―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(22)]―
東京生まれ東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落で、忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。
新米の時期がやってきた!
昼間は暑いのに、朝晩がなんとなく寒い?ってなってくると「あぁ、秋だなぁ」と思います。実りの秋、食欲の秋といわれるように、さまざまな植物が実りの時期となり秋は本当に農家がとても忙しい時期。
あちらの畑で収穫、次はこちらの畑で収穫、さらにはここの畑でも収穫と、自然に感謝しつつの連日忙しい収穫の秋です。
栗だ! カボチャだ! 秋そばだ! とさまざまな農作物の収穫の時期ですが、いちばんメジャーなのはお米ではないでしょうか? そう、いわゆる稲刈りと呼ばれるものです。
最近はコンバインで稲刈り&脱穀までできるので、あっと言う間に終わってしまいます(機械の大きさにもよりますが)。後から手鎌で刈り取るのは、機械で刈りにくかった箇所くらいです。
さぁそんな毎年の秋の風物詩の稲刈りですが、今年は例年通りにはいかずちょっと大変だったようです。夏の最中から終わり頃にかけて、ニュースでたびたび「ウンカ」という言葉が出できたのをご存じでしょうか?
そのニュースによると、今年はイネの害虫トビイロウンカ(通称ウンカ)が大量に発生していて注意してくださいとのこと。産山村に来るまでは農業の「の」の字も知らなかった私は「ウンカってなに? 初めて聞くなー」と思っていました。
調べてみると、大陸から風に乗って飛来し、イネの茎に群がり吸汁すると、その株は枯れて倒れてしまうそう。そのため、どこ県でも地域でも早めの収穫をしてくださいと呼びかけていました。もちろん、産山村でも呼びかけがありました。
ウンカの影響で収穫量が減ってしまった
私たちは田んぼを持っていませんが、「もう田植えをしたんだなぁ」とか「あぁ穂が出てきたなぁ」とか「稲穂の実が重くなって垂れてきたなぁ」とか…春夏秋、犬の散歩の道すがら、毎日毎日楽しみに家のまわりの田んぼを眺めていました。
そしていよいよ穂も色づきはじめ「もうすぐ稲刈りだなぁ」と思っていたところに…このウンカニュース。今年は例年よりも一歩も二歩も早いタイミングで稲刈りが始まりました。
早いタイミングでの稲刈りは、収穫量に影響してきます。もう少し田んぼにおいておけば実が重くなり、収量も増えるのに(=収入も増える)。自分の田んぼではないながらも、もっともっと稲穂を重くしたかっただろうなーと悔しい気持ちになりました。
ウンカの被害にあってまったく収穫ができなくなるよりは、多少収量が減っても早めに稲刈りをしてしまおう! ということでしょう。
今まで何十年も田んぼをしていて、初めてウンカの被害にあった、とご年配の方がいっていました。また産山村より標高の低い地域のベテランお米農家さんも、「今まででいちばん苦労したし収量が少なかった」と、しょんぼりしながら話していました。
どんな作物も育てるのに自然の恵みを上手に使って収穫まで行います。ですが、自然とは天候や虫などすべてを含みます。地球規模の気候変動や環境の変化で、長年の経験値を超える出来事も多くなっている昨今。農業とは本当にリスクのある大変な仕事だなと、つくづく感じさせられました。
産山のお米っておいしい!!
それでもやっぱり毎年毎年この時期は、おいしい新米が食べられるとワクワクした気持ちになります。さまざまな問題の起こった今年でもそれは同じように思うのです。むしろ、例年以上に苦労されて収穫したお米だから、いつも以上にありがたみが増します!
「あー○○さんのお米も食べてみたいし、そして△△さんのお米もおいしいって聞いたよ!!」と主人が毎日通う地元の温泉でプチ情報を仕入れてきます。あまりインターネットで検索などをしない主人の情報源は地元の温泉です。
温泉で一緒になる地元のご年配の方々との会話のなかでさまざまなことを聞いてきたり、農機具を借りる約束をしてきたりします。私が初めて会うご年配の方に「あんたの旦那さんよく温泉で会うもんなー」と言われるほど。
ちなみに、わが家は産山村のお米を玄米で一袋単位30kgで購入し、毎度食べるたびに精米してご飯を炊いています。自宅で出る米ぬかは、たい肥に混ぜ入れます。お米のもみ殻は大量に運んできて自家製で燻炭をつくり、これも野菜畑の土に混ぜ込みます。
きれいな湧き水で炊いたお米と自分で育て収穫した大豆で作った自家製みそのみそ汁が、わが家の朝食の定番です。今ではすっかり慣れてしまって当たり前のように思いますが、ある意味とてもぜいたくな食生活です。
東京に住んでいた頃は、おいしいお米は東北産のものと固定観念がありましたが、こちらに来てからは熊本のお米も負けず劣らずおいしいんだとびっくりしたものです。
お水がきれいな産山村で、5月から10月くらいまで約半年間、田んぼでじっくり&たっぷりとお日様にあたって育ったお米がおいしくないわけはないのです!! 棚田で育った農薬不使用のお米や、鯉農法で育ったお米など、個性豊かな産山のお米たち。機会があったら味わってみてください。
(写真/産山村のホリエモン)
―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―
折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。