サッカー日本代表のユニフォームなどの「ジャパンブルー」の愛称でも知られる「藍色」。色の原料となる「藍」は古くから日本で栽培されている植物で、収穫時期は7~9月。ブルーベリーの4倍の抗酸化力があり、古くは薬草として食されていた歴史もあるそう。今回は雲仙市で活動中の染職人を、実践料理家の岩木みさきさんが紹介します。
植物から出る美しい色に衝撃を受け、30年かけて染工房を設立
長崎県島原半島西部に位置する雲仙市に、藍に魅せられた染め職人・鈴木てるみさんのアイアカネ工房があります。18歳のとき、桜を原料に布を染色する様子をテレビで見て「植物からこんなに美しい色が出るのか」と感動したことが、鈴木さんと染め物との出合いだったそうです。
すぐにテレビ局に電話をして長崎県五島列島の染め職人に会いに行き、職人を目指したいと思ったそうですが、周囲の助言もあり、最初の就職先は医療機関。看護師として勤務しながら休日を利用し、全国各地の染め職人や蚕(かいこ)の生産農家を訪問。糸の紬ぎ方・染め・織りまで、一連の流れ作業を10年以上かけて学んだそう。
そして2014年6月、30年越しの思いを実現させ、いちばん好きな藍色と茜色から名前をとってアイアカネ工房を設立。2019年6月にはカフェもオープンしました。
「目の前にあるものからつくり出したい」という信念を持つ鈴木さんは、工房の敷地内に無農薬、有機肥料のタデ藍2000本を栽培しています。タデ藍は食用にも染色にも使用できる品種で、葉は乾燥させてふりかけに、茎はお茶に、粉末にすればスパイスのようにカレーにしたり、シフォンケーキやクッキーなどにも活用できるというから驚きます。
昔はタデ酢と言って、酢みそのようにして刺身のツマに混ぜて使われることもあったそう。抗菌作用の高さから、武士達は傷を負っても早く癒えるように、鎧の下に藍染めの下着を着用していたという話も。藍染めは身を調えるための布だったことが分かります。
生葉染めで美しい水色のストールづくり
藍には染色方法がいくつかありますが、約1時間で体験でき、家庭でも再現性の高い「生葉染め」を教えてもらいました。
【材料】藍30~40本、水適量(ミキサーにかける時に使う用、目安は3リットル)
【器具】ボウル2~3個、バケツ、ミキサー、計量カップ、ネット
1.藍を刈り取り、洗ってから葉と茎に分ける
2.葉と水を約20~30秒ミキサーにかけ、ネットに入れる
3.とろみがついてくるまで約100回揉む
4.液中でゆっくりと布を動かしながら、約15分浸ける
※布は濡らしてしぼった布を使い、液中でゆっくり動かすことで、染まりが均一になる
5.約5~15分干し、空気に触れさせ発色を促す
6.もう一度水に浸けてもみ洗いし、余分な色素を落とす
7.再度干したら、完成
生葉染めは美しい水色に仕上がります。一般的な藍色は発酵藍といって技術が必要な染色方法、ほかには沈殿藍染めなどがあります。
染め物は使用する繊維により染まり方が異なるそう。濃く染める場合は回数を重ね、鈴木さんは約1か月かけて30回、重ね染めをしたこともあるそうです。
2020年5月には鈴木さんが目指す「国産の綿で糸を紡ぎ、染め、織って布製品に仕上げる」試みの一環として、国産綿の栽培者を募るべく「オーガニックコットンプロジェクト」を始動。全国各地から約200件の問い合わせがありました。綿の種を無料で配り、栽培していただいたら、織った布で御礼をする予定とのこと。
SNSで情報発信しながら、世代により電話でくる連絡にも丁寧に対応しているそうです。全国に広がるコミュニティを育てつつ、衣食どちらにも使える藍の魅力を伝えていきたいと話してくれました。色褪せない感動が、今も鈴木さんの原動力になっています。
<取材・文/岩木みさき>
―[料理研究家の全国取材レポート]―
(参考文献:918年発行「本草和名(ほんそうわみょう)」の中の和漢薬草図鑑に記載)
実践料理研究家・みそ探訪家/岩木みさきさん
拒食症・過食症・ひどい肌荒れに悩み、食生活を見直し改善に成功。「日々の中で実践できることが健康につながる」と考え、「生産と消費のサイクルを紡ぐ」をテーマに、日本各地の現地取材、レシピ考案・撮影、ラジオやTV等のメディアにも出演。料理教室misa-kitchenを主催。講演やイベント含む料理教室講師回数は1350回を超える。みそに魅せられ日本各地のみそ蔵約60か所100回以上を訪問。著書に「みその教科書」(エクスナレッジ刊)