のり弁や唐揚げも美味。鹿児島の深海魚をグルメに変える取り組み

深海魚といえば水族館で見るグロテスクな姿をイメージしがちですが、コクや甘味、うま味が豊富でおいしくいただけるものも。今まで捨てられてきた深海魚をおいしく利用する鹿児島県の取り組みを、地元でキッズ食育トレーナーとして活躍する吉澤裕加さんが教えてくれました。

鹿児島近海で捕れる「うんまか深海魚」

赤い深海魚

 鹿児島県は太平洋、東シナ海に面し、海に囲まれています。なかでも鹿児島湾(錦江湾)では深海(水深200mより深い部分)での漁が盛んで、深海魚がたくさん捕れるにも関わらず、これまで食用に活用されることはありませんでした。

 鹿児島大学水産学部で水産資源生物学を専門に研究する大富潤教授が、2020年に水産物仲卸業の田中水産と、深海漁業が行われる南さつま市と連携して発足したのが、「かごしま深海魚研究会」。活動では第一に「深海魚は食べるとおいしい」という魅力を県内外へ伝えたい思いから、発信を始めたそうです。

「うんまか」とは鹿児島弁で「おいしい」という意味です。うんまか深海魚(登録商標)は生息水深帯が200mを超える魚介類のことで、南北600mの鹿児島の海で捕れた魚。現在では県内30店舗以上の飲食店で、うんまか深海魚が提供されていて販売店も多くあります。消費拡大のために一般市民を対象とした深海魚の魚食普及活動も行われています。

イベントや給食で深海魚を普及

目が飛び出ている深海魚

 県内各地のイベントや学校給食として、地元で捕れた深海魚を使った食事を提供し、本来は捨てられるはずだった命をいただくきっかけづくりをしています。子どもたちにも、深海魚の命をいただくということが、限りある資源をむだなく生かすことにもなり、「食への感謝の気持ち」を育てる教材にもなっているのです。最近では、未利用の深海魚で「ふるさと納税」の返礼品が水産加工会社と開発されるなど、さらに力が入れられています。

深海魚を触る子どもたち

 筆者は2023年1月に開催された「かごしま美味深海フェスティバル」に足を運んでみました。深海魚に触れる体験ブースが用意され、水族館の方が深海魚の名前や生息について教えてくれました。子どもたちは大喜びで手で触って感触を調べたり、エラのようなところに手を入れてみたり、普段見慣れないはずの深海魚に興味深々な様子でした。なかでも愛着の湧く顔をした「ミドリフサアンコウ」が子どもたちにもよく触られていて印象的でした。

ミドリフサアンコウ

 会場では深海魚の解体ショーがあり、解体した魚の切り身のふるまいには、多くの人が並んでいました。深海トークショーでは、深海魚はたくさん捕れるのに値段がつかないため捨てられてきた現状や、食べてみると意外と脂身が多く甘味があっておいしい魚がいることなど、錦江湾の海底の様子や魚を水中ドローンで撮影した映像を見せながら解説されていました。

廃棄を減らす加工の工夫

深海魚の加工品

 深海魚を使った加工食品やお弁当の特別販売もありました。「小さい深海魚は主に唐揚げにすると骨まで丸ごと食べられますよ」と料理方法を教えてくれたり、乾燥させて粉末にした「タカエビ」のだしパックが販売されていたり、手軽に家庭で深海魚を使った料理を取り入れられるような工夫がされていました。

深海魚のお弁当

 ひと際目を引いたのは「海苔ノリ深海魚弁当」。鹿児島錦江湾の深海で釣り上げられた深海魚を、さまざまな調理法と味つけでのり弁にして販売されており、その華やかな見た目からか、たくさんの人が列をつくっていました。

「深海魚弁当」を試食すると、見た目のグロテスクさからくるイメージとは違い、臭みなどもなくうま味が豊富で、おいしさにとても驚きました。「ヨロイイタチウオの唐揚げ」や「タカエビの炙り」や「クロムツの味噌焼き」など、魚名と品書きを1品1品、照らし合わせながらいただきました。深海魚を実際に食べることで深海生物への可能性を感じることができて、関心も深まります。

 参加者からは「鹿児島の海を身近に感じることができた」「家では調理して食べたことがなかったのでいい経験になった」「このようなイベントがあると、小さい子どもも身近に感じることができ、なおかつ家族で楽しめてよい」などの声が聞かれました。近い将来、深海魚たちが食卓で日常的に並ぶ様子がイメージできるイベントになったようです。

 最近では加工された食品が県外でも販売されているそう。見かけた際はぜひ、手に取って食べてみてください。深海魚の魅力を体験することができますよ。

<取材・文・写真/吉澤裕加>

―[地元の食文化から食育を考える]―

吉澤裕加
鹿児島在住。キッズ食育トレーナー/管理栄養士/2児の母
「子どもがやりたい瞬間を逃さない」「子どもが自分の体に必要な食べ物を自然と身につける」をテーマに活動している。(社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチン鹿児島スクール主宰