―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(57)]―
東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、大分との県境にある熊本県産山村(うぶやまむら)で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は収穫期に襲った落雷と台風についてをレポート。
移住して最初に開墾した畑がめちゃくちゃに
ある夏の日、雷がブドウ畑に隣接して生えている大きな杉の木に落ちました。大きな杉の木は縦にパッカリと割れブドウ畑にズドーンと倒れこみ、ブドウの木を20本ほど折り倒したのです。
支柱やワイヤーも倒れて切れ、電柵のワイヤーも切れていました。簡単にいえばブドウ畑のその一面はめちゃくちゃになっていました。
8年前に移住してきて、最初にクワでコツコツと時間を掛けて開墾し耕したあの畑。ブドウの木が折れたこともショックが大き過ぎて、しばらくはその畑を見るのも辛かったほど。杉の木の持ち主さんがいるので、私たちはとりあえず今年はその畑はもう手をつけないことにしました。
今年は動物だけじゃなく台風も収穫の敵に
そんな落雷事件と並行しつつ、今年もさんざんアナグマやイタチなどの動物とブドウを巡る攻防戦を繰り広げていました。
日々アナグマとも地味に闘いつつ、なんとか第一弾の収穫まであと5、6日に迫ったある日のこと。日本に接近していた台風。ずっと予報では九州には上陸しないといわれていました。
その台風がなんと大きく大きく進路を変えて九州に上陸するというではないですか!? ホントに? しかも勢力は強いのに進行速度は自転車並みって…。信じられずいくつもの天気予報のアプリをチェックして、また何度も何度も確認してもやっぱり九州に上陸するようなのです。
夫とふたり、それぞれ携帯電話でアプリを眺めつつ、「どうする?」「どうしよう?」と心配がグルグルと頭の中を巡ります。
山の中のブドウ畑は強風によって実がついた枝が折れるかもしれない。自転車並みの速度で何日も何日も高温のまま強い雨が降り続けたら、熟したブドウが腐敗してしまうかもしれない。腐敗した実には、カビや病気が発生するかもしれない。またそのにおいに誘われて虫や動物たちが集まるかもしれない。
一方で、屋根だけのビニールハウスを設置したブドウ畑は、防風ネットを張っても屋根を開けなければ壊れてしまうかもしれない。屋根を開けたら熟し始めたブドウの実が水分を過剰に含んで割れるかもしれない…。
問題はたくさんある、心配事もつきない。さぁどうする? どう判断する?
急いで収穫、発酵。そしてアナグマ対策
さんざん考えて迷って考えて考えて出した答えは、早いけれど台風上陸前に第一弾収穫予定にしていたブドウを収穫してしまおう! でした。通常収穫のタイミングはブドウの状態(糖度や酸)と天候と人手の確保などの状況を考えつつ決めます。どこかひとつだけを優先して決めるのはあまりおすすすめされません。が、今回は仕方なし!やってみよう!!という結論に。
そうと決めたら早速人手を確保し、ワイナリーや使用材の最終清掃などを準備。翌朝5時から収穫をし、夜中までハンドプレスで絞りステンレスタンクへと移しました。予定よりも収穫が早いため、未熟な粒や房もあるので、その分丁寧に選別作業を行うことにと手間がかかります。
今年は第一弾収穫の赤ワイン用のブドウを白ワインのつくり方で仕込もうと考えていたので、それがプラスに働いてくれることを願いつつ作業を進めました。今はステンレスタンクの中でゆっくりと発酵してもらっています。
第二弾収穫は、10日後に実行。台風が過ぎった後の収穫までの間も、動物たちは毎日毎日畑に入り込んでいました。
蚊取り線香に仕込んだ爆竹に自分たちが驚かされたり、害獣よけの機械が「ギャーギャーハハハハハ」と叫ぶ声を聞きながら害獣に食べられるブドウの心配をしたり…。なんとなく寝不足の日々は収穫完了まで続きました。
結局すべてのブドウの収穫を終え、ワインの発酵も落ち着いた頃…熟してポトッと落ちる柿を食べにやってくるアナグマを狙って、柿をエサに箱罠でやっと3匹捕獲。これで今年の闘いは終了したのでした。
【折居多恵さん】
雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。