大分県佐伯(さいき)市に昔から伝わる調味料「ごまだし」が、文化庁が推進する「100年フード(伝統の100年フード部門)」に選ばれました。漁師の家で保存食として伝え継がれ、漁師の妻たちによって現代に商品化された「ごまだし」のおいしさとおすすめの使い方を取材しました。
漁港の町で伝え継がれた調味料が、漁師の妻たちの手で商品化
九州にはおいしくて有名な食品がたくさんありますが、かけるだけ、あえるだけで上品な一品が完成する万能調味料「ごまだし」も最近話題になっています。「ごまだし」とは、大分県佐伯市に百数十年前から伝わる伝統的な調味料のこと。
佐伯市は九州最大の面積を誇り、漁業が盛んな場所として有名。県内の水産業生産量の約7割を担い、ブリやヒラメを中心に養殖業は全県生産量の大半を占め、江戸時代から「佐伯の殿様、浦でもつ」と言われるほど豊富な海の幸に恵まれています。
その漁師の家で、とれすぎた魚を無駄にしないために工夫されたといわれるのが「ごまだし」です。昔は多くの家庭でつくられていましたが、小骨をとる作業に手間がかかることなどから、年々、つくる人が減っていました。
そんなごまだしを、佐伯市の鶴見港で活魚・鮮魚販売を目的に漁師の妻たちが集結して発足した漁村女性グループ「めばる」が2006年から、魚食普及と地域振興を目指して商品化しようと取り組み始めています。
伝統調味料復興への取り組みとともに、そのおいしさが徐々にメディアの目にとまり、テレビ出演をはじめ、農林水産大臣賞、調味料選手権グランプリなど数々の受賞歴も重ねるように。2022年には、文化庁が推進する「100年フード(伝統の100年フード部門)」にも選定されました。
保存食として生まれた万能調味料
「ごまだし」の原料は、もともとは大量にとれたエソという魚でした。つくり方は、焼いたエソのほか、アジ、カマスなどの魚のほぐし身を、ゴマ・砂糖・みりんなどと一緒にすりおろし、しょうゆをたして仕上げます。
ゴマを一緒に混ぜることによって風味がぐんと高まります。しかも強い抗酸化作用をもつゴマの「ゴマリグナン」という成分によって長期保存が可能に。
現代では保存技術が向上し、とれすぎた魚の処理に困ることはなくなりましたが、当時は保存食とするために、とてもよく考えられたレシピなことがわかります。保存がきくうえにおいしく、栄養価も高いなんて、先人の知恵には脱帽です。
アレンジ自在、手軽に使えてリピート必至
ごまだしはどんな食材とも相性パッチリですが、もっともポピュラーなのが「ごまだしうどん」です。ゆでたうどんにお湯を注ぎ、ごまだしを入れるだけで風味豊かなうどんが完成します。
ほかにもお茶漬け、冷奴など、さまざまなアレンジを楽しめます。筆者のおすすめは、ごまあえ。いんげんなどゆで野菜にあえるだけで、うま味たっぷりの一品が完成します。普段のおひたしが、ちょっと粋でしゃれた絶品おつまみに変わりますよ。
焼きおにぎりにしても最高でした。フライパンにオーブン用シートを引いて、おにぎりの両面を焼きます。表面が少しカリッとしたところにごまだしを塗り、さらに両面焼いて完成です。ほっぺたが落ちるほどおいしいですよ。
和風バーニャカウダ気分でごまだしをアンチョビ代わりに、お好みの分量のマヨネーズを加え、ニンニクのすりおろしを隠し味に加えたペーストは、野菜スティックのディップにしたり、トーストしたパンに塗ったり、ゆで卵のソースにしたりなどまさに万能です。
バーニャカウダ風ペーストと刻んだシソをのせたうどんは、休日のお昼ご飯など家族がそれぞれ食べる時間がバラバラな日に、冷凍うどんを常備しておけばサッとつくれてとても重宝しました。
冷蔵庫に1つあるだけで食卓も心もからだもハッピーになる心強い「ごまだし」、ぜひためしてみてはいかがでしょうか。
<取材・文/脇谷美佳子>
<取材協力/漁村女性グループめばる>
脇谷 美佳子(わきや・みかこ)さん
東京都狛江市在住。秋田県湯沢市出身のフリーの「おばこ」ライター(おばこ=娘っこ)。二児の母。15年ほど前から、みそづくりと梅干しづくりを毎年行っている。好物は、秋田名物のハタハタのぶりっこ(たまご)、稲庭うどん、いぶりがっこ、きりたんぽ鍋、石孫のみそ。
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