寒暖差がある春は、体調を崩しがちな季節。薬膳アテンダントの池田陽子さんが、石川県のアンテナショップで見つけた、体調管理や自律神経の乱れに効果的なおすすめフードを紹介します。
婦人科系のトラブルを防ぐには「血」が大切
薬膳において、女性の体調管理に重要とされるのが「血」。中国伝統医学の中医学で血は、西洋医学の血液としての要素だけではく、全身に流れて体のすみずみにまで栄養を与える液体と考えます。不足すると貧血、心臓疾患、目の不調、筋肉のトラブルも引き起こしやすくなります。また精神活動にも深い関わりがあり、メンタルの不調、不眠につながります。
中医学では「女子は血をもって本となす」という言葉もあるほど、血のトラブルは婦人科系トラブルのもとに。生理、妊娠、出産、更年期まで女性の一生は「血」が必要。血がたっぷりあってこそ、それぞれのステージを乗りきれるのです。美容面では、血の不足は肌あれ、顔色が悪い、髪がパサつく、薄毛などの原因に。女子力アップのためにも血を増やす食材を積極的にとることが大切です。
おすすめは魚ではイカ。血をすみやかに補う作用があるとともに、婦人科系トラブルの改善に役立つ、女性の味方のシーフードなのです。肉では牛肉。肉のなかで、造血作用が極めて高く、体を温める働きもあります。今回は「八重洲いしかわテラス」を訪ねて、とっておきイカ&牛肉グルメを紹介します。
イカに自家製みそをつめ込んだ「鉄砲焼き」
石川県能登町にある能登小木港は、「日本三大イカ釣り漁港」として知られ、絶品のイカが多く水揚げされています。とくに、能登小木港のブランドイカとして名高いのが「船凍イカ」。小木で昭和50年代に開発された「一尾凍結法」で、釣り上げたスルメイカを船内で急速冷凍するため、鮮度バツグン、とれたてのおいしさを味わうことができるのです。
港のほど近くに位置する「和平商店」は、船凍イカを使ったさまざまな加工品を専門に製造しています。みそ、しょうゆ、魚醤「いしる」など能登ならではの豊富な発酵食品も組み合わせた商品もそろいます。とくに高い人気を誇るのが「能登小木いか 鉄砲焼き」。イカのなかに、自社製のショウガ甘みそをつめ込んであります。みそは能登珠洲で栽培された、エンレイ大豆を使用。タンパク質と糖質のバランスがよい大豆に、たっぷりの能登産麹、ミネラルいっぱいの能登で取水される海洋深層水の塩を合わせてつくります。
味に深みを出すために、仕込みは寒さが厳しい2月に行い、ゆっくりと発酵させて、10か月の熟成ののち完成。まろやかで甘味のあるみそに、ショウガを合わせてイカにつめ込んで仕上げます。
オーブントースターに冷凍のまま入れ、加熱してからいただきます。焼くとぷっくりとふくらんむイカをカットすると、みそがとろり。香ばしく焼きあがったイカをかじるとしなやかでやわらか。甘味があり優しいうま味のイカに、ショウガがきいたこっくりとマイルドなみそがベストマッチ! 能登の海の幸と発酵との出合いは、思わず日本酒がすすむおいしさです。
金沢カレーがつまったスパイシーないかめし
八重洲いしかわテラスの店内では、イカのキャラクターが描かれたカラフルなパッケージに目に留まります。白山市・銭福屋「金沢カレーいかまんま」は、金沢カレーがどっぷりつまったなんともユニークなイカめしです。もともと、社長が子どもたちのために残ったカレーをイカにつめ込んで煮たものが、好評だったことから思いついた商品なのだそう。
石川県産にこだわり、イカは能登小木港の船凍イカ(不漁の場合は変更)を使用。カレーは金沢カレーのなかでも、とくに濃厚な味わい、見た目も黒く「金沢ブラックカレー」として知られる、白山市の人気老舗洋食店「キッチンユキ」とコラボ。いかめしに合うカレーの濃度や、煮込み時に使うしょうゆベースのタレの風味を試行錯誤して完成。大人から子どもまで大好評のヒット商品になりました。
湯煎していただくと、ほどよく甘辛いタレがしみたイカに、味に豊かな深みとしっかりしたコクがあるカレーがぴったりの相性。カレーがしみたイカも、イカの風味がしみこんだカレーもどちらもおいしいという、「考えた人エラい!」な味わいに、思わずニヤニヤしてしまいます。金沢カレーいかまんまは、軽めの食事にも、おやつ、おつまみにもぴったりです。
絶品の脂がたまらない「能登牛」のそぼろ
自然豊かな能登の里山で育てられたブランド牛「能登牛」。出荷頭数が少なく希少な牛は、きめ細やかな肉質、そして上質な脂が大きな特長です。その脂は、牛肉のやわらかさやとろける食感のために重要な「オレイン酸」の含有率が多く、質がよいとして、和牛のオリンピックともよばれる「第9回全国和牛能力共進会」で、「脂肪の質賞」を受賞したほどです。
そのおいしさを手軽に味わえるのが、金沢市で県産食材を使った加工品を手がける「笠井食品」の「能登牛そぼろ」。能登牛と、タマネギ、ゴボウ、シイタケ、ショウガなどの具材を特製のタレで煮込んで仕上げたそぼろです。タレに使われているのは「大野醤油」。金沢市大野町で生産される加賀料理に使われてきた伝統的なしょうゆは、ほどよいまろやかな甘さでコクをプラスして、能登牛のおいしさを引き立てます。また、能登の魚醤「いしる」も加え、味に深みを添えています。
炊き立てのご飯にのせると、上品なうま味が口いっぱいにひろがりぜいたくな気分に。さらに、特筆すべきは「脂」! 能登牛の魅力である脂がじわっと溶けだして、ご飯にしっとりしみてとろけるおいしさ。脂がしみたところだけでご飯がモリモリ進むほどです(笑)サラダやお豆腐にのせたり、だし巻き卵の具にしたり、麺類やサラダのトッピングにするのもおすすめです。
池田陽子さん
薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。宮崎県生まれ、大阪府育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは? 関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。近著に『中年女子のゆる薬膳。』(文化出版局刊)『1日1つで今より良くなる ゆる薬膳。365日』(JTBパブリッシング)ほか、『ゆる薬膳。』(日本文芸社)