冬のごちそう「氷見の寒ブリ」。うま味たっぷりで富山では合唱曲にも登場

11月から2月にかけて、富山湾の氷見漁港で水揚げされる1本7kg以上のブリは、「氷見の寒ブリ」としてブランド認定されています。そのおいしさの理由を富山県で活動する食育トレーナー、石黒美千子さんが紹介してくれました。

脂の甘味が堪能できる神経締めしたブリ

ブリ漁港

 富山湾は深い海底谷(富山深海湾)をもち、そこに豊富なプランクトンが集まるため魚が豊かに育つ環境です。寒い時季に水揚げされるブリは冷たい海水で身が締まり、脂が豊富で濃厚、甘味があるのが特徴。

「氷見の寒ブリ」の知名度が高い理由は3つ考えられます。1つは富山県内での漁獲量がもっとも多いこと。県内では約80%が氷見漁港で水揚げされています。2つ目はブリがストレスを感じない定置網漁で漁獲されており、さらに網が漁港の近くでしかけられているので、味が落ちにくいこと。3つ目は氷をたっぷりと使い、ブリを船上で締めているので、鮮度が保持された状態で出荷されることです。

 最近は、生きているうちに背骨近くの神経にピアノ線などを通して神経を破壊する、神経締めといわれる高度な処理法で締められたブリが登場。臭みが減ってうま味が最大限に引き出され、見た目もほんのりピンク色で美しく、市場や調理人から高い評価を受けています。筋肉がリラックスした状態を保つため脂がのっていて味わい深く、口に入れたときのしっとりとした脂の甘味が堪能できます。富山生まれの筆者も驚いたほどですが、その分、価格帯も上がります。

氷見の寒ブリ

 ブリは体が大きいため、切り身でしか見たことがない人も多いのではないでしょうか。よく見るとかっこよく男前です。全体的に丸みを帯びた流線型で背中は青緑や藍色を帯びており、おなかは白っぽく光沢があり、背中とのコントラスがはっきりしています。また、背中とおなかの間に「金線」が走っていて、これがブリの大きな特徴です。

地元行事に欠かせないブリは合唱曲でも歌われる

氷見の寒ブリが入った箱

 富山ではブリが地域の文化や伝統に深く根差しています。2024年11月20に行われた「寒ブリ宣言」は、寒ブリ漁が本格的にシーズンに入ったことを告げるもので、寒ぶりイベントなどが行われ、ブリの重量当てクイズや解体ショーなど県内外から人が訪れ、ブリシーズンを盛り上げています。

  また、ブリは成長段階で名前が変わる出世魚。ワラサやイナダといった呼び方は有名ですが、富山では「ツバイソ→フクラギ→ガンド」と呼びます。県外の人にはピンと来ないかもしれません。

手前の切り身が神経締めしたもの

 出世魚であることと、漢字が魚に師と書いて「鰤(ブリ)」であることで縁起のいい食材とされ、知人や親せきに贈る習慣も。とくに富山では、お正月に家族の繁栄や子どもの成長、出世を願っていただきます。県外にいる友人は、お正月に帰省してブリを食べると、しみじみ帰ってきたなぁと思うそうです。
 ほかにも嫁いで初めての冬に実家から婚家へ寒ブリを1匹丸ごと贈る習慣があり、筆者も嫁ぎ先で喜ばれたことを思い出します。
 
 富山出身の作曲家、岩河三郎が作曲した「寒ブリのうた」は小学校では教材として使われており、冬の富山湾の厳しさを表す出だしから「ブンブンブンブンぶ~りぶ~りぃ~♪」と軽快なリズムまで一度聴いたら忘れがたい合唱曲です。氷見の寒ブリが単なる食材にとどまらず、地元の漁業、祭事、贈答文化などさまざまな場面で登場し地域のアイデンティティを支えていることがわかります。

県外の人にはしゃぶしゃぶが人気。地元ではやっぱりお刺身

ブリ刺し

 寒ブリはさまざまな料理で楽しむことができます。県外の人から人気なのはしゃぶしゃぶ。うま味たっぷりの身をさっぱりと堪能できます。地元でいちばん食べられているのは、シンプルに寒ブリならではの脂の甘味とコクが楽しめるお刺身。

 塩焼きや照り焼きは肉のような感覚で食べることができ、魚が苦手な子どもでも食べやすいと思います。新鮮で臭みのないブリでつくる氷見のブリ大根は一般的なレシピに多い湯引きの必要がなく、そのまま煮ます。ブリの脂が大根に染みて最高です。

ブリしゃぶ

 そのほか、カブにブリをはさみ麹で発酵させた「ぶりのかぶらずし」は、富山では家庭でよくつくられ、筆者も母から教わったレシピで毎年、つくっています。最近はアヒージョのようなオイル漬けや燻製なども人気。

 ブリの脂は脳の発達に役立つといわれるDHAやEPA、オメガ3脂肪酸などが含まれて栄養価も高く、成長期の子どもはもちろん、離乳食後期以降の赤ちゃんから食べることができます。富山の冬の代名詞、風物詩である「氷見の寒ブリ」をご家族でぜひ一度味わってみて下さい。

<取材・文/石黒 美千子>

[地元の食文化から食育を考える]

石黒 美千子
キッズ食育トレーナー/富山県富山市/1児の母
あおいボトル主宰
(社)日本キッズ食育協会認定 青空キッチンA-Port校 講師
自身の子育て経験から身体や心の健康に小さい時期からの食が大切な事と実感し、その大切さを伝え、子どもたちに食の大切さを知ってもらいたいと奮闘。青空キッチンの講師だけでなく、子育て雑誌の編集に携わった経験を活かしワークショップなど多方面での食育活動を行っています。