灰を利用したグルメも。鹿児島独自の火山と共生するルールとは?

 桜島、霧島山(新燃岳)という、活動を続ける火山が2つある鹿児島県。定期的に噴火を繰り返してきた桜島も、この数か月は静かだといいますが、いつ活発化するかは桜島のご機嫌次第。この地の火山灰との共生ルールや灰を活用したグルメなど、鹿児島出身者でもあるフリーライター・大沢玲子さんが地元目線を交えつつ紹介します。

鹿児島の天気予報では降灰予報も出される!

桜島 火山灰
鹿児島県庁18階の展望ロビーからの眺め。雄大な桜島、錦江湾、市街地を一望できる
 
 鹿児島のテレビやウェブサイトの天気予報を見ていると、ほかではあまり見ない予報に出くわします。それは「降灰予報」。

 鹿児島には今も活動を続ける火山の桜島、霧島山(新燃岳)があります。避難が必要になるようなレベルでなくとも、噴火で灰が降れば生活に影響大。外に干した洗濯物や車、着ている洋服までもが灰まみれになるリスクがあります。
 そこで、毎日、もし噴火した際にはどのエリアに降灰や小さな噴石の落下が予想されるか、両山上空の風向きに従い予報が出されるのです。

 しかし今年は定期的に爆発を続けてきた桜島も、この数か月、噴火活動は沈静化しているといいます。とはいえ、2020年8月9日には42日ぶり、規模では9か月ぶりに噴煙5000m超の爆発が起こり、鹿児島空港では20便が欠航となりました。「秋から冬にかけて活発化する恐れもある」という専門家の見方もあり、決して油断はならないのです。

 また、以前は季節によって、桜島の場合、春から夏は桜島の西側、つまり薩摩半島方面に灰が降り、秋から冬にかけては、その逆で大隅半島方面へと降灰エリアが移る傾向がありました。
 筆者は子どもの頃、薩摩半島の中心、県庁所在地の鹿児島市に住んでいました。夏になると時折、ドカ灰(たくさんの灰を意味する方言)が降り、傘をさしても舞い上がる灰と汗で肌がザラザラベットリ。憂鬱な気持ちになった記憶があります。
 ただし、これも気候変動の影響なのか1日の時間帯でも、桜島上空の風向きが変わる傾向が見られるといいます。

火山灰は「克灰袋」に入れて、指定の場所に捨てるのがマナー

退避壕
桜島には噴火時に避難するための、防空壕のようなさまざまな形の退避壕がある

 SNSなどを見ていても、久しぶりの噴煙5000m級の爆発にも、噴火に慣れっこの地元っ子は至極冷静な反応でした。その背景には、降灰対策ルールが定着していることも挙げられます。

 1つが、先に挙げた降灰予報のチェック。酷暑のせいもあって、今は気温の推移の方が気になるこの頃ですが、秋から冬にかけてもし噴火回数が増えれば、注目度も上がることが予想されます。

 2つ目は、運転に注意すること。灰が降ると視界が悪くなり、堆積した灰でスリップ事故なども起きやすくなります。降灰がひどい場合は、かすむ街中を昼間でもライトをつけて徐行する車が見られるのも、鹿児島ならではのシーンです。
 また、降灰後の洗車にも要注意。知らないと、ついフロントガラスに積もった灰にワイパーをかけてしまいそうになりますが、キズがついてしまうリスク大。エアコンプレッサーやブロアーで吹き飛ばすか、高圧洗浄機などで流し落とすのが正解です。

 3つ目が家庭での灰の掃除・処理法です。家でベランダ、窓のアルミサッシなどに灰が積もると、水をまいて流したくなりますが排水溝が詰まってしまうことも。
 そこで、使うのが市が無料で配布している灰専用ごみ袋、その名も「克灰袋(こくはいぶくろ)」。灰ははいて集め、克灰袋に入れ、指定された宅地降灰指定置場に出すのが鹿児島市のゴミならぬ「灰捨て」マナーなのです(克灰袋がなければ、破れないようにレジ袋を二重にするなどで出すのも可能)。

克灰袋
鹿児島市では市指定の灰専用ごみ袋「克灰袋」に灰を入れ、指定の場所に出すのが基本ルール(撮影は2018年時点)

 克灰袋とは、ユニークなネーミングですが、降灰に強い都市を目指そう、降灰を克服しようという決意が込められているとか。さすが、明治維新の立役者・西郷隆盛を生んだ地、「“ヘ”(鹿児島弁で“へ”=灰。女性や若い人は使いません。笑)には負けんどー!」という意気込みを感じます。

火山灰や溶岩を活用した絶品・地元グルメも注目

灰干し きびなご
桜島の灰を使って干物にした「灰干し」。写真は鹿児島ならではの名物の魚・きびなごを使ったもの。身はしっとり、ウマミが凝縮されておいしい!
 
 とはいえ、現地の人にとっては灰は即ち厄介モノというわけではありません。実は地元では捨てるだけでなく、灰を有効活用した名物も生まれています。
 その1つが、灰干しという火山灰を活用した干物です。古来より伝わる保存食の製造法で、特殊加工した低温の火山灰で長時間かけて魚の水分を抜き、干物にするというもの。魚の組織、成分を変化させず、身がしっとりするのが特徴です。

筆者は鹿児島ならではの魚、きびなごの灰干にトライしたことがありますが、灰を使ったとは思えない上品でウマミが凝縮された味わいにびっくり。地元の焼酎にもベストマッチでした。

「溶岩焼き」といって、桜島の溶岩を使ったプレートで地鶏焼きや焼肉を楽しめるメニューを提供する飲食店も。溶岩石は遠赤外線放射率が高いため、肉の表面はこんがり、中はふっくらジューシーな焼き上がりが楽しめます。

 また、噴火や降灰に見舞われながらも、鹿児島の人にとって桜島はなくてはならない地元のシンボル。静かな内海の錦江湾にどっしりと浮かぶ、西郷さんのように力強くも地元を見守ってくれているような存在なのです。

 県外から県内に戻ってきて、桜島が見えると「落ち着く」という人も多く、それぞれお気に入りのビュースポットを持っていたりします。

 その1つが、錦江湾沿いにある名勝「仙巌園」。ここは薩摩藩を治めた島津家別邸で、桜島を築山に、錦江湾を池に見立てた借景技法が使われています。立派な庭を眺めつつ桜島を仰ぎ見れば、まるで殿様気分?

 ちなみに桜島の灰を使った「灰干し」はお取り寄せも可能。厄介モノの火山灰と地元のおいしい魚を組み合わせた、逆転の発想から生まれた地元グルメ。ぜひ味わって、火山と共生する彼の地の人々に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

<取材・文・写真/大沢玲子>

たび活×住み活研究家 大沢玲子さん

鹿児島出身の転勤族として育ち、現在は東京在住。2006年から各地の生活慣習、地域性、県民性などのリサーチをスタート。『東京ルール』を皮切りに、大阪、信州、広島、神戸など、各地の特性をまとめた『ルール』シリーズ本(KADOKAWA)は計17冊、累計32万部超を達成。18年からは、相方(夫)と組み、アラフィフ夫婦2人で全国を巡り、観光以上・移住未満の地方の楽しみ方を発信する書籍『たび活×住み活』シリーズを立ち上げた。現在、鹿児島、信州、神戸・兵庫の3エリアを刊行。移住、関係人口などを絡めた新たな地方の魅力を紹介している