産山村の牛小屋を改装したレストラン。海外からのお客さま対応に四苦八苦

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(58)]―

東京生まれ横浜&東京育ち、田舎に縁のなかった女性が、フレンチシェフの夫とともに、大分との県境にある熊本県産山村(うぶやまむら)で農業者に。雑貨クリエーター・折居多恵さんが、山奥の小さな村の限界集落から忙しくも楽しい移住生活をお伝えします。今回は外国人のお客さまへの対応についてレポート。

日本語が話せない海外からの予約

日本ミツバチが小さく描かれているレストランの看板とコスモス
日本ミツバチ入り看板とコスモス

 この秋、大事件が起きました。それはasoうぶやまキュッフェに、とうとう日本語が話せない海外のお客さまがいらっしゃる‼ ということが。今までも海外のお客さまは来られていましたが、日本語を話せる同行者が料理の説明も訳してくれていたのでした。

 以前、東京の代官山で古着や雑貨を販売するお店をしていた私。海外で買いつけをしていたので、さぞかし格好よく英語で交渉するのでしょう、 といわれていましたが、まったくそんなことはなく…。当時は会話を想定したメモをつくったり、筆談やジェスチャーをしたり、現地の友人たちに協力をしてもらったり。必要な数字と最小限の言葉のみと気合で値段交渉をし乗りきっていたのです。

 とにかく英語が苦手で苦戦した過去をもっている私に、海外のそれも日本語が話せないお客さまからの予約。さぁ、どーする⁉ という状況に…。

準備は数か月前から。イラストで料理を説明

手描きのイラストが書かれているメニュー
自分で描いた手づくりイラストメニュー

 今回は数か月前に予約をいただきました。その段階からお互いに翻訳アプリを駆使してやり取り。メールだからこそできるワザ!

 平日は畑作業をしているので、土日祝日のみオープンしているレストランなのですが、そのお客さまは、なんと! 土曜日のランチ、日曜日のランチと、連日来てくれるというのです。1コースしかないので同じメニューを2回! それも連続で⁉

 私の翻訳のミスからの勘違いではないかと何度も確認しましたが、「あなたのお店に行くための旅だから、連日同じメニューで問題ないよ」とのこと。わーお!

 うれしいながらも、さて、複雑な料理の説明をどうやって伝えたらよいのか? ほかのお客さまへのサービスも同時進行のなかで、どうしたら楽しんでもらえるか?と考えました。結果、「そうだ!! コース料理のイラストを描き、それに翻訳アプリで調べまくった英語の説明文を添えて用意したらいいかも!」と思いついたのです。

 畑作業や力仕事に明け暮れ、自分でも忘れていましたが、一応、美大出身の私。しかもよーく知っている料理や野菜なので、イラストを描くのは本当に楽しくてあっという間でした。

翻訳アプリとほかのテーブルのお客の助けも借りて

皿に盛られたソバの実のリゾットと鹿肉の煮込み
ソバの実のリゾットと鹿肉の煮込み

 そして恐る恐る迎えた当日。

 やってきたのは、フレンドリーな人柄と食に対する豊富な知識をもっているお客さまでした。翻訳アプリの会話でコミュニケーションをとり、自前のイラストメニューで料理を理解してもらえたようです。楽しく過ごしていただき、心の底からホッとしました。

 迎えた2日目はラッキーなことに、ほかのテーブルにいた語学が堪能なお客さまが助けてくださったのです。お陰さまで前日には伝えきれなかった細かい事柄をたくさん伝えてもらえました。

 おいしい食や楽しい空気は、さまざまなハードルを超えてあっという間に共有されるのだなと思いました。私たちのつくる野菜やワインたちが生み出してくれた世界で、来てくれた方々が喜んでくれる。その結果、私たちが楽しめているなんて最高にぜいたくだなと実感した2日間でした!

 牛小屋だったこの場所を最初に見に来たときもコスモスが満開だったな、と思いながらお客さまを見送った8年目の秋の出来事でした。

―[東京のクリエーターが熊本の山奥で始めた農業暮らし(58)]―

折居多恵さん
雑貨クリエーター。大手オモチャメーカーのデザイナーを経て、東京・代官山にて週末だけ開くセレクトショップ開業。夫(フレンチシェフ)のレストラン起業を機に熊本市へ移住し、2016年秋に熊本県産山村の限界集落へ移り住み、農業と週末レストランasoうぶやまキュッフェを営んでいる。