山村移住して7年目。自分たちのブドウ畑のワインがようやく完成

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(47)]―

東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、完成したワインについてをレポート。

畑の開墾から始めたブドウを初収穫

完成ラベル
完成したワインラベル

 2023年4月で熊本地震から丸々7年が経ちました。
 まだまだ落ち着かない生活をされてる方々の心休まる日が1日でも早く来ることを願って過ごしています。たびたびこの連載でも書いてきていますが、私たちの生活は熊本地震をきっかけに大きく大きく変わりました。

 東京生まれの横浜育ちの私が、コンビニも信号もない村のいちばん奥で農作業をしながら、日々さまざまなことと格闘しながらも楽しく暮らしているなんて。地震前の私には想像すらできませんでした。

ラベルいろいろ
いろいろなラベルデザインを検討していた

 地震で死にそうな目にあった私たち。「ここで死んでもいいと思える場所で生きたい」私と、「自分でブドウを育てて自然なワインづくりをしたい」夫が阿蘇産山村へ移住。

 農薬不使用、化学肥料不使用、固定種在来種にこだわった野菜やハーブをつくりはじめ、自作の野菜とジビエを使ったレストランをオープン。それと同時に、ナチュールワインを自分たちで造りたいと山間部の斜面を自力で開墾し、ワイン用のブドウの苗を植えて育て。

 最初は300本。毎年数百本ずつ増やしていき、合わない品種や枯れてしまったものを抜いたりして、今は約1500本。2022年の秋、4~5年生のブドウの実の初収穫をしました。

ブドウの選定
収穫したブドウをワイン用に選定

 まだ自前の醸造所もなく、よって醸造免許もない私たち。収穫したブドウを福岡のワイナリーさんに持ち込んで醸造してもらったので、うぶやまキュッフェのブドウからの初ワインは委託醸造ということに。

 そんなさまざまな工程を経て、先日やっと私たちの初ワインが到着しました!!!

ワインの名称は『もうすぐ虹が出る。』

完成ワイン
完成ワイン『もうすぐ虹が出る。』

 うぶやまキュッフェブドウの委託醸造初ワインは『もうすぐ虹が出る。』と名づけました。降っていた雨が止み、少し気持ちが上がって空を見上げたら虹が出る。そんな予感をはらんだ空気感をワインにまとわせたのです。

収穫ブドウ
収穫したブドウ

 デザインワークは産山村在住のデザイナーで自然時計デザイン室の通称・ホリエモンと数か月かけて取り組みました。ワインのネーミングのアイデア出し、自家醸造所ができたらどんな名前にするか、ラベルデザインのアイデア…。ときには好きなナチュールワインの生産者さんの話をしたり、ブドウを食べる害獣の話をしたりしながら、何度も何度もじっくりと時間をかけて話し合い、とても大事な物つくりの時間でした。

支柱建て
開墾した畑でのブドウ用の支柱建て作業

 委託醸造とはいえ、自分たちの数年間が詰まったブドウで醸造したワインを目に前にするとなんとも言えないさまざまな思いがこみ上げてきます。

「ワインつくるぞ!」と言いながらもホントにできるのかな? と、ふと弱気になる瞬間もあり。でも実際に『もうすぐ虹が出る。』ができ、並んだワインを目の当たりにすると「本当にできたんだ!!」と笑みもこみ上げてくるような…悲喜こもごもな思いが。

 熊本地震の後、夢みたいなことも口に出して まわりに言いまくって 今できることを1つ1つやって チャンスがやってきたら迷わず行き、少しでも迷ったら無理には進まず、ふわっとでもいいなと思ったら進む。先の長い、そんな移住7年間でした。

 まだまだ終わりはなく、今は自家醸造を目指すべく、醸造所の完成と醸造免許の習得に向かって少しずつ進んでいます。

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―

折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。