北海道札幌市で生まれ石狩市で育ち、東京や中国・天津市でもさまざまなキャリアを積んだ後、2021年の暮れに北海道天塩町へ移住。現在は地域おこし協力隊として活動する三國秀美さんが、日々の暮らしを発信します。今回は、天塩町の花でもあるバラ科のハマナスを紹介。
ハマナスのジャムづくりでスローフード体験
7月になると、北海道の花であり天塩町の花でもあるハマナスが、あちこちで咲き乱れます。私は石狩市で育ったのですが、こちらも市の花はハマナス。道の花に選ばれた理由として、北海道のホームページに「純朴、野性的で力強い」とありますが、ハマナスをうまく表した表現であり、人気がある所以ではないかと感じます。
砂地に咲き、強風にも耐えるハマナスは枝のトゲの印象が強く、私は小さい頃から苦手でした。これまで近寄って花を見たことはなかったのですが、ここでの生活を通じ、色鮮やかに咲くハマナスに秘められたパワーを学ぶことができました。
今回、ハマナスジャムのレシピを教えてくれたのは郷土料理が得意な地元の女性、伊藤千枝子さん。勇んで種のかき出しをお手伝いしようとすると、早速「待った」がかかりました。
「種をかき出すだけじゃだめ。実と種の間にある毛状の繊維も取らないと、口当たりがよくないの。種の処理をしていると顔や腕に毛がとんでチクチクするのだけど、それは仕方ないわね」。さすが、伊藤さんの豊かな経験値にはいつも驚かされます。
実が熟れていないと甘味に欠け、熟れすぎると糖で種と実がくっつき、うまく種をかき出せません。ギリギリの赤さと固さで実を見分けます。種を取ったらしっかりと水洗いして、下ゆで。裏ごしして皮の固い部分を取り除き、砂糖と合わせて煮詰めながらジャムの完成を待ちます。
「糖度は30%から50%で。ペクチンとして使ったレモンをそのまま入れ、食べてもいいの」。なるほど、朝の食事がおしゃれになりそうです。
アイヌ民族がハーブティーにして飲んでいたハマナス
2024年7月、名寄市において「薬用植物フォーラム2024」が開催されました。薬用植物栽培技術の普及と向上を図るため、関係者が交流する場として今年で33回目を迎えたとのこと。コロナ禍のオンライン開催も含め、筑波研究部のあるつくば市で開催されることが多いようですが、今年は名寄市開催となったため道内在住者にとっては出席しやすくなりました。
私がとくに身を乗り出したのは、北海道文教大学の山岸喬先生による「アイヌの薬用植物とその使い方」という講話、先生の解説による研究センター薬用植物観察会でした。
先生のお話によると、秋田県立図書館蔵の「胡地養生考」というアイヌの医療記録のなかに、ハマナスの花のハーブティーを朝夕飲み、それが水腫病あるいは壊血病に有効という記述があったとのことでした。当時、長期の航海や冬の野菜不足によるビタミン不足は深刻だったのです。
「もっとハマナスの栽培を増やすべき。脂肪代謝の異常を修復する作用も研究結果で得られた」。山岸先生による熱弁が続きました。
市販品は入手困難なハマナスのジャム
手づくりジャムをつくると、市販品を味見してみたくなるもの。先日、オホーツク海に面した紋別郡興部(おこっぺ)町の「道の駅おこっぺ」で手に入るという情報を得て行ってみましたが、販売されていませんでした。お店のスタッフによると「1年以上前からもう店頭には並んでいません」とのこと、ハマナスのジャムはかなり手に入りにくいということを知りました。
足を伸ばした紋別市でも、市販のジャムは見つかりませんでした。ですが、立ち寄った北海道立オホーツク流氷科学センターでちょっとおもしろい標本を見つけました。一年じゅうハマナスが鑑賞できるよう、氷に閉じ込められています。暑い日に見ると、涼しい気分になれそうです。
<取材・文・写真/三國秀美>
【三國秀美(みくにひでみ)さん】
北海道札幌市生まれ。北海道大学卒。ITプランナー、書籍編集者、市場リサーチャーを経てデザイン・ジャーナリスト活動を行うかたわら、東洋医学に出会う。鍼灸等の国家資格を取得後、東京都内にて開業。のちに渡中し天津市内のホテル内SPAに在籍するも、コロナ感染症拡大にともない帰国。心機一転、地域おこし協力隊として夕日の町、北海道天塩町に移住。