実践料理研究家の岩木みさきさんは、「生産と消費のサイクルを紡ぐ」をテーマに、食にまつわる生産者や職人のことをもっと知りたい!と日本全国を訪ね歩いています。現地取材で得た貴重な情報を共有できる連載第1回目は、沖縄の海から生まれた「塩」。
海水を竹と自然の海風を使って濃縮させる製法
今回訪れたのは、沖縄本島からフェリーで2時間20分の距離に位置する離島、粟国島(あぐにじま)。島の周囲は約12kmほどと小さく、観光地としてあまり知られていない島のため、今でも沖縄ののどかな暮らしと豊かな自然が残っています。
粟国島は無風のときはないという、自然な塩づくりをするのに適している気候が特徴。「粟國の塩」は都内のスーパーでも購入できますが、どのようにつくられているのかを知りたくなり、製造現場へうかがいました。
「粟國の塩」を製造している沖縄海塩研究所は、粟国港と反対側の最北部にあり、車で10分程。粟国港そばの観光協会では自転車の貸し出しも行なっているので、天気がよければサイクリングがてら行ってみても気持ちいいと思います。
製塩所の建物は海のすぐそばに。海からポンプで直接吸い上げられた海水は、通称「花ブロック」と呼ばれる穴あきブロックを四方に積み上げた高さ10mの建物「採(さい)かんタワー」に運ばれます。(※濃い海水を採取する作業を採かんといいます)
海水は15000本の孟宗竹(もうそうちく)をつたい、自然に吹く海風に当てることで水分だけが飛ばされ、塩分濃度の濃い液体だけが落ちるという仕組みを利用し、濃縮させていきます。1回約30トンの濃縮作業を行なうそうで、1週間以上かけて塩分2~3%の海水を20%前後になるまで何度も竹に通し循環。雨が降ると作業はストップ、太陽の出方や海風の吹き方で数週間かかることもあるといいます。
濃縮された海水「かん水」は平釜と天日で乾燥
1つは平釜という製法。薪を燃料に30時間かけてゆっくり煮つめていくのですが、混ぜ続けないと焦げてしまうため、炊きあがるまで交代制で作業を行ないます。火を止めずに炊いた方がふわふわのキレイな塩に仕上がるそうで、マグネシウムやカリウムなどの60種以上のミネラル成分を残すことができます。炊き上がった塩は脱水槽と呼ばれる容器に移され、6~18日ほどかけて自然乾燥させ、約240kgの塩ができ上がります。
もう1つは、温室のプールで天日により結晶化させる昔ながらの製法。夏場で20日、冬場で60日ほどかかるそうですが、天候の影響も受けながら時期によっては3、4か月かかることもあるそう。こちらも脱水槽に移し自然乾燥させ完成させます。
天日製法は時間がかかるため、数量限定の貴重品。低温で時間をかけてつくられた塩は結晶が大きく、岩塩のようにガリッとする食感で味わいもしっかり塩味を感じます。平釜製法は海藻のような風味も感じられ、どちらもミネラル豊富な塩に仕上がっています。
海塩の第一人者としても有名な、創業者の小渡幸信(おど こうしん)さんの「命は海から」という思い。道具も人体に無害なものを使いたいと、20年余妥協することなく取り組まれてきた製法が、今では島の雇用を生む大切な産業にもなりました。現在は23名の従業員の方々が一生懸命塩づくりに励まれています。
人工的な製法で造られる塩は数日で完成しますが、身体のことを考え、こうした手間と時間をかけた昔ながらの製法を継いでいる生産者を応援したいと思っています。食卓を支えてくれている生産者の想いを消費者へ届けるため、これからも全国探訪します。
●株式会社 沖縄海塩研究所
・住所:〒901-3702 沖縄県島尻郡粟国村字東8316
・電話:098-988-2160
・FAX:098-988-2178
・工場見学:9時~18時(年中無休)
<取材・文/岩木みさき>
実践料理研究家・みそ探訪家/岩木みさきさん
拒食症・過食症・ひどい肌荒れに悩み、食生活を見直し改善に成功。“日々の中で実践出来ることが健康につながる”と考え“生産と消費のサイクルを紡ぐ”をテーマに、日本各地の現地取材、レシピ考案・撮影、ラジオやTV等のメディアにも出演。料理教室misa-kitchenを主催。講演やイベント含む料理教室講師回数は1350回を超える。“みそ”に魅せられ日本各地のみそ蔵約60ヶ所100回以上を訪問。著書に「みその教科書」(エクスナレッジ刊)
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