アップサイクルとは、廃棄予定のものに再び手を加えて、元よりも価値の高い新たな製品として生まれ変わらせること。今回は長野市のアップサイクル・フードの取り組みと、新たな食品流通サービスを取材しました。
行き場のない食品原料がグルメ缶詰に変身
2023年2月、「長野アップサイクル・フード」から「ふくふくレバー6種」が発売されました。
長野アップサイクル・フードとは、長野市に眠る原料や端材を発掘して新たな食資源として活用し、付加価値を高めた新製品として生まれ変わらせることで、長野市の企業ICS-netと長野市の産官学連携組織「NAGANOスマートシティコミッション(NASC)※1」が協働しているプロジェクトです。
長野市において「食品(フード)ロス」を「資源」として生かし、地域をより豊かにするための「長野アップサイクル・フード」。その第一弾が、信州を代表する銘柄鶏「信州福味鶏」の余剰食材となっていたレバーとハツを使用したグルメ缶詰です。
ひとつひとつ丁寧に手作業で製造される「ふくふくレバーシリーズ」は、化学調味料・保存料不使用で、レバーとハツの臭みが極力抑えられ、ぜいたくなおかずとして楽しめます。
(※1)NANANOスマートシティコミッション(NASC)とは、「20230年、サーキュラーシティ、NAGANOになる」をビジョンに掲げ、長野市を中心とした地域内外の事業者、団体、大学等高等教育機関、金融機関、行政機関などが参画する団体で、長野市発の新産業の創出と、地域課題の解決に向け活動。
食品原材料のサプライチェーン構造を大きく変えた「シェアシマ」
世界では、1年間で生産された食品のうち40%にあたる約25億tが廃棄されています。2020年度の日本の年間食品ロス量は522万t。そのうち、「家庭系」が47%。残り53%は、小売店の売れ残りや飲食店の食べ残しなどによる「事業系」。事業系のなかでも私たち一般消費者にはなかなか認識しづらい「生産や卸の工程で発生する食品ロス」は121万tで、全体の23%を占めています。
日本の食品製造業および食品卸売業では、商習慣や制度などによって使用されなかった食品原料や、製造過程で生じる端材が多く存在します。生産や卸の工程で発生する「余剰原料」が廃棄されていることは、あまり知られていません。
なぜなら食品製造の過程で生じた余剰原料は「余剰となったこと」自体が企業の評判を下げることにつながるため、表に出すことが難しいからです。しかし、食品ロス削減を推進するには、事業系の食品ロスを減らすことに大きな意味があります。そのためには社会の仕組みと意識を変えることが必要。
その変革のために登場したのが、食品原材料のサプライヤーとバイヤーによるWeb売買プラットフォーム「シェアシマ」。「食品ロス削減推進法」が制定された2019年にICS-netが運営を開始したサービスで、食品製造段階で滞留している原料在庫の買い手をリアルタイムで探すことを可能にし、新たなサプライチェーンを構築しました。
語源は、「その原料シェアしませんか?」というフレーズ。製造工程における食品ロスを減らすことを目標にしています。
長野県出身でICS-netの代表取締役である小池祥悟さんは、1998年に北海道酪農学園大学を卒業後、マルコメ株式会社に入社し、製造、営業、商品企画、商品開発など、さまざまな部署を経験。
「展示会などでシェアシマの仕組みを説明すると、食品業界の人々からは歓迎する声が多くあがりました」と小池さん。2019年秋にサービスを開始した「シェアシマ」は、食品業界の仕組みを変え得るサービスとして注目され、株式会社経済界主催のベンチャービジネスコンテスト「金の卵発掘プロジェクト2020」でグランプリを受賞。
2021年1月時点で登録ユーザー数は食品メーカーを中心に680社だったのが、2022年12月には2600社まで増加しました。「食品原料を売りたい企業」と「食品原料を買いたい企業」を結びつけ、「シェアシマ」内に構築された食品原料のセカンダリーマーケット(=再流通市場)の機能がじわじわと拡大しています。かつて1tの未利用原料から新たな商品として生まれ変わり、再流通した事例もありました。
アップサイクル・フードを長野から世界へ
長野アップサイクル・フードを「長野市モデル」として全国に展開していくことを目指し、第2弾として、信州の観光みやげのウエハースの端材を使用したアップサイクルビール「信都ご縁エール」も発売。
世界ではすべての人が十分に食べられる食料が生産されているにもかかわらず、10人に1人が飢餓状態にある現状。先進国ではたくさんの食料が廃棄され、開発途上国では貧困や自然災害、紛争などにより食料不足におちいり、世界中で「食の不均衡」が起きています。こうした取り組みは、世界の「食の不均衡」を解決する糸口にも。
「ふくふくレバーシリーズ」で使用される信州福味鶏は、低カロリー高タンパクが特徴で、空気のキレイな信州の大自然のなかでミネラルとビタミンたっぷりの栄養価の高いエサを与えられて、大切に育てられています。信州福味鶏のこの「ふくふくレバー」を口に入れると、たくさんの人々のつながりを感じ、滋味あふれる味がいっぱいに広がりました。
<取材・文/脇谷美佳子>
脇谷 美佳子(わきや・みかこ)さん
東京都狛江市在住。秋田県湯沢市出身のフリーの「おばこ」ライター(おばこ=娘っこ)。2児の母。15年ほど前から、みそづくりと梅干しづくりを毎年行っている。好物は、秋田名物のハタハタのぶりっこ(たまご)、稲庭うどん、いぶりがっこ、きりたんぽ鍋、石孫のみそ。