―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(31)]―
東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、移住後のファッションについてをレポート。
畑仕事でもおしゃれしたいけど、現実は厳しい
最近、『人口6人の集落にたたずむ秘境レストラン』という見出しで雑誌に紹介していただきました。お客さまも遠くから来ていただくことが増え、周囲から見たら「落ち着いたね!」と思われがちな私たちですが、いえいえ、まだまだ。
移住したばかりの頃に「何年くらいしたら生活が落ち着くんですかね?」と聞いたことがあります。あまりにも毎日が目まぐるしく過ぎ、それもこれもして、あれもこれも必要。で、こことあそこをこうしないと!! という状況に追われる毎日だったから。
右も左もわからない田舎暮らしに加え農業。そもそもインドア派の私が、外で作業するときになにを着たらいいのか? そこからでした。オシャレ好きとしては、畑仕事でもオシャレしたい! と自分のなかで小さな葛藤がありました。
しかし現実は厳しく。虫に刺される問題や夏の汗だく問題や冬の激寒問題に袖口裾口の作業性の問題。そして毎日毎日の使用&洗濯に耐えられる素材&縫製でなければならなかったのです。
普段日常で来ている服を作業着にしたら、しばらくすると破けていたり裂けていたり。破けていてもいいか、と思って破けた服で作業すると、切れ端が機械に巻き込まれたりして思わぬけがや事故につながる…。そんな経験もしました。
プレゼントされる靴が5年前とは大きく変わった
たかが作業着とはいえ、絶対に誰にも合わない日の作業着と、ちょっと途中で人に合う予定の日の作業着は自分なりに区別があるのです。ツナギは人に会う時の作業着だったり、少しばかりの差かもしれませんが、帽子や靴にも違いがあります。
頭を守るものとして帽子というのも重要で、作業時には絶対に帽子をかぶります。冬は防寒の為にニット帽、夏は虫よけネットつきのハット、虫がいない時期でもキャップをかぶる。人に会うときはその帽子がオシャレ麦わらハットに変わります。
さらに、この暑い夏はいかに少しでも快適に作業できるのか! を追求。首に保冷剤をくるんだタオルを巻いたり、首かけ携帯扇風機を使ったり、冷感素材のものを着たりと工夫しています。
遠い目をしながら思い返せば…移住のキッカケとなった5年前の熊本地震。直前の誕生日には、セレクトショップでみつけた「日本の職人さんがつくったすてきな革靴」を夫からプレゼントしてもらいました。
ところが今はどうか…。最近、夫にまた靴を1足プレゼントしてもらったのですが、その靴はなんと、「スパイクつきの地下足袋」! その手の靴では珍しい女性サイズだったのです。
「女性サイズのスパイクつき地下足袋がなくってさ~探すの大変だったよ!」と、にっこり笑顔で渡されても…ときめかない!!!! プレゼントされる靴の変化がこの5年間を表しているのでしょうか。
ですが、斜面のブドウ畑の作業には必要なものなので、ありがたいにはありがたい。これで滑らず斜面を自由自在に動けるはずですし、長靴のように熱がこもらないので熱中症にもなりにくいはず。
落ち着いたほっこりした生活はまだまだ来ない
5年前、スパイクつき地下足袋の存在すら知らなかった私。移住直後の目まぐるしさに、私たちはいつ落ち着いた生活ができるのだろうか? と不安になり移住12年目の大先輩に冒頭の質問をしたのです。
返ってきた答えは「5~6年先じゃないかな?」。ええええええーっ!! 落ち着くのはそんなに先なのか!? それまではバタバタしっぱなしなのか!? と、おののいた記憶があります。
ところが、そんな5年はあっという間にやってきて、今年の秋には6年目に突入しようとしています。5年前の自分に「あなたは今落ち着いた生活をしているの?」と質問されたら今の私はこう答えるでしょう。
「移住直後より落ち着かない日々を送っているよ。でも作業スタイルは一人前になってきたよ!」と。
折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。