移住した熊本の山村でワインづくり。初めてのブドウ収穫は暗闇の中で

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(51)]―

東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、初めてのワイン醸造についてレポート。

おいしいワインのため、夜明け前にブドウを収穫

収穫
日が昇る前、暗闇の中での収穫

 2023年、ついに「原っぱワイン」という名前の自前の醸造所が完成しました。

 そして醸造の許可が下りて間もなくの2023年9月某日の朝5時、真っ暗な暗闇のブドウ畑で収穫作業がいよいよスタート! 作業をお願いした数人の頭にヘッドライトが光る、夜明け前の暗闇のなかでした。

 基本的に2人1組となり行う収穫作業。早朝に収穫するのは、気温が上がる前に収穫を終え、温度管理された空間で仕込みを始めたかったからです。昼間より気温が上がる早朝のほうが、香りも品質もよい状態を保ちやすい。なので、ブドウを夜明け前に収穫するナイトハーベスト(ワイン用のブドウを夜間に収穫すること)は特別なことではありません。可能ならばそうするのがベストかも。

 消毒ずみのカゴを乗せた台車を使いながら収穫をしていきます。たちまち「わぁ大きい!」やら「ちっさっ!」などの声が、ブドウの木と木の隙間からあがっていました。

 まだまだ若いブドウの木、実がついている枝もついていない枝もあります。そして、実がついたのに何者か(たぶん小動物)によって食べられてしまった木も。約1200本のブドウの木ですが、収量は極端に少ないです。それでも、「あのとき植えたあの苗木からブドウの実がなって収穫できている」というのは不思議な気もするし、しみじみとうれしい。

 2時間弱で2~4品種のブドウの収穫が終わり、その頃にはうっすらと空が明るくなって、ヘッドライトがなくてもお互いの顔が見えていました。

気心の知れた仲間と丁寧なワインづくり

まかない
炊き込みご飯のおにぎりや漬物

 平地と山の中のブドウ畑で、第一弾の収穫が終わりました。その後、皆でおにぎりや漬け物でわいわいとまかない朝ご飯です。今回の収穫作業は気心の知れた仲間たちと行いました。

 というのも、収穫する人の手の感触や会話や笑い声もブドウに合わさって、ワインづくりの大事なエッセンスになるに違いない!と信じているから。

 私たちが目指しているワインづくりは、ブドウに着いている天然酵母だけで加糖をせずに発酵させるつくり方。ブドウ以外のモノはできる限り使わずにやってみたい。だからこそ初回の収穫は、普段から畑のお手伝いをしてくれている気心知れたメンバーや身内などを中心に少人数で楽しく行ったのです。

タンクへ
タンクの中にブドウの実を投入

 朝ご飯の後、すぐにブドウについている雨よけの虫よけの紙の傘や袋をはずし、カビたり傷みすぎている実を一粒ずつ外していく選別作業をします。

 次に適温に管理された空間に選別したブドウを運び込み、枝から実をはずす手除梗(てじょこう)という作業をします。これが思っていた以上に時間がかかる…。単純な長時間作業も、皆のちょっとした楽しい会話があれば乗りきれます。

タンクの中
枝から外されたブドウの実

 その手で外したブドウの実をハンドプレスの中に入れていきます。ハンドプレスの機械は手動で少しずつ圧をかけて果汁を絞る。一度に一気にではなく、少しずつ自然の圧に近い感じで絞っていきます。本当に少しずつ少しずつ10時間くらいかけて絞るのです。

 結局、絞りが終了し果汁をステンレスタンクに入れ終え、片付けが終わったのは日づけが変わったころ。朝の収穫からおよそ20時間です。

 やっと記念すべき、第1弾収穫&仕込みの長い長い1日が終わったのでした。

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―

【折居多恵さん】
雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。