50代を目前にして、子離れを機に和歌山県那智勝浦町に1人で地域おこし協力隊として移住した堀良子さん。移住先の川べりで近所の僧侶が始めたという「テントサウナ」のことを教えてもらいました。
テントサウナの運営は元DJの禅寺僧侶
那智勝浦町に移住後、あいさつ回りをしたときに、ご近所に移動式テントサウナをしている方がいたことで、はじめてテントサウナの存在を知りました。でも、じつはこのエリアにテントサウナがもう一軒あったのです。
そのテントサウナを経営しているのは、なんと大泰寺という禅寺。民泊やオートキャンプ施設を設けるなど、重要文化財を有する1200年の歴史のあるお寺とは思えない斬新さと柔軟さ、さらにその和尚さんは元DJという異色の経歴で、地元でも有名なお寺です。
大泰寺のテントサウナは私の家から徒歩1分の太田川の河畔。太田地域は田園地帯で、太田川沿いに集落が点在しています。
川は水の透明度が高くきれいなのはもちろん、さまざまな生き物も生息しており、たとえば、ハゼ、アユ、ウナギにナマズ、コイにサンショウウオもいるとか。のびのび泳ぐ魚と川底に映る魚の影は、見ているだけでも癒されます。夏は仕事後のクールダウンに河原でひと休みを日課にしていました。
その大泰寺のテントサウナを初めて体験したのは8月末のこと。ご近所さんの計らいで、本来は営業時間外の朝6時、お試しサウナも地元の特権、ものは試しと、デビューすることになったのでした。
お試し当日はとにかくワクワク。「このあと大事な予定はないですか?」「整っちゃいますよ」と言われてますます気持ちは高まります。
「テントサウナ、すごい」無我の境地が待っていた。
テントを開けるとそこには別世界が待っていました。テントと思えない熱風で室内は鼻呼吸も痛く感じるほどの熱さ。玉の汗が吹き出るなか、熱さのせいか早朝のせいか、一緒に入ったメンバーみんなテンションが高い。一体感というのか、チームワークが生まれるような感じ。
「だんだんみなさん無口になってきますよ」と言われたけれど、第1ラウンドはとにかくみんなよくしゃべる。「ロウリュウ」といってストーブの岩石に水をかけることで、一気に熱風が舞い上がり、テンションと熱さもクライマックス!
クラクラしながらテントを出ると、目の前の川へ飛び込みます。自然に体は空を見上げて水に体を任せてしまう。水の音で全身が包まれ、水の音と青い空を五感で目一杯に感じる。全身がキーンとするのに気持ちよくって、頭の中は空っぽ。というか、「頭の中も感覚で満たされる」感じ。
気がすむまで水に浸ってから河原に上って寝そべり、大地に身を任せると、鳥の舞う景色を見ながら、水の音を全身で聞いているかのよう。「無」みたいにじんわりと体と頭の感覚を味わっている。
気がつけば2時間が経過。やってきた和尚さんに「テントサウナ最高です‼」と伝えると、「座禅をしているとよく、無我の境地について質問されるけれど、テントサウナに入った感じかなと言うと、知ってる人はみんな妙に納得するんだよねぇ」。た、確かに!
メンバー全員、はじめての無我の境地にすっかり虜となり、毎月末はテントサウナに決定となりました。
環境保全と観光資源を両立するテントサウナ
もともと大泰寺では、近隣の山林環境整備を始めていましたが、木の伐採だけで何十万円もかかるため、交付金に頼らず継続可能な仕組みを考えていたそう。そんなときに、東京にいる知人からテントサウナを勧められたことがきっかけで、事業として始めたとのことです。
テントサウナは薪を大量に使うので間伐材や大きくなりすぎて台風などで倒れやすくなった木の有効利用にうってつけ。自然環境の保全と観光資源の獲得につながる、まさにいいことづくめの取り組みになったとか。
会場にしている太田川は、深すぎず遊びやすいのに人が密集せず、ほぼどこでもプライベートリバーになり得る優れた場所。丸くてゴツゴツしすぎない石は寝そべるにも、テント設営にも向いており、なによりテントから10歩で川という環境も魅力的。
今後は禅寺ならではの、座禅とテントサウナの組合せや、テントサウナ周りでの物販、BBQや川遊び用品のレンタルなど、テントサウナを中心に川流域を盛り上げることを検討中と聞き、地域が発展する楽しい予感がしています。
<写真・文/堀 良子>
堀良子さん
2021年5月、和歌山県那智勝浦町に移住した独身アラフィフ。那智勝浦町の廃校活用と地域活性化のため、地域おこし協力隊員として活動中。一男一女は東京と台湾でそれぞれひとり暮らし。