茨城県といえば水戸の小粒納豆が有名ですが、わらで包んで発酵させた「わらづと納豆」は香りも歯ごたえも別格。茨城県出身でキッズ食育トレーナーとして活動する石井千賀子さんが教えてくれました。
冬は大豆のうま味が凝縮
大豆の収穫時期は、10月半ばから12月頃。収穫後、数か月貯蔵した大豆は、余分な水分が飛び、実が詰まりうま味が凝縮します。そのため、1月~3月頃につくられた納豆は実がふっくらして、甘味があり味わい深いものとなるそうです。
そして、茨城の納豆の特徴といえば粒が小さいこと。これは、明治時代、水害を避けるために早生品種の大豆が栽培されていたことに由来します。現在は外国産の小粒大豆が使われることも多いそうですが、「国産大豆が好き」という納豆ファンも少なくないそうです。
納豆の歴史は長く、起源については不明な点も多いのですが、明治時代に鉄道が通ったことをきっかけに、偕楽園に観梅にきた観光客が小粒の納豆を大変好み、「水戸の小粒納豆」の評判が日本全国に広がったと言われています。早生大豆や鉄道の開通といった偶然が重なり、現在の「茨城の小粒納豆」が生まれたのですね。とても興味深いです。
わらづと(藁苞)納豆ならではのおいしさ
普段スーパーに並ぶ納豆は、パック納豆がほとんどです。パック納豆ももちろんおいしいのですが、わらづと納豆ならではのよさもあります。1つ目は香り。わらづと納豆では、わらのほのかな香りが楽しめます。2つ目は歯ごたえ。わらが余分な水分を吸収するため、ほどよい歯ごたえが味わえます。
今回、水戸市に店舗を構える天狗納豆さんと笹沼五郎商店さんにうかがいしました。筆者が小学生のころに社会科見学で納豆工場の見学をした思い出の場所。煮た大豆の香り漂う工場でお話を聞いた記憶がよみがえり、とてもなつかしい気持ちになりました。
天狗納豆さんは、原料の厳選、わらへのこだわりを大切にし、納豆にとって絶妙な環境をつくり、味・香り・歯ごたえを追求した納豆を製造販売しています。店舗でのいちばん人気は、やはりわらづと納豆だそうです。機械化が進んでいますが、やわらかくなった大豆をわらに入れるのは現在も手作業です。
その日の気温や湿度により発酵・冷却時間などを調整するという納豆づくりは、2日サイクルで行われています。それはまさしく子育てのようで、経験や繊細な感覚が必要です。
発酵、冷却を経て出荷された納豆は、賞味期限内でも、冷蔵庫での保管期間中にも少しずつ発酵が進み、香りやねばりが変わってくるそうです。天狗納豆さんでは、「購入直後、購入2、3日後、賞味期限間近、のように食べる時期をいろいろ試して、好きなタイミングを見つけてほしいですね」とのお話が印象的でした。日々、味の違いを楽しめるというのは、発酵食品である納豆ならではの魅力ですね。
笹沼五郎商店さんには、展示館もあり、納豆の歴史や、古くからの製造方法など楽しみながら学ぶことができます。小学生の自由研究にもおすすめです。
においやねばりが苦手な人におすすめの調味済み商品
納豆は、幼児期のお子さんやお年寄りまでおすすめしたい、栄養価の高い食材です。ですが、なかには独特な香りやねばりに抵抗を感じる方もいるかもしれません。納豆チャーハンやオムレツに入れるとねばりや香りは幾分かおさえられます。
また、調味済みのそぼろ納豆や、ほし納豆といった独特の香りがやわらぐ納豆を食べてみるのもおすすめです。
最近では、さまざまな種類の納豆がスーパーに並んでいます。「今日はどの納豆にしようかな?」と子どもと選ぶのも、味の違いや産地の違いを知る楽しみにつながります。そして時に「プチイベント」として、食卓にわらづと納豆を並べてみると、盛り上がることまちがいなし。茨城のわらづと納豆をぜひ、ご家族でご賞味ください。
<取材・写真・文/石井千賀子>
<取材協力/天狗納豆総本家 笹沼五郎商店、水戸元祖 天狗納豆>
石井千賀子
東京都在住。キッズ食育トレーナー/薬剤師/2児の母
「親の手が離れた後も子どもが正しい食を選択できるように」「食で子どもの探究心を育む」をテーマに活動している。(社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチン大田区久が原校主宰