キッチンの常備食材「ゴマ」。でも、ゴマの国内生産量はとても少なく全体のわずか0.1%以下。機械化できる部分も少なく、手間がかかる割に収益率が低いため、農家に敬遠されるのが理由のひとつだそう。そんな希少な国産ゴマを生産している宮崎県北諸県郡三股町(みまたちょう)を、実践料理研究家の岩木みさきさんが訪れました。
ゴマは乾燥した土地を好み、約3か月で収穫できる
三股町は年間を通じて気候が温暖なため、ゴマ栽培に適した土地だそう。この地で採れるゴマは「みまたんごま」と称され、江戸時代には関西へ換金作物として出荷されていました。
今回、伺ったのは「しも農園」。代表の下石さんはもともと商工会の職員だったそうですが、「産地復活」や「国産0.1%への挑戦」を掲げてゴマ栽培に従事していた生産者の影響で、今では自身が生産から加工まで行う六次産業に取り組んでいます。「食と農を通じてお客様の健康と環境保全に貢献する」という経営理念に則り、栽培には農薬や化学肥料は使いません。
約3か月で育つゴマは、梅雨前と梅雨明けに種まきをし、刈り取りは9~10月頃に行うそう。ゴマの原産国はインドやエジプトなので、雨が降らない乾燥している気候だと病気にもならず豊作になる強い植物。しかし、今年は雨が続き日照不足だったため、病気が多く発生したそう。今回は、刈り取ったあとにゴマをさやから取り出す、脱穀作業の見学をさせてもらいました。
収穫は苗を逆さまにして、ふるってたたく
雨だとさやが閉じてしまうため、脱穀作業は晴れている日に行うのですが、この日は快晴で脱穀日和! 畑に到着すると、防虫ネットの上に乾燥させた状態のゴマの苗が立てかけてありました。刈り取り時には青々とした状態で、そこから3週間立てかけて乾燥すると茶色になるとのこと。乾燥途中のゴマは「パチッパチッ」と音がするそうで、今回作業する隣のネットでは、本当にゴマが弾ける音がしていました。
下石さんが乾燥した茶色い苗を束で持ち、逆さましてふるうと、バラバラバラっとゴマの実が出てきました。まったく想像していなかったその手法に驚き、思わず「えーーー!!!」と声を上げてしまったほどです。もう、本当にびっくり! さらに棒でたたいて、中に残っているゴマを出していきます。全部出せたかどうかは感覚とのこと(笑)。
両手で抱えるほど持ってふるう作業で1回約50gのゴマの実が出てくるのですが、これを繰り返して2トン収穫していくというのも、驚きました。(写真参照:防虫ネット1列で約30㎏収穫できるそう)
ゴマの種類は白ゴマ、黒ゴマ、最近では金ゴマもスーパーで見るようになりました。しも農園でも3種を生産しています。生育過程で白ゴマが黒ゴマになると思われている方もいますが、もともと異なる種類です。
白ゴマは甘味とやさしい香りがあり、ゴマあえや白あえなど、あえもの料理によく使用されています。黒ゴマは香りが強くミネラルも豊富。その高い栄養価が特徴で、加熱しても香りが強く残るので、せんべいやクッキーなどの焼き菓子に適しています。金ゴマは生産量が少なく希少価値の高い品種ですが、香り高く見た目も美しく、需要が高まっています。
大量生産できない手作業のよさを味わう
白ゴマと黒ゴマは苗が枝分かれし、金ゴマはスラーっと育ち、1本の枝に蒴果(さくか)が15~20個つくとよく育っていると判断できるそう。
その蒴果の中にゴマの実が入っているのですが、開いて見ると部屋が4つあり、1つの部屋に約20粒のゴマが縦にぎゅうぎゅうに行列になって詰まっていて、見た目も衝撃的でした。
脱穀してすぐのゴマの味見もしたのですが、硬いと思っていたけれどイメージと異なり、普通のゴマの硬さでした。かみしめるとゴマの甘い香りがして、口の中に自然のゴマ油が広がります。炒めると風味が出てくるのですが、そのままでもものすごくおいしかったです。
手でふるい、棒で叩いてゴマを集めたあとは、機械を使って枝葉を除き、軽いものと実が詰まっているものに分ける唐箕掛け(とうみがけ)の作業を繰り返し行います。その後、小さな目の網「地獄網」に何度かかけて土やほこりを取る作業を行い、しも農園さんではさらに手選別でより美しいゴマを商品に仕分けていました。(写真は金ゴマの様子)
今回は今まで想像もしていなかった新発見が多すぎて、とにかく大興奮の取材となり、本当に楽しかったです。機械化にはコストがかかるため、大量生産はまだまだ難しいですが、ゴマに傷がつきづらいなど手作業ならではのよさもあるという下石さん。取材から帰宅してつくったゴマ団子は、格別の味わいでした。
しも農園さんのみまたんごまは、いりゴマやすりゴマ、ゴマ油やねりゴマ、ゴマせんべいなど、ネットでも購入可能です。みまたんごまの生産者さんの挑戦を、これからも応援したいと思います。
<取材・文/岩木みさき>
実践料理研究家・みそ探訪家/岩木みさきさん
拒食症・過食症・ひどい肌荒れに悩み、食生活を見直し改善に成功。「日々の中で実践できることが健康につながる」と考え、「生産と消費のサイクルを紡ぐ」をテーマに、日本各地の現地取材、レシピ考案・撮影、ラジオやTV等のメディアにも出演。料理教室misa-kitchenを主催。講演やイベント含む料理教室講師回数は1350回を超える。みそに魅せられ日本各地のみそ蔵約60か所100回以上を訪問。著書に「みその教科書」(エクスナレッジ刊)
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