とろとろの牛すじ肉とぷりぷりのこんにゃくが甘辛く煮てある「ぼっかけ」。ご飯に、うどんに、お好み焼きに、合わせたら最後、濃厚なおいしさに箸が止まらない、夏の食欲増進にぴったりのメニューです。発祥の地、神戸市長田区では「すじ煮込み」や「すじこん」と親しまれていたのが、あるときから「ぼっかけ」として有名なったそう。地元で食育トレーナとして活動する柿田江梨子さんが紹介してくれました。
ぼっかけは「子どもに滋養のある食べ物を」という思いから生まれた
長田区では、お店ではあまり売られない牛のすじ肉が、地元の人に安く販売されていました。
この地では昔から働いている女性が多く、忙しい毎日のなか、おなかがすいた子どもに安く簡単に滋養のあるものを食べさせてあげたいとの思いから「すじ煮込み」が誕生。第2次世界大戦後、比較的戦争被害の少なかった長田区のヤミ市でも売られるようになり、地域の食として根づいていったといわれています。
戦後の高度経済成長で機械化が進み、女性たちの内職の仕事がなくなっていくなか、鉄板一枚で小さく開店できるお好み焼き屋に切り替える人が増え、そこで安いすじ肉を使うメニューが取り入れられていったそうです。
震災後、アレンジ自在の郷土飯へ進化
そして「ぼっかけ」という呼称が広まったのは阪神淡路大震災後。震災で神戸市長田区は大きな被害を受け、復興と地区活性化の一手として目玉となる食べ物をつくって盛り上げようと検討していた際、震災学習で訪れた学生の「ここはお好み焼き屋さんが密集しているのですね」という言葉がヒントに。
長田区のお好み焼き屋さんで地元民に愛される「すじ肉」のメニューに注目。なんにでも「ぶっかける」という言葉がなまった「ぼっかけ」という呼称を使い、当時のブームに乗ってB級グルメコンテストに「神戸長田ぼっかけ」として出場させ、全国的な認知度が高まったというわけです。
今では地元企業が新たなぼっかけ商品を共同開発したり、地元商店街へぼっかけメニューの導入を呼びかけたり、家で温めるだけのレトルトパウチもあり、あらゆる展開をしています。
一般的なつくり方は、牛すじ肉とこんにゃくをそれぞれ下ゆでし、醤油1:みりん1:砂糖0.5の割合で味つけした煮汁で煮込むというもの。
どんぶりの具にしたり、お好み焼きに混ぜたりするほか、しっかり味なのでコロッケやチャーハンなど、ぼっかけの味だけで簡単にアレンジできるところも大きな魅力。
このように「ぼっかけ」は、神戸長田の母親たちの子どもへの愛から生まれた家庭料理として、長田区の街を代表するメニューとなったのです。子どもはもちろん、大人は酒の肴にしたり、老若男女に愛されるB級グルメの枠を超えた濃厚な郷土料理を、なかなか遠出できないこの夏に、神戸へ行ったつもりでぜひためしてみてください。
<取材・文/柿田江梨子 写真・取材協力/神戸ながたティ・エム・オー>
柿田江梨子さん
キッズ食育認定トレーナー 管理栄養士 妊産婦食・離乳食アドバイザー 健康咀嚼指導士
病院の給食管理業務や、1日約6500食を調理する社員向けの給食管理業務などを約10年経験。成人の給食に長く携わることで、健康を損なわれる方やその食習慣に触れるとともに、自身の出産育児を経験するなかで幼少期からの食育の大切さを痛感し、母子向けの食育活動を中心にフリーランス管理栄養士として活動。保育園給食の献立作成や離乳食教室の開催、レシピ開発などを行っている
(社)日本キッズ食育協会