郷土料理百選や給食甲子園にも登場。丹波篠山の絶品ぼたん鍋

「ぼたん鍋」と呼ばれるイノシシ肉の鍋は、兵庫県では冬の郷土料理として学校給食にも出てくるそう。今はネットでも購入できるイノシシ肉は、煮込めば煮込むほどやわらかくなって栄養価も高く、明治時代は陸軍が訓練中の滋養食にも好んだとか。食育トレーナーの柿田さんが紹介してくれました。

イノシシ肉は天然でやわらかく、栄養たっぷり

ぼたん鍋

 兵庫県丹波篠山は静岡県の天城、岐阜県の郡上と並ぶ日本の3大猟場の1つで、狩猟シーズンは11月15日~3月15日、晩秋から早春頃が最盛期です。

 3大猟場のなかでも丹波篠山は険しい岩山や起伏に富み、イノシシが雑木林や竹やぶに体をぶつけながら走り回ることで、良質な肉が育つといわれています。

イノシシのはく製

 イノシシ肉の良し悪しは爪の摩擦度で見分けるのですが、丹波篠山の山々を走りぬいたイノシシの爪は例外なく丸くなっているそうです。

 また、雑食で大食漢なので、丹波篠山の木の実・クリ・マツタケ・山のイモ・黒大豆・米など豊富な里山の幸をたらふく食べることにより、うま味が増幅。とくに秋に捕れたイノシシ肉は木の実の香りと味がしみ込んで、おいしくなるといわれます。

 脂が多く見えますが意外にあっさりしていて食べやすく、煮込めば煮込むほどやわらかくなるのも特徴。栄養価も高く、天然のイノシシの脂は冬を越すためだけに蓄えたものなので、ほかの肉と比べても、中性脂肪を下げたり、悪玉コレステロールを減少させる働きのある多価不飽和脂肪酸の割合が多く、疲労回復に効果的なビタミンB1や、鉄・亜鉛も豊富です。

「ぼたん鍋」は農林水産省の郷土料理百選にも選出

煮込んだぼたん鍋

 「ぼたん鍋」は、白菜・ゴボウ・長ネギ・ニンジン・春菊・キノコ類・ヤマイモ(またはサトイモ)などの冬野菜をたくさん入れます(すべて地野菜でまかなえます)。
 明治時代に肉食が解禁になったのち、イノシシ肉をみそで炊いた鍋を「イノ鍋」と称し、「料理旅館 近又」の当主が考案したのが発祥とされています
 
 明治の頃から丹波篠山の山が行軍演習にいいということで陸軍歩兵部第70連隊が山でイノシシを捕り、滋養食として鍋にしてくれと料理屋に持ち込んで食し、郷里に帰ってからそのおいしさを広めたため、全国的に有名になったということです。

ぼたんのように盛る

 「ぼたん鍋」という表現は、昭和6年に篠山商工会の前身団体が民謡「篠山小唄」の歌詞を募集した際、「イノ鍋」では4文字で語呂が悪いため、唐獅子牡丹という言葉から連想し、5文字の「ぼたん鍋」になったという説があります。
 
 終戦後に「ぼたん鍋」だからと、料理旅館近又が牡丹の花のように似せて盛り、全国に「ぼたん鍋」の名が広がっていったと言われています。
 
 山椒を振って濃いみそでドロドロに炊くのが伝統の味ですが、最近ではぼたん鍋を出すお店で新たな食べ方が次々と生まれています。
 イノシシから出る脂のうま味を生かしてだしを用いないお店、カツオ節と昆布だしをベースに、淡色みそと赤みその合わせみそを使う店、白みそや白だしの店など、ぼたん鍋スープや味付け・具材の違いにより、合う〆メニューも変えられていて、お好みによっていろいろな味わいが楽しめます。

全国学校給食甲子園で優勝!

賞をとった学校

 2019年第14回全国学校給食甲子園で丹波篠山市立西部学校給食センターの地元の食材を使った給食が優勝し、そのメニューの中に、イノシシ肉を使った「根菜ぼたん汁」が登場しています。

給食

 ぼたん鍋は丹波屈指のおもてなし料理であり、昔は料亭や料理旅館などで食されることが多かったそう。天然のイノシシ肉は安くはないため、地元の方でも日常的に食べるというお料理ではありませんが、このように地域の給食で登場することにより、子ども達への郷土料理伝承につながっています。

 兵庫の冬の郷土料理といえば「ぼたん鍋」をぜひ丹波篠山で味わってください。

<取材・文/柿田江梨子 写真・取材協力/丹波篠山観光協会>
参考文献:丹波篠山 デカンショ祭り リーフレット たんばささやま ジビエ パンフレット

[地元の食文化から食育を考える]

柿田江梨子さん
キッズ食育認定トレーナー 管理栄養士 妊産婦食・離乳食アドバイザー 健康咀嚼指導士
病院の給食管理業務や、1日約6500食を調理する社員向けの給食管理業務などを約10年経験。成人の給食に長く携わることで、健康を損なわれる方やその食習慣に触れるとともに、自身の出産育児を経験するなかで幼少期からの食育の大切さを痛感し、母子向けの食育活動を中心にフリーランス管理栄養士として活動。保育園給食の献立作成や離乳食教室の開催、レシピ開発などを行っている
(社)日本キッズ食育協会