―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(35)]―
東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、産山村の寒い冬についてをレポート。
冬は凍らせないために冷蔵庫を使用
真冬は昼間のうちに、夜と翌朝の気温をチェックします。マイナス4~5℃くらいの予報が出ると、わが家では慌ただしく準備が始まります。
まずは薪ストーブの薪を夜の暗くて寒い中に取りに行かなくってすむように補充。薪ストーブはすぐには部屋が温まらないから、温まるまで使う灯油ストーブにも灯油を補充。
そして寝る前にやることは、最初にキッチンへ。寒いから冷蔵庫に入れなくってもいいよね、って出しておいた野菜たちや食材を凍らせないために冷蔵庫へ入れます。そういえば、冬のオリーブオイルは固まってしまい湯煎してからじゃないと使えません。
さらに家とお店のキッチンや洗面所や外の水道の蛇口から、凍らないようにちょろちょろと水を出す。これがなんとも難しいのです。流す水が少ないといつの間にか凍って朝使えない。かといって、出しすぎると水音が寝ようとする耳についてうるさいし、水不足につながるのです。
そう!水不足!!
水が豊かな山村でも冬は水不足になる
驚くことに水が豊かな産山村が水不足になるのです。それも夏ではなく真冬。各家庭に数か所ある蛇口という蛇口からちょろちょろと水を出す時点で、急激に貯水量が減ります。
そこに追い打ちをかけるように、凍結によってどこかの水道管が破裂すると、真冬の水不足となる。あちこちからきれいな水が湧いている産山村ですが、一度貯水して各家庭に流れていく仕組み。使う量が貯水量を越えてしまうと水不足となってしまうのです。
寒くなる日は各家庭に設置されているお知らせ端末から、凍結注意と節水を呼びかけるお知らせが流れます。洗濯機の水抜きも忘れちゃいけない作業です、水が残っていると凍るので。
冬ならではのアクシデントも楽しみに変える
寒い寒い冬に温かいお風呂で温まるのは、とても楽しみなこと。なのに、ここ最近、わが家では入れない日が多発しているのです。
なぜか?? なんと原因は夫!! こんなふうに出来ごとは起こります。夫曰く…
お店のキッチンで作業しようとお湯を出そうとしたが出ない→水は出るのにお湯でないな~と思い蛇口レバー全開に→すっかり忘れ、そのまま畑作業のため店を出る→全開の蛇口は、日中に陽が出て管が温まりお湯がジャージャー出始める→給湯器中のお湯がなくなる→作業を終え夕方、冷えた体を温めようとお風呂にお湯を貯める→入ろうとする→冷たい→私に怒られる→数日後すっかり忘れて最初に戻る(笑)
夜間電力でわかす給湯器設定にしてあるので、気がついたときはすでに遅し…。その日はお風呂を泣く泣く諦めるか、近場の温泉に慌てて行くかです。
産山村にも温泉はありますが、それ以外にも家から車で30分圏内に数十か所の温泉がある温泉天国。感謝するのは、とくにこういうときです。
今日はどこ行く? 眺めのよいAの湯? のんびりできるB温泉もいいねー。あ! 今日はポイント倍のつくCの湯に行くか? などと気分や状況で選べるぜいたく。
寒くて嫌だなーと思う気持ちだけでなく、寒いからこそ起きるアクシデントも楽しみに変えられれば移住生活の上級者かも。
<写真/うぶやま在住カメラマン 石川氏>
折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。