―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(55)]―
東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、大分との県境にある熊本県産山村(うぶやまむら)で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は毎年恒例のアナグマとの闘いについてレポート。
今年は早かったアナグマの登場
「あぁ~またそんな時季かー!」と思えるくらい、アナグマとの闘いは毎年の恒例に。私たちが営むレストラン「asoうぶやまキュッフェ」の周りの畑には、ぐるりと電柵を張り巡らせて、電流が弱くならないように電柵の下の草はこまめに草刈りもしているのに、今年もヤツらがやってきた! そして今年のヤツらはいつも以上に妙に手ごわい。
5月の終わり頃、自家採取した種から育てた夏野菜の苗を畑に定植しはじめました。苗の周りには、刈り取った野草で表面を覆い、保温や雑草防止に役立つ「草マルチ」を実施。
翌朝、畑の見まわりに行くと、ほじくり出され根っこがむき出しで倒れている野菜の苗たちが。あちらこちらに土を深く掘ってある穴がいくつもいくつも開いているのです。
太陽が昇って苗が枯れてしまう前に、と急いで苗を植えなおす作業。「なんかまた動物かなー。登場が早いなぁ」と話した次の日の朝。またまた堀かえされて倒れている野菜の苗たちが…。
どうやらミミズをほじくり出しては食べている、アナグマが毎日来ているようなのです。
「asoうぶやまキュッフェ」の畑は農薬&化学肥料不使用。野菜苗の根元もビニールで表面を覆うビニールマルチは使わずに、野草などの草マルチにしています。その草マルチは化学肥料を使わずとも、時間はかかりますが豊かな土になってくれるのです。
それゆえ? 太くてぷりぷりしたおいしそうな(あくまでもアナグマ目線です)ミミズがたくさん土の中に。アナグマにしてみたら「さぁてと、今晩もおいしいご飯(ミミズ)を食べに行くぞー!! いえぇい!!」なんてつぶやいて、電柵のどこからか入ってきているに違いないのです。
苗を掘り返してしまうアナグマたち
おとなしく苗以外のところの土をほじくる分には大目に見ても、苗をほじくって倒してしまうのは困るのです。というのも、夜のうちに根っこまで掘り出されてしまった苗たちは、そのままでは日中の日差しで乾燥してカラカラになり枯れてしまうし、植え直しても成長が遅れてしまいます。
寒い時季に種まきをし、落ち葉たい肥の発酵熱を利用し保温し、覆いを開けたり閉めたりの温度管理をして、発芽し成長してきたらポットに移し、毎日水やりをし大きく育ててから畑に定植する、という作業。
そんな作業を経て、これからノビノビ成長するぞー!! とか、やっともうすぐ収穫! と、思っていた矢先にほじくり出されてカラカラになるとはあまりにもひどい! やりきれない。
私たちの冬から春先にかけての毎日のお世話が無になってしまう!!
今年は登場の時期が早かった、早すぎる。ヤツらは毎日毎日電柵を潜り抜け、大好きな(はず)のキャラメルコーンをエサに仕かけた箱罠にもかからず…あの「ぎゃははーははー」と音の出る害獣よけも無視し、ピカピカ光る青いライトも踏み倒し、ひたすらミミズをホジホジしてはグルメな食事を楽しんでいるようなのです。
そんななか、あるディナー営業の日、お客さまを見送った後に振り返るとそこにヤツがいた! 私たちにびっくりし、そのまま排水のU字溝に逃げ込んだ後ろ姿がちらっと見えました。(くぅぅぅ〜いるのに捕まえられない!くぬぅ〜排水溝だとぉ!?)
早速、電柵の外から畑に通じる排水溝にネットでフタをしてみました。これで明日の朝入っていなければここが侵入路だ、と思いきや…また翌朝掘られた跡が残念ながらありました。
もうすぐ9年目に突入する移住生活。さて、私たちは強敵アナグマ捕まえられるのでしょうか…?
折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。