原風景と伝統文化が今なお大切に守られているからにほかなりません。

 こんなにも美しく保たれている理由を調べるため、竹富島で環境保全・トラスト事業を行っている竹富島地域自然資産財団を訪れました。

 財団の水野景敬さんによると、八重山諸島を含む沖縄県は1970~1971年に立て続けに深刻な干ばつと猛烈な台風に見舞われ、壊滅的な被害を被った結果、竹富島も農地のほとんどを失い、多くの島民が土地を手放し、島を後にしたそうです。

 このとき竹富島で手放された土地は1/4とも1/3ともいわれ、この機に複数の島外開発業者による土地の買い占めが本格化したそう。それに対して島内で起こったのが「買い占め反対運動」で、この運動から醸成されたのが、1986年に制定された「竹富島憲章」という、島を守るための基本理念でした。

 農民であることを諦め、観光事業で生きていくことを決断せざるを得なかった人々は、竹富島憲章の「売らない、汚さない、乱さない、壊さない、活かす」を元に、売られた土地は借金により買い戻し、返済ができずに再び売られるということが続きます。

赤瓦屋根の家々

 そんななかで「土地を売らずに竹富島を生かす道」を模索した竹富島の上勢頭(うえせど)保さんと星野リゾートの星野社長が共同代表となり、「株式会社竹富土地保有機構」を設立しました。
 住民からは、「星野リゾートが来たら民宿が潰れるのではないか」など、開発への不安や反対の声が上がり、島を二分する騒ぎになりました。なかには竹富島憲章は破綻したと考える島民もいたそう。

星野やリゾート

 森につくられた島と共生するリゾート「星のや竹富島」は開業に至るまで、約7年もの歳月をかけて島民との話し合いを重ねました。そして2022年6月1日、「星のや竹富島」は開業から10周年を迎えました。

星野やリゾートの内部

 竹富島を深く理解し、「島が大事にすることは、星のや竹富島も守る」という思いのもと、共生できる理想的な道を探ってきました。「星のや竹富島」の社員は、島の住民として、「てーどぅんひと」(竹富人) として、祭事や行事にも参加しています。

竹富島の自然を持続可能な形で守る

海水淡水化熱源給湯ヒートポンプユニット

 竹富島は、珊瑚礁が隆起してできた周囲約9kmの小さな島です。透き通るエメラルド色の海と白砂が広がる美しい浜辺がありますが、山や川がないため、島民は井戸を掘り、雨水を溜め、水を確保することにさまざまな工夫を凝らして生活してきました。今でこそ石垣島からの海底送水管を通って水が供給されていますが、現在も約20もの井戸が残されています。

 2021年2月13日から、「星のや竹富島」で日本初の取り組みである「海水の淡水化」による水の自給が始まりました。太陽光発電パネルを動力源に、「海水淡水化熱源給湯ヒートポンプユニット」というシステムで地下12mから海水をくみ上げてタンクに貯め、フィルターに通して淡水にし、1日に60tの真水をつくります。この仕組みで、飲料水や浴室の水を含む9割を自給できるようになりました。

貯水タンクと太陽光パネル

「星のや竹富島」が日本初の「海水淡水化熱源給湯ヒートポンプユニット」を導入してからは、客室に置くペットボトル入りの水をやめ、年間1万4000本ものペットボトル削減につながりました。この装置を実現するために奔走したのが、足立淳さんです(写真)。

 2021年3月、「竹富島地域自然資産財団」と「星のや竹富島」が、竹富島の自然環境と、持続的な島文化をずっといっしょに守っていこうという趣旨で、パートナーシップ協定を締結しました。

干ばつにも台風にも負けない観光地

星のリゾート竹富の内部

「海水淡水化熱源給湯ヒートポンプユニット」は、災害時には自立稼働し、施設内で水と湯、電力の自給ができ、台風や干ばつがあった際には竹富町内の避難所として、「星のや竹富島」が指定されています。

「離島がどこにも頼らずに生きていける方法を、20年以上前からずっと模索していました。このフィルター装置を通せば、海水が一瞬で真水に変わります。ここで使っている蓄電池は、自動車会社と交渉して保証期間を伸ばしてもらって再利用しているんですよ」と足立さん。

 2万坪あるこの敷地内では、「竹富島景観形成マニュアル」に従って、島内の家々と同じように南向きに建てられた戸建の客室が48部屋あり、白砂の路地、プールなど、小さな集落が構成されています。南向きに建てられる理由は、南風(ぱいかじ)は幸せを運ぶからです。

 今後は来訪者に向けて、共に竹富を守っていけるよう、観光ルールやマナーに共感し、地域に寄り添った行動をしていただけるようなコピーやビジュアルを新たに制作し、竹富町の観光ポータルサイトや SNS などで活用していく予定だそう。

 筆者はまさに、「またあちゃーやーたい!」(またね)との挨拶で、今回の旅では曇っていたため見られなかった竹富島の満天の星を見に、また来ようと思っています。

<取材・文/脇谷美佳子>

脇谷 美佳子(わきや・みかこ)さん
東京都狛江市在住。秋田県湯沢市出身のフリーの「おばこ」ライター(おばこ=娘っこ)。二児の母。15年ほど前から、みそづくりと梅干しづくりを毎年行っている。好物は、秋田名物のハタハタのぶりっこ(たまご)、稲庭うどん、いぶりがっこ、きりたんぽ鍋、石孫のみそ。