深夜に「ギャーハッハッハッ」熊本の山村に響き渡る害獣対策の音

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(49)]―

東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、雑草や害獣との闘いについてをレポート。

雑草の成長が早く、苗が負けることも

虹
激しい夕立のあとは畑の上に虹が出ることも

 標高600~1000mある産山村にも暑い夏が今年もやってきました。標高が高いので朝晩は涼しい。だが、やはり日が昇るとぐんぐん気温も上がる。それでも、盆地であり車も人もエアコンの排気熱も多い熊本市内に比べたら、5℃以上は違います。

 そして梅雨の雨もスコールみたいな雨も、ひと降りするたびにぐんぐん雑草が成長します。asoうぶやまキュッフェの畑は、農薬不使用はもちろん化学肥料不使用で、自作の落ち葉たい肥と燻炭と木灰だけを入れて野菜を育てている畑。そして固定種在来種の種を基本的には使用しています。

 それゆえ? だから? 雑草の成長に対して、野菜たちの成長ののんびりさといったら、それはもうスローで、マイペースで。自分たちが選択した栽培方法だけど、ときどき苗が雑草に負けてしまい、ため息が出ることも…。

 と思いきや、野菜やハーブの種類によって旬はあっという間に来てピークを迎え、野菜が大量に実り収穫に追われることがあったり。

 この旬の時季の大量の野菜たちは、おいしいうちにさまざまな形で加工されます。あるものは塩漬けにされ、あるものはピクルスになり、またあるものはソースやペーストになる。これまた手間ひま、時間がかかる。

 さらに種を取るために畑に残した野菜からは、花が咲き種がつく。種がついたら種取作業です。暑くて湿度の高い時季は、野菜やハーブの根元が蒸されて痛まないように手刈りでせっせと草刈りをするのですが、広い敷地は1週間も経てば、最初に草を刈った場所がすでに草ぼうぼうに。めげても仕方ないので、ときどきさぼりながらも草を刈っています。

ブドウ
ハウス内のワイン用ブドウ

 初夏の時期の農作業は、野菜のほかにワイン用ブドウのお世話がメインに。朝も昼も夕方も時間を惜しんでブドウのお世話をする時間が増えます。

 脇芽を取ったり、虫を取ったり、ブドウの実の花カスを刷毛でとったり、ブドウの実に傘掛けしたり、一番上のワイヤーまで到達した枝をカットしたり。1300本弱のブドウの木のお世話に明け暮れています。ワインをつくると言うと華やかなカッコイイ風に思われがちだけれど、ワインづくりはしっかりと農業なのです。

「おいしいワインはいいブドウから」。基本的なことだけれど、先人の言葉を忘れないように自分に言い聞かせています。

害獣対策に新たな機材を導入

愛犬
愛犬はおっとりとしていて害獣駆除には役に立たない

 そんな風にせっせと畑仕事をしている、とある日、またもや畑に不審な侵入者の足跡が! 去年の害獣との熱い戦いが頭をよぎりました。

「出た!! イタチかアナグマか!?」

 あぁ今年も知らないうちに、またもや奴らとの熱い戦いの火ぶたは切って落とされていたのだった! くぅっ!

秘密兵器
秘密兵器登場

 今年の我々の秘密兵器は、「ギャーハッハッハッ」「どんどこどんどんどこどん」「ワンワンワン」「ギョーギョーギョー」などと、なにかが近づくとセンサーが働いてさまざまな音がランダムに出る害獣対策の機材。

 効果のほどは未知ですが、まずは家に隣接しているワイン用ブドウのハウス周りを重点的に囲むように設置しました。

 設置してしばらくたったとある日の出来事。「そこ通ったら、なんか気味の悪い声が聞こえちょるなぁ。びっくりしたー!」と言いながら、お隣の高齢のお母さんがゆでたトウモロコシをぶら下げながらやって来ました。旬の野菜のおすそわけです。そして、その後ろにはお隣のかわいい飼い猫がトコトコくっついて来ている。

「あれれ?? 動物は嫌がるはずなんだけどなぁ」と猫を見ながら思う私。

 まぁそういえば、我が家の愛犬も散歩の行き帰りに「これはなんだろうか?」といった顔で、平然と前を通り過ぎていた! 嫌じゃないのか!?

防風ネット
今年は防風ネットもつけた

 夜中にふと目が覚めると「ギャーハッハッハッ」と馬鹿笑いが外から聞こえてくる。害獣よけの機械の音が人口6人の静かな夜の限界集落に響き渡っています。

 夜風で動いた草に反応しているのか? 野良猫に反応しているのか? はたまた本当にイタチやアナグマに反応してくれているのか? どうなのか!?

 さてさて、はたして効果は出るでしょうか? 出ないのでしょうか? とにかく、無事に収穫までたどり着けますように。
 努力しながらも祈る日々が始まりました。

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―

折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。