厄介者セイタカアワダチソウをハーブティーに。熊本県産山村の女性たちの試み

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(52)]―

東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、大分の県境にある熊本県産山村(うぶやまむら)で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は、ハーブティーづくりについてレポート。

新聞でセイタカアワダチソウのハーブティーが紹介される

熊本日日新聞
熊本日日新聞2024新年号第3部より

 元旦の新聞は分厚い。いつもの記事に加えてお正月の華やかさを盛り上げるようなさまざまな記事、そして企業からの新年のあいさつなどで誌面はあふれんばかり。

 その元旦の新聞に「厄介者ハーブティーに」という見出しで、私たちのセイタカアワダチソウのハーブティーづくりが紹介されたのです。
 それも顔出しで。新聞なので、今さら言いたくもない(笑)年齢がばっちりと記載されていました!! ハーブティーづくりをしているメンバー全員分…新聞特有のなんとなく細部までは見えにくい荒れた画像の写真にほっとする私たち妙齢の3人分が…。

ハーブティー
セイタカアワダチソウのハーブティー

 セイタカアワダチソウを使ったハーブティーづくりは、私を含む産山村の女性3人からなる『プラスボタニカルウブ』というトリオの活動のひとつ。要注意外来生物に指定されているセイタカアワダチソウの花など、季節の植物を使ってボタニカルティーをつくり、産山村の名産品にしようという試みです。

 私の住む阿蘇地区は、火山によってできあがった特殊な地形、放牧と野焼きによって維持される草原という世界的に見ても特殊な場所。この特別な景色が見たくて季節ごとにたくさんの観光客が訪れます。

 この風景に魅了されて移住した人々も少なくはない。なにか便利なものや環境を手放してでも、この景色のなかで生活してみたい、と思わせる魅力が阿蘇の大自然にはあります。

セイタカアワダチソウ
セイタカアワダチソウ

 そんな場所に住む私たちの日々の営み。時代と共に変わっていくことも変わらないことも、さまざまなことが混ざって今この生活があります。この土地ならではの特徴的な植物・野草や樹木たちと私たちが一緒になりつくったのが、「トキメクものづくり」をコンセプトに草やハーブを使ったボタニカルティーなのです。

 地元の新聞に取り上げられたのは、とてもうれしかったです。大きな力ではありませんが、そんなちょっとしたことがきっかけとなり、産山村の草原や森林からなる里山風景を思い浮かべながら「いつか産山村へ行ってみたい」と思ってもらえるなら、これまた最高。だから、ものをつくって売るということを通して、この阿蘇の魅力や植物たちのストーリーを届けたいのです。

農業コンクールで優良賞を受賞

表彰式の様子
表彰式の様子

 また、2023年にはプラスボタニカルウブのチームとして農業コンクールの「地域能力部門」で有難いことに優良賞をいただきました。

 熊本県農業コンクール大会とは、熊本県の優れた農業経営などをたたえる、今年64回目を迎える歴史ある大会です(熊本県、10農業団体、熊本日日新聞社主催)。大会総裁は蒲島郁夫県知事で、表彰式には人気者くまモンもステージに登場。たくさんの人に囲まれた表彰式の緊張も、くまモン登場で和らぎました。

 事前の審査として書類提出と現地でのプレゼンがあったのですが、私たちは産山村の屋外で青空プレゼンをしました。

 畑で木の切株に座り、ハーブティーを飲みながら青空の下で行う、とても開放的なプレゼン。畑にいるヤギの「メエ~メへへへェ~」やニワトリ「コケコッコーォォォォー」の声にさえぎられたりしながら、緊張もほどけ、にぎやかでほがらかな時間を共有できました。

プレゼン時のテーブル
プレゼン時のテーブルの一部

 もちろん私たち3人の力だけではなく、役場の方々含め多くの方のご尽力あっての結果なので、大変感謝しています。だれかとなにかを組んでするのが苦手とブツブツつぶやいていた3人がチームとなり、苦手ながらもバタバタと、わからないことだらけで悩んだりつまずいたり、助け合ったりしながら進んできました。

 そんなふうに必死でちょっとずつ進めてきたプラスボタニカルウブの4年間の活動。今まで進むのに精一杯で振り返るような余裕はありませんでしたが、このプレゼンのための資料づくりは立ち止まって振り返るよいキッカケとなりました。

 移住当初は、あまりにも毎日がバタバタしていてつい「いつになったら落ち着くんですかねぇ?」と聞いた移住の先輩からの答えは「6~7年たてば落ち着いてくるよ」でした。そう聞いて待ちこがれていた移住7年目。その終わりから8年目に突入する、落ち着いていない新年の冬の出来事でした。

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし]―

折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。