―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(32)]―
東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、移住先での計画についてをレポート。
僻地で開業したレストランも3年目。想定外の出来事ばかり
土日祝日だけオープンし料理を出すという、不思議な営業スタイルのお店を僻地に開業してから、この夏で丸々3年となりました。
お店のある場所は秘境レストラン・限界集落レストランともいわれるほど、まわりにはなにもない不安になるような細い細い山道の先です。小さなお店ですが里山に住む私たちが生活していくうえではメインの収入源となります。こんな癖地までお客さまが来てくれ、本当にありがたいことだなぁと毎回毎回思っています。
あっという間のその3年のうちの約半分以上はコロナ禍ではありますが。オープン1年目を終え、だんだんお客さまが増えてきてこのまま順調に売り上げも伸びるのかな? と思った矢先のコロナ禍。小さなお店なのでもともと多くはないテーブル数をさらに減らしての営業です。
やむを得ず休業した月もディナーをやめた月もあります。それでなくても雪の多い2月は冬季休業せざるを得なかったりもします。毎週末台風だったように記憶するような月もありました。災害警報のでるような豪雨も多く、せっかくご予約をいただいていたのにお断りをしなくてはならなかったことも少なくはない…。そんな感じのこの1~2年だったように思います。
まだお店を始める前、この場所での開店のための企画書とともにつくった経営計画を今見返してみても、本当に「絵にかいたもち」。今この現実とはかなり異なっています。育てているワイン用のブドウも当初の計画書によると、今頃200本のワインができるくらい収穫をしているはずだったのです。
経営計画になかったアナグマとの知恵比べ
ところがどうでしょう。現実はやっとこの秋に収穫が少しできるかな~どうかな~といった程度です。加えて、その貴重なブドウ、だんだん色づきはじめ、さぁ甘くなるぞぉーといった頃を見計らって、アナグマたちがやってきて3/4ほど食べられてしまいました。これは大ショック! ショックのあまり2人とも数日は気分が落ち込むほど(笑)
だが、落ち込んでいても毎日毎日、動物たちがやってきては食べていくだけ。これではいかん!と箱罠を仕かけることに(夫は罠の狩猟免許をもっています)。
アナグマはキャラメルコーンが好きらしいので、普段は買ったこともないキャラメルコーンを大量買い。いそいそと罠に仕かける。だが10日ほど経った今も箱罠にアナグマはかかってない…。村のご年配の方にアドバイスを乞うと「アナグマとは知恵比べ」という、なんともそのとおりな答えが返ってきました。
そして最近の経験者への聞きこみ調査によると、どうやらアナグマだけでなくイタチもいるらしいとのこと。いずれにしろ、想定外。来年に向けて対策を考えねば。
計画通りに進まないなら臨機応変に動けばいい
加えて、梅雨でもないのに夏の長い長い雨や豪雨、秋雨にしては長い雨に台風。そのたびに乗りきれるかなと心配だったりもします。開花の時期の長雨は受粉がうまくいかずに実のつきが悪くなったり、結実の頃の長雨は実が割れたり病気になったりと、ひよっこ農家には厳しい限り。
できることをしてもダメだったとき、そんなときは気持ちを切り替えて次のシーズンの準備に取りかかる。ダメだったことの次には、よかったことを無理やりでももってくることにしています。
動物たちに食べられてしまった残りのブドウは、低温で丁寧に乾燥してドライレーズンにしました。これがなんとも言えずおいしい!!!! ワイン用のブドウなので種もあるのですが、その種ごとうまい! ドライ・ピノノワールやドライ・ピノブランやドライ・ナイヤガラなどなど。ぜいたくでとってもおいしいワインの友が誕生しました。悪いことばかりじゃない。
コロナをはじめいろいろと想定外のことが起こるのが、この世の中。臨機応変にその時その時にベストと思えることを1つ1つ、なるべく楽しんでやっていくことが地味だけど大事だな、と最近強く感じています。
折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。