―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(26)]―
東京生まれ東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、元牛小屋のレストランを、たくさんの花でドレスアップして行ったジビエとワインの夕べをレポート。
たくさんの花束で華やかに変身したレストラン
私たちの「asoうぶやまキュッフェ」は元牛小屋です。トタンや古材を多用し、じっくりと時間をかけてレストランに変身しました。
店内には、熊本地震で解体するしかなかった家々の基礎の石を組み上げた薪暖炉。牛をつないでいたという木を削り出してつくられたパーツ。昔の大工さんが地元の木々を伐採してつくった立派な梁。古いシイタケ乾燥機を再利用した入り口の扉。ガラス窓から見えるレンガ積みの煙突。窓からは遠く白い空の中に見え隠れする祖母山…。
そんなキュッフェのいつもの空間がドレスアップしました!! 2月20日・21日に開催された「山の奥地のジビエ&ワインディナーat asoうぶやまキュッフェ」です。
太い立派な梁からこぼれんばかりの花やグリーン。アンティークのような美しい色調の大きなアジサイ、その色調を生かすための花々、繊細なグラデーションのグリーンにピリッとした印象を与えている草木たち。真下に立つと異空間に来たかのような圧倒的な存在感でした。
キッチンと店内を区切る一枚板のカウンターは、そこだけ一足も二足も先に春が来て、今まさに満開の花に満ちた花園のように飾られてライトアップ。お手洗いは天井からミモザの咲き誇り、なんともいえないいい香りのする小部屋に変身。
あちこちに飾られた花からいい香りがしてきます。まるで秘密の森の密やかなパーティのよう。お店の入り口にも春が来たかのようなお花たちが、風にゆらゆら揺れながらお客様をお迎えしていました。
ナチュールワインをつくる予定のブドウ畑も紹介
そんなすてきなデコレーションのなか、いよいよイベントが始まりました。ワインを紹介しサーブしてくれるとどろき酒店さん、イベントの主催者でもあるNOTE九州さん、私たちasoうぶやまキュッフェの紹介をひととおりすませ、それから向かうは山の中のブドウ畑。言わずもがな、ナチュールワイン造りを目指して育てている私たちの「ワイン用ブドウ」の畑です。
冬の時期のブドウはまだ眠っています。その冬の間に、数年先を見据えた剪定&誘引作業が行われます。今回ゲストたちに見学してもらったのは、そんな剪定後の背が低くなった地味なブドウ1300本の畑です。どの品種がこの土地に合うのかを確認するために、さまざまな品種が植えてあります。
ブドウ畑では、鍬で開墾した話やつくりたいワインの話をしました。冬にしては暖かい晴れた日差しの下、ブドウの冬の姿を見てもらいながら、いつかは冬の姿と全く違う夏の青々したブドウの葉や収穫の秋の姿も見て欲しいなと思いました。
熊本産の素材を生かしたコースディナーを提供
ブドウ畑を見学した後は再びお店へ戻り早めのディナーがスタート。料理は、ジビエはもちろん、宇城市の果樹農家さんのかんきつを多用したメニューでした。
柑橘の「はるか」の白い皮の部分を残したまま薪火でステーキにし、それをひと口大にカットしてトッピングしたそば粉のガレットは、わが家にとって印象深い料理です。
2年前に「ガレットを食べたい!」と思い、そばの種をまきました。採種して再びその種をまき、再度収穫したそばの実を石うすでゴリゴリと挽いてつくったという手間をかけたそば粉で、私も夫も「やっとガレットになったよー! 2年越しだよー!」と喜んだ非常に感慨深い一品なのです。
コース仕立てのメインは、イノシシを半頭まるまる薪火でじっくり5~6時間かけて焼き上げ、デコポンのソースを合わせた一皿。かんきつの甘味と酸味にデコポンの皮のほんのりとした苦味が、薪火でスモークされたイノシシの脂身によく合いました。
夕方からの早めのディナーでしたが、デザート&コーヒータイムには夜が訪れ、店内からも見える外の薪火台は薄暗くなると炎の存在感が増していました。
楽しくおいしいディナーの余韻に浸るかのように、知らない人々同士が炎を囲みながら楽しそうに会話をする様子は、見ていてうれしいものでした。
(動画撮影制作/エアカメラ)
折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。