農作業とレストラン経営。山村移住6年目は目まぐるしくも飽きない日々

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(40)]―

東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、6年目に入った移住暮らしについてをレポート。

平日農作業、週末はレストランと目まぐるしい毎日

花
育てているハーブ・ブルーマロウの花

 移住6年目も半年を過ぎ、最近の生活はどんなかというと…。

 平日は朝から晩まで農作業に全力で取り組み、土日祝日はレストラン「asoうぶやまキュッフェ」を営業。ランチが中心だけれどディナーも月に数回。不定なのは、2022年はワイン用ブドウ栽培に集中するために初夏からは1日のうちランチかディナーどちらかにしました。

 その合間にオリジナルのボタニカルティーやブーケティーをつくったり、商品開発チーム「ボタニカルウブ」の打ち合わせをしたり、経理作業をしたり、食育の会など村や地域の役割をしたり、注文が入ったときはブローチやアクセサリーなどの制作をしたり。営業する前日金曜や祝前日はほぼ1日、レストラン用の食材野菜などの収穫と整理、料理の下準備仕込みどに費やされます。どんな仕込みをするかリストアップしてから実際の仕込みに入るのです。

 春になり気候がよくなってきてからは畑作業に追われ、晴れた日中は畑作業をしないのがもったいなさ過ぎて料理の仕込みができず、陽が暮れてから夜中まで仕込みをすることも増えました。

 畑では、6月の栽培中のものだけで野菜やハーブは合わせて35~40種類。年間を通すと100種類近くなるのかも。そこにワイン用のブドウの木が10種類ちょいで1700本。化学肥料不使用、 農薬不使用で取り組んでいる野菜づくりとワイン用ブドウの栽培なので、丁寧な作業が必要です。とくにワイン用ブドウは、今年は300kg弱の収量を目指しているので今まで以上に神経質に念入りに(?)お世話をしています。毎日毎日気合を入れてペットボトルでつくった虫入れを手に虫退治に行き、その都度必要な手入れを繰り返していく。

ブドウ
2021年のブドウたち

 たとえばある1日を詳しく書き出してみると…。

 土日は朝5時から草刈りに出かけ、家に戻ってきて7時に朝食。8時からはお店営業の準備に取りかかる。12時からお客様を迎え、営業を終えたら片づけをし、まかないをさっさと食べ17時すぎからブドウ畑の虫退治や誘引(成長してほしいように支柱やワイヤーにテープで固定する)や余分な脇芽や葉や蔓(ツル)の整理などに向かう。

 暗くなりかける19時くらいまで畑にいて、陽が沈む前に慌てて家に戻り愛犬の散歩に出かける。そこからお風呂だの夕食だのをすませて、元気ならばお客様ノートを記入したり、さらにハーブやお花を乾燥させる作業やハーブティづくりに取りかかる。そしてぐったりと疲れきって布団に潜り込む。

 平日も朝に愛犬の散歩がさらに追加。そして、お店の営業が畑作業に入れ替わるだけで、あまり変わらない日々。

 こんなにやらねばならぬ事が続々と出てくる日々なのに、もう嫌! 辞めたい!と思うことはなく、不思議と毎日が楽しくあっという間に過ぎていきます。野菜の育苗していたり野菜の日々の収穫があったりするので、丸々1日出かけたり留守にしたりすることが難しい季節。そんな野菜たちを置いてまでどこか遠くに出かけたい強い気持ちもわいてこない…。

気分転換は温泉、毎日眺める風景に感動

阿蘇
のんびりとした阿蘇の風景

 ちょっと疲れて気分転換したいときは、近場のいくつかの温泉からお気に入りを選び入浴しに行きます。とは言っても不安がまったく生まれてこないわけではありません。眠れない夜だってある。不安がムクムクとわき起こったときは、なにが不安に思う原因となっているのかちょっと考えてみる。すると大抵は面倒だからとか苦手だからと後回しにしていたことがイライラや不安の発生している原因だったりする。

 そこで思いきって、えいっ! と手をつけてみると、あっけなく片づいたりするもので。そんなこともあり毎日少しずついろいろなことをして流れが滞らないように工夫しています。

 また、山の中のブドウ畑での作業中、手元ばかりを見つめていた目線をふと見上げると阿蘇の山々や九重の山々が見る。それは、毎日見ているのに見るたびに「すごくすてきなすごい場所だなー」とつぶやくほどの風景なのです。

畑
何もなかった斜面に1本1本植えたブドウの木

 毎週、レストランでコースの〆のデザートの材料に使う「山の息吹」さんの牛乳を受け取りに行くときも、帰り道で路肩に車を止めて、素晴らしい景色についつい見とれてしまうことも多々あります。何度も何度もその美しさを写真に撮ろうとするのだけど撮った写真を見るとガッカリしてしまうくらい、その美しさは映っていません。

 農作業やレストラン、商品開発などに追われる忙しい日々でも、そんな日常を取り囲んでいる雄大な唯一無二のこの風景があるから、すべてがよし! と思えるのかもしれない。

 阿蘇の産山村に実際に来てもらい、この景色や空気や広がりを眺めて感じてほしい。そんなきっかけに「asoうぶやまキュッフェ」がなってくれたらうれしいなと思いながら一生懸命に野菜やハーブやブドウを育てている移住6年目の日々です。

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―

折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。