熊本の山村レストランが6年目に。自家製ワイン醸造所も許可申請中

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(50)]―

東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、6年目を迎えたレストランについてをレポート。

自家畑の野菜と阿蘇地区のジビエでつくる料理

うぶやまキュッフェ

 2023年の夏、asoうぶやまキュッフェは5歳になりました。小屋感をたっぷりと残しつつ元牛小屋を古民家再生の大工さんと改築したこのお店。熊本県阿蘇郡うぶやま村の端っこ、大分県との県境に位置するこのお店が丸々5年。

 なんとも感慨深い…。お店の窓から見えるお隣さんの家の住所は大分県。その大分県のお隣さんの家のむこうには、大分と宮崎の県境の山、祖母山(そぼさん)が見える、そんな場所です。

 私はこの景色がとっても好きで、いつもいいなぁと思ってみています。季節や天気や時間によって、窓から見える景色は常に変わっていくのです。

プレート

 店で提供している料理は、自家畑の「キュッフェ畑」で栽培している野菜やハーブと阿蘇地域の良質なジビエを使ったコース料理。メニューが限られているのに、日本全国いろいろなところから、こんな僻地に来てくださっています。お客さまには、「ここまでわざわざ」という毎回の驚きとともに、本当に本当に感謝しています。

 5年前は、オープンに向けての改築工事をするのに精いっぱいで「とりあえず完成すること!」が目標でした。年月が過ぎた今は「やっぱりここはこうしたらよかったね」という部分を少しずつ改良しています。

 たとえば、店の窓から見える外の場所にたき火をたける焼き場をつくったり、簡易的な折り畳みテーブルに木の天板を乗せただけだったテーブルをきちんとしたものに買い替えたり、畑に出られるドアに虫よけの網戸を取りつけたり。

お店の入り口

 定期的に来られるお客さまは「なんかテーブルが変わった?」とか「あー網戸がついたの?」などと少しずつ改良されていく様を一緒に楽しんでもらっているようです。

醸造免許を待つ間に自家製ワインの名前を決定

醸造所
許可を待つワイン醸造所

 そんな私たちはオープン当初から「いつかワインをつくろうと思ってワイン用ブドウを育てているんですよねー」とお客さまに話していました。

「へぇーどのくらい植えているの?」とか「何年で収穫できるの」「気候は合うの?」などよく聞かれました。そんな会話の〆はいつも「自分たちの育てたブドウでワインを醸造して飲めたら最高ですよね!!」でした。

 そして6年目に突入するこの夏、ワインを醸造する準備が整いつつあるのです。いろいろな醸造関係の方々とお話し、見学させてもらい、教えてもらい、助けてもらい、協力してもらい、あと一歩の状況まで来ました。

 幸いなことに産山村のある阿蘇地域はワイン特区を取得しています。通常は酒類製造免許を取得するには2000本以上醸造が見込める必要があるのですが、特区では免許が下りれば数本の醸造でもよい(※ただし自身の飲食店か宿泊施設でのみ提供可能)。まずはこの特区の免許の申請をし、今は許可が下りるのを待っています。

 免許は書類提出後、税務署の酒税担当の視察→国税局の視察→その後13人強のチェックを経て問題がなければ無事に下りるそうです。ほかにも建物の消防のチェックや保健所のチェックもあります。

 まだ実際には免許は下りていませんが、醸造所の名前は決まりました。

「原っぱワイン」

 産山村のクリエーターのホリエモンと考えました。草原が広がる産山村のイメージと、草生栽培をしている原っぱみたいなキュッフェ畑のイメージと、なんとなく気の抜けたのんびりとしたイメージが浮かぶ名前。

 その名前が出たとき、その場にいたメンバー全員がいっぺんに気に入ってしまったほど。原っぱワイナリーじゃなくって原っぱワインというのもしっくりきます。

 さてさて今年の秋に収穫するブドウでワインを仕込めるのか!?  間に合うのか? またもやドキドキする6年目に突入した夏の終わりです。

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―

折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。