阿蘇の地熱でレーズンを試作。地熱乾燥施設は意外な場所だった

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(45)]―

東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、地熱を使った温泉ワインレーズンについてをレポート。

地熱乾燥で温泉ワインレーズンに挑戦

暖炉
冬のレストランは暖炉の暖房が欠かせない

 ある日のこと。「これさーワイン用のブドウでつくってみたらいいかもね!」と、ワインを飲みながら夫と2人でひらめいたのが地熱を利用したレーズン(レーズン=ドライブドウ)。

 キッカケとなったのは、そのときに食べていたいただき物のドライイチジク。パッケージをよーく見てみると地熱を利用し乾燥させているとのこと。産山の近隣の地域での活火山の阿蘇の地の利をいかした商品にワクワクし、早速プレゼントしてくれた生産者さんご本人に連絡を取りました。

「本当にあの温泉の地熱でみずみずしいイチジクが乾燥するんですかー?」「どのくらいで?」「ブドウも丸ごとできますかね?」「どんな仕組み?」などなど、興奮気味に聞く私に1つ1つ丁寧に教えてくれながら最後に、「場所を紹介してあげるから試作してみる?」と。もちろんお願いします!!!と即答しました。

 そして約束したある日、地熱乾燥の場所に連れて行ってもらいました。想像していたのとはだいぶ違い、なんだか事務所みたいなスペースの部屋。そこに置かれているのは5~6段くらいある大きなパイプでつくった棚。

入口
事務所?のような入り口

 棚の各パイプに高温の温泉のお湯が流れているという仕組みだそう。部屋の中の温度も息苦しくはなく、少し蒸し暑いかなというレベル。外につながる窓も少し開けてあり扇風機も回っていました。

 こんなところでみずみずしいイチジクやブドウが本当に乾燥するのだろうか?と思ったくらい。ですが、実際はいたるところで高温をキープする工夫がなされていたようで、手の甲をうっかり棚のパイプにあてたら、うっすらと軽い火傷をしてしまうぐらいでした。

カリカリしたレーズン。実験としては成功

ブドウと豆トマト
実験はブドウと豆トマトで

 棚にブドウを並べ24時間放置。ワクワクしながら見に行くと、なんと! 小さなブドウは乾燥しているではないか! すごい。一緒に実験で置いてみた豆トマトも乾燥している。

 ここで引き上げてもよかったのですが、今回は実験なのでどのくらいでカリカリになるか? カリカリになったらどんな味なのか? と更にもう24時間放置してみました。

 翌日、楽しみに見に行くと、そこにはカリカリになったブドウが。きれいな黄緑色だったブドウは茶黒く変色しカリカリ。手で触ると乾いた少し高音の涼しい音色のカリカリ音がする。口に放り込んで食べてみるとブドウの味もないくらい乾燥し、きれいに皮だけが残っている状態でした。

 もちろんレーズンとしての商品価値はないのですが、カリカリっぷりの実験としては最高の結果となりました。

温泉ワインレーズン
温泉ワインレーズン。パッケージなども色々試行錯誤中

 自然の地熱を利用したものなので毎日温度の変化があるうえに、同じ棚でも置く段や手前や奥などの位置によっても温度に違いがありました。窓の開ける大きさや、扇風機を使う使わない、風の向き、何段目に置くか、そんないくつかの条件のかけ合わせで乾燥度合いが変化していく。きちんとした商品になるには、もうしばらく実験や経験が必要でしょう。

 でも、そんな環境の揺らぎを商品化するのは手間でもあり、楽しみでもあります。名前だけは決めた『温泉ワインレーズン』。自家栽培ブドウの自家醸造ワインを温泉ワインレーズンで乾杯するのを近い目標に寒いなか、畑作業を黙々とする2023年の冬です。

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―

折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。