「きつね」にあんをかけたら「たぬき」に。京都人が愛するうどんを紹介

京都には昔から地元民に愛され、「京うどん」と呼ばれる独特のうどん文化があります。たとえばきつねうどん、たぬきうどんという名称も、東京のそれとは姿かたちから味わいまでまったく異なるそう。今回は食育マスターの羽山涼子さんが京うどんと、その裏に隠された京都の文化を紹介してくれました。

京都人はあんかけうどんが好き

あんかけうどん

 京都でうどん屋さんに入ると、あんかけメニューの多さに驚くと思います。京都市は盆地なので、冬はいわゆる「底冷え」でとても寒く、熱々のあんかけうどんが京都人の体を温めてくれるのです。麺はあんが絡みやすいように、こしがなく柔らかい食感になっているのも特徴です。
 
 関東地方でのあんかけうどんといえば具だくさんのおかずがのったうどんと聞きますが、京都のあんかけうどんといえば「あんにおろしショウガ」が入っただけの、極めてシンプルなうどんを指します。消化がよく、あんとショウガの相乗効果で体がポカポカ温まるので、風邪をひいたときはあんかけうどんを食べる、という京都人も多いです。

 具のないうどんを見ると「物足りない」と感じるかもしれませんが、京都の人は倹約家気質の持ち主が多く、なにも具が入らないあんかけうどんをこよなく愛しているのです。

「けいらん」は一番人気のうどんメニュー

けいらん

「あんかけうどん」は具のないうどんというお話をしましたが、具が入るメニューもあり、それには独特の呼び名がついています。まずは「けいらん」。

「けいらん」は漢字では「鶏卵」、読んで字のごとく卵をとじたあんをうどんにかけ、ショウガを添えたうどんのことです。倹約家の京都人にとって、鶏の卵はぜいたく品だったので、それだけでありがたいという思いからつけられた名前だそうです。カツオだしでつくったあんに卵を溶き入れ、強火で一気に煮立てると、卵が薄い膜状につながってふんわりした卵のあんができ上がり、見た目も華やかなうどんになります。

京都の「たぬきうどん」は揚げ玉なし

 京都のあんかけうどんのなかで、府外の方を最も混乱させるメニューが「たぬきうどん」です。京都のたぬきうどんを理解するためには、その前に「きつねうどん」について知っておく必要があります。

きつねうどん

 一般的に「きつねうどん」というと、甘辛く煮た油揚げがのったうどんを指し、「たぬきうどん」というと、揚げ玉がのったうどんを指すことが多いですね。ところが、京都では「きつねうどん」というと、味つけのない短冊状の油揚げがのったうどんを指し、「たぬきうどん」というと、そこに九条ネギをのせてつゆをあんかけにしたうどんを指します。「きつねうどん」にドロンとしたあんがかかる様子から、「きつねがドロンと化けてたぬきになる」というのが由来だとか。

たぬきうどん

 ちなみに、一般的な甘辛い油揚げののった「きつねうどん」は、京都では「甘ぎつね」と呼ばれ「きつねうどん」とは別物です。京都で出される「きつね」も「たぬき」も油揚げが細かく刻んであるのには「舞妓さん」が食べやすいように、という理由があります。京都が誇る舞妓さんの文化が、うどんのメニューにまで影響しているとはおもしろいですね。

「きつね」と「たぬき」は京都だけでなく、地域によって独特の内容に変わっている事も多いので、いろいろと調べてみると楽しいですよ。

長崎料理とコラボした「しっぽくうどん」

しっぽくうどん

 京うどんのメニューのなかでは珍しく豪華な具だくさんメニューといえば「しっぽくうどん」です。しっぽくうどんは、シイタケ、かまぼこ、湯葉、卵焼き、ホウレンソウ、庄内麩などが華やかに盛られています。

 「しっぽく」と聞いて最初に思い浮かぶのは長崎の大皿に盛られた宴会料理かもしれません。しっぽく料理は江戸時代中期頃に長崎から京都に伝わったとされていますが、そのなかに大皿に盛ったそうめんの上にたくさんの具を載せた料理があったとされ、それを京都のうどん屋さんがまねたのが「しっぽくうどん」の始まりといわれています。

 ここで気になるのは「しっぽくうどん」はあんかけなのか、あんかけでないのかですが、「しっぽくうどん」はあんかけではありません。ただし、「しっぽくうどん」をあんかけにしたメニューは別にあり、「のっぺい」と呼ばれます。

のっぺいうどん

 しっぽくうどんは関東地方で「おかめ」と呼ばれるうどんと似ています。おかめうどんはのせた具材が「おかめさん」の顔に見えることからそう呼ばれるようになったそうですが、「のっぺい」はそのおかめさんの顔にあんかけがかかると「のっぺらぼう」になることからついた呼び名だそうです。

 京都のうどんメニューは名前を見ただけでは中身の想像がつかないものも多いですが、その背景を知ると京都の文化や歴史と深く関係していることがわかり、おもしろいですね。

 自宅でも手軽につくれますので、うどんに隠れた郷土の文化を話しながら、温かいあんかけうどんを楽しんでみてはいかかでしょうか。

子どもとうどん

<取材・文/羽山涼子>

[地元の食文化から食育を考える]

羽山涼子(はやまりょうこ)
京都市在住。二女の母。医師・日本キッズ食育協会マスタートレーナー
内科医として働くなかで、子どもの頃から自分の食について考える機会をたくさんもつことができれば、大人になってからも健康な生活を送ることができるのではないかと感じ、多くの子ども達にキッズ食育を届けるための活動をしている。

(社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチン京都仁和寺スクール主宰