―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(6)]―
東京生まれ東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチのシェフである夫とともに、熊本と大分の県境の村で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落で、忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。《第6回》
講師の依頼があり、うぶやま手芸部が発足した!
「以前のお店でしていたみたいに、ハンドメイドの先生できる?」
と、移住してきてすぐの冬にあった話。どんなことをしたら楽しいかなと考えた結果、20人ほどを対象に、産山村にある植物をメインで使い、クリスマスリースをつくることに。これが産山村に移住してきて、初めての手芸講師でした。
その後もぽつぽつと手芸講師の依頼が村からありました。
たとえば、産山村の子育て支援の一環で、保育園でママさん対象にヘアアクセサリーやブローチづくり。保育園での手芸部は、子どもたちは保育士さんが見てくれるので、ママさんたちはつくる作業に集中。
初めて訪れた保育園にて、村に若くてかわいらしいママさんたちが、思っていたよりもいるんだー!とびっくりしたことを覚えています。私も自分の日常生活では交流しにくい方々とお話でき、顔を覚えてもらえるチャンスでもありました。
そして、子育ての困ったことや孤独感などを少なくしていける場になれば、という子育て支援に手芸部が役に立つことは素直にうれしかったー!
また変わったところでは、産山村主催の婚活イベントでのリースづくりの講師も。男女2人1組でリースをつくってもらいました。無事に何組かカップル成立してホッとしたものです。なんとも不思議な雑貨クリエーターという肩書もこんなふうに役立ち、人生おもしろいものだなと思いました。
講師を始めてしばらくたってからのこと、村の教育委員会から生涯学習講座をやってもらえないか?と相談が。少しだけ考えましたが、喜んで引き受けました。
そして、2018年11月~2019年2月までの期間で手芸講師がスタート。期間は4か月、隔週で月に2回の計8回、名付けた講座名は「うぶやま手芸部」です。
告知は、産山村の各家庭に備えつけられてるお知らせ端末と『広報うぶやま』。人が集まるのかな…と、ドキドキしながら締めきりを迎え、結果、定員10人のところ、応募が多く15人まで増員しました。さらには、キャンセル待ちも出たので、欠席者が出た場合は連絡をしてその方たちに参加してもらうことに。
うぶやま手芸部のモットーは「簡単でかわいい!」
難しくなくオシャレなものが完成する。技術を習得していこうという教室ではなく、なにかをつくるということを楽しいと思ってもらう、そんな入口になればいいなぁと工夫を凝らしました。モットーは、「簡単でかわいい!」。
全員がつくれる、実際に身に着けたり使えたりできる、どこかしらに新しい知識や驚きを得られる、規定の材料費内で収まる、2時間でちゃんとしたものが完成できる、を自分自身の課題にしました。
難しかったのは20代~80代までの幅広い年齢層に対応することでした。年齢によっては手が動きにくかったり、細かいところまで見えなかったり、力が弱かったりします。
実際に始めてみれば、そういった方にはなるだけ近くに座ってもらい、つきっきりで教えたり手伝ったりして完成。つくるのが上手な人には、お隣さんに教えるミニ先生になってもらいました。
1時間半から2時間ですてきなものをつくる。そのためには事前準備がかなり必要となってきます。逆算して2時間で終わるところまで準備してつくりこんでおく。なにが大変っていうと…材料の調達です。
手芸材料屋さんはもちろんのこと、町ではたくさん見かけるコンビニですら1軒もない産山村(信号も1つもないですよ)。となると、さまざまな材料調達はネットでの買い物が中心となります。予算が限られているため100均も併用しつつ。
家で使ったり飾ったりできるように、なるだけ季節に沿ったものを取り上げました。太い毛糸を使った指編みでのネックウォーマーや、産山の草花を使ったクリスマスリースや、ミニしめ縄やミモザ刺繍ボタンなどなど。
その日の素材に関する話やつくるときの基本的な考え方、すてきに仕上げるためのちょっとしたポイントなどをきちんと伝え、スタート! 見本どおりにつくってもいいし、自分の好きなようにつくってもいいのが私の手芸部です。
顕著なのがリースづくり。こちらで材料はセットしておくものの、皆さん自作のドライ花や木の実をたくさん持ち込み、交換したりあげたりしながらつくっていくのです。
手芸の講師をしながら、村生活の生徒になる時間
講師の私は、使いたい素材をどんなふうに使いたいのかを聞きながら、じゃあ、こんなふうにしたらさらにすてきになりますよ、とアドバイスします。各自アイデアがふくらみ当初の予定よりも豪華なリースができあがります。
ミニしめ縄の回では畳の上に座り込んでつくり、最終回のゆずポマンダーづくりは創作しながらお菓子や自作の漬物を皆でつまみ、今までつくったものの感想をみんなで言い合ったり。どの回も、楽しく過ごしました。
「本当に毎回、毎回、楽しみにしてました!」「来年もあるなら参加したい!」などの声をいただき、とてもうれしかったです。最終回を終えて、毎回毎回の事前準備は大変だったけれど、引き受けてよかったと、思いました。
そして、この野菜はどんなふうに食べるの? このお漬物のレシピは? 買い物行くならどこがいい? 山菜はどこに生えてるの? などなど、私は村生活の生徒に変身し、おばあちゃんの生活の知恵的な話をたくさん教えてもらいました。
生涯学習講座の講師をしながら、私が生涯学習を受けたようなぜいたくな時間でした。そんなうぶやま手芸部。この冬も2019年11月~2020年2月の期間で、再び始まりました!!
―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(6)]―
折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手おもちゃメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストラン「Asoうぶやまキュッフェ」を営んでいる。